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運命の番の妹様は、溺愛されて幸せです!~今更、私が番だったと言われても困ります~  作者: 夕立悠理
二章

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傲慢なまでの(レナード視点)

「愛してる」

 囁いた甘い言葉。

 それは本心であり、誓いだった。


 だって、私はそのために生まれてきた。

 君を愛するためにこの世に生を受けたのだから。


「はい、私も……あなたを愛しています。レナード陛下」

 返ってきたのは、私と同等以上の心が乗った言葉。

 これ以上なく甘美な愛が私の心を震わせる。


 そうだ、何も間違っていない。

 たった一つでありながら、私の全てである君。君が私の手中に収まって微笑んでいる。


 その眼差しは、私だけに向いていた。

 脇目も振らず、私だけを映し出す黄色かかった赤の瞳。

 赤く染まった頬も潤む瞳も愛らしい唇から漏れる甘い言葉も。


 全ては私の望み通りだ。


「愛しています、あなただけを」


 ーーずっと欲しかった。

 周りなんて見向きもせず、ただ自分だけを希ってくれる愛しい番。


 神の国で見染めた私の番。私の幸い、私の全て。


 ーー全てを手に入れた今、私の心は満ちていた。


「きみ、は……」

 黄色がかった青の瞳。

 スカーレットとは違い、いつも怯えしか映らないその瞳。

 その瞳を見るたびに、ひどく心が掻き乱される。

 怯えしか浮かんでいないのが、気に入らない。

 それはきっと番の妹である彼女が私たちの仲を認めていないように思われるからだろうか。


 それでも関係ない。


 番と私の婚姻は、決定している。

 肉親の反対などなんの枷にもなり得ない。


「…………」

 避けるように逸らされた青の瞳に、私の居場所はない。


 ーー全てが私の手の中にある。

 それなのに、なぜか足元が崩れ落ちるような感覚がする。

「違う……そんなはずはない」


 咲き誇る花の甘い香りとは、比べ物にならないほどの強烈な芳香。身体中の細胞がざわめき、歓喜に震える。

「違う……」


 そうでなければ、おかしいのだ。

 辻褄が合わない、道理に合わない。


 だって私の番は私を愛している。どこまでも、真っ直ぐに、私だけをその瞳に映している。


 拒絶などするはずもない。


 では、この衝撃の解をどうすれば良い。どうすれば、辻褄が合う?


 いつも怯えてこちらを見ようともしない番の妹。城内で話題に上ることもなく、ただ息を殺すように立っている彼女に抱いた衝動。


「ああ、なんだ。そうかーー」


 誰しも顧みられなければ、寂しく、悲しい。

 そうであるならば、目立つ場所にいる存在を疎ましく思うこともあるのかも。

「ーー低俗だな」


 よりによって最良の日の直前に強行に及んだのは、愚策としかいいようがない。

 泥を塗るなど許すはずがない。だって、番と私の結婚式には、雲一つ相応しくない。全てに祝福されて然るべき日なのだから。


 糾弾のために部屋を訪れると、体調不良だと侍女にあしらわれる。

「……そんなに気が引きたいのか?」

 低俗だ、と思う心の他に、なぜか安堵があった。


 彼女の心は間違いなく私を見ている。そうでなければ、気を引く理由がない。

 だから、今、謝れば。

 私が好きだと、愛しているのだと、だからスカーレットが妬ましかったのだと、そう告げさえしていれば。


 ーー私は、君を。



◇◇◇


「私が……殺した?」


 何を言っているんだ。

 私が告げたのはあくまで国外追放だ。


「愛しい番は生きている」


 目の前の女は、小さく笑う。

「そうだといいですね」

 怯えきった黄色がかった青の瞳とは違い、どこまでも恋の熱に浮かされた赤の瞳。


「恋も愛も永遠ではないのですよ。特に、優しい子ならなおさら」


 ーー優しさは、時に残酷ですもの。


 囁かれた言葉が絡みつく。

 すべてを虚言と切り捨てたいのに、指先が鉛のように重い。


「特別以外は切り捨てるあなたを、あの子は理解できない。だって、あの子は優しいから。あなたが惹かれた優しさゆえに、あの子はあなたを愛さない。……ふふ、皮肉ですね」


 ーー愛さない。


「…………」


 思い浮かぶ青の瞳に熱はなく、拒絶が浮かんでいた。

 それでもいい。そばにいればきっと伝わる。私の愛が、私の誠意が、君の生まれた意味が、私の意味が。


 ーーだから、目の前の女の言葉に耳を傾けることに意味はない。

 わかっているのに、何一つ声にならない。


「ねえ、陛下」


 毒のように、女は囁く。


「気持ちよかったですか? 欲しい言葉をもらうのは」


 くすくすと笑い声が反響する。


「心地よかったですか? 自分だけがその瞳に映るのは」


 うっとりと細めた瞳は赤く、私の求めるものではない。

「そうでしょうね、わかります。だって、私もそうだから」


 吐き気がする。相手の返答も求めず、1人で話を続けるこの女を、番だと認識してしまった私自身にも。

 偽ったこの女にも。



「でも、大丈夫です。あなたの傲慢なまでの自己愛も保身も、ぜーんぶ、大丈夫。だって、私はそんなあなたを愛しています」


いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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