奇妙な問いかけ
――国を出る。
それはまさしく、私自身が考えていたことであり、実現不可能なことでもあった。
「よろしいのですか?」
私が名前をなくしても、この王城に留まる理由。それはこの城で最も優先される姉の望み、だったからだ。
姉は私と――というより、家族と一緒なら王城に行ってもいいと竜王陛下に言った。
それ故に、私たち家族は高位貴族として、また姉の家族としてこの王城に滞在している。
「……振り回した自覚はあるのよ」
姉は小さく苦笑した。
「あなたはここではずっと悪い意味で私の妹、だわ」
「スカーレット様……」
……ああ、なんだ。
姉は私のことを考えてくれていたんだ。
もしかしたら、この国で姉だけが――私のことを。
「明明後日、私は竜王陛下と結婚するわ」
「そうですね」
「その日ならきっと、動きやすいと思うの」
姉は、馬車の手配とこの国の外……隣国での私の生活を保証するとも続けた。
「レナード陛下や他の者たちにはちゃんと後で私から説明するわ。だから、何も心配しなくて大丈夫。身の回りのものは、あなたが隣国に到着後にすぐに運ばせる」
「わかりました。ありがとうございます」
……姉の気遣いに涙がでそうだった。
あれ、でも――。
「出立は、結婚式の日でよろしいのですか?」
もちろん、私は親族だから姉の結婚式には出席することになる。それに、姉だって主役だ。
忙しいのにわざわざその日が動きやすいとは、どういうことかしら。
「ええ、あなたは結婚式は欠席していいわ。あなたは、陛下のこと……あまり好きじゃないでしょう?」
「!」
……私の竜王陛下に対する恐怖に、姉は気づいていたのだ。
「……その」
「隠さなくて大丈夫よ」
姉は小さく首を横に振る。
「私にとってはこの世で一番愛しい人だけれど――それとあなたがどう思うかは関係ない。だって、レナード陛下の番は私でしょう?」
「……スカーレット様」
少女のように姉は柔らかく微笑んだ。
「だから、大丈夫。あなたはあなたのことだけ、考えて。きっと隣国では幸せになれるわ」
◆◆
(スカーレットの侍女視点)
「……これで。これでいいのよね……」
様子のおかしなスカーレット様に首を傾げる。
竜王陛下とその番のスカーレット様の結婚式まであと3日。
幸せの絶頂にいるはずのスカーレット様は、なぜか青ざめた顔でぶつぶつと呟いていた。
「スカーレット様、いかがなさいましたか?」
スカーレット様、麗しい我らが竜王陛下の至宝。憂いがあるなら、それを取り除いて差し上げたい。そして、いつものように花の様な笑みを見せて欲しい。
それはきっとこの王城の誰しもがもっている感情だ。
「……いえ、なんでもないの。ねぇ――」
スカーレット様の髪を結っていた私を、鏡越しに見つめられる。
スカーレット様の黄がかった赤の瞳は、まっすぐにこちらをとらえていた。
「私は、だれ?」
……奇妙な問いだ。
それでも、その問いで憂いが取り除けるならと、詮索せずに答えてみせる。
「あなたは、スカーレット様。竜王陛下の番にして、まもなく花嫁となられるお方です」
もしかしたら結婚式間近で、不安になられたのだろうか。
竜王陛下のご寵愛は、番たるスカーレット様にしか向けられないのに。
「そうよね。――ありがとう」
スカーレット様は私の言葉に満足そうに頷いた。そこには、もう先ほどの青ざめていた姿はどこにもない。凛とした、竜王陛下の番様がいた。
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