とある怪談話②
●某巨大掲示板オカルト板『地元の怖い話しようぜ』より
俺の友達が呪いを実行したんだ。
そいつのことはOにしとく。
Oは中学のときから好きな娘がいて、彼女を追いかけて高校を決めたぐらいなんだけど、二年になってその彼女が誰かと付き合い始めたんだ。
それでおかしくなった。
呪いのやり方を聞いたんだけど、なんかよくわからないことを言っていたな。
場所がどうとかこうとか……で、俺をそこに招待したんだ。
そこっていうのは、地元で有名な心霊スポットっていう噂の廃屋。
いまはここに書き込んでるけど、その頃の俺はオカルトとかそんなに興味がなかった。
たまに怪談話の動画を聞いたりするぐらい。
だから単純に、怖いところとか汚いところとかに行きたくなかった。
そもそも、そこに行くことで呪いがどうとかに巻き込まれることになるんだろ?
バカらしいし、気持ち悪い。
Oは俺だけじゃなくて、他の奴にもその心霊スポットに行こうって誘ってた。
彼女と付き合い始めたっていう彼氏にも。
でも、みんな断った。
当然だろう。
中学生じゃないんだ。
うちは進学校だし、住居の不法侵入なんてやるわけがない。
やるわけがないんだよ。
だけど、気がついたらみんなでその家の前にいた。
「さあ行こう」
Oが言うと、俺たちは勝手に足が動いて家の中に入っていくんだ。
止められないんだ。
見た目はきれいだけど、空気は埃臭かった。
靴のまま廊下に上がると、「お前あっち」「お前はそっち」とOに指示された部屋に入っていくんだ。
そうして一階の部屋が全て埋まって、俺と彼氏だけがOに付いて行って二階に行った。
「お前はその部屋」
Oに言われて、俺は階段を上がってすぐの部屋に入った。
子供部屋って感じだった。
埃を被った折り畳みテーブルの上に灰皿があったから、たぶん成人してたんだろうな。
いまはいないけど。
残った彼氏と二人で、Oはなにをする気なんだろうか?
ぼーっと部屋の真ん中に立ったまんま、俺はなんかやばい、逃げないとって考えていた。
だけど体が動かない。
前後の繋がりがおかしいから、きっとこれは夢なんだとも思っていた。
でも、夢じゃなかったら?
夢にしてはなんかリアルに感じられて、だけどここにいることはリアルじゃなくてって、わけがわからなくなっていたらドアの向こうからOの声が聞こえてきた。
「じゃあ、いまから始めるぞ〜」
始める?
なに言ってるんだと思っていて、はっと思い出した。
「百数えたら、鬼が順番に探しにいくから、ちゃんと隠れてろよ〜」
その時になって、思い出したんだ。
あいつが考えた呪いの方法。
ひとりかくれんぼって知ってるだろう?
一人で人形とかくれんぼする奴。
あれを改良して、独自の呪いを編み出したって。
呪われた家で、大勢でひとりかくれんぼを行って、一人ずつ捕まえて……それで人形の呪いの力を強めていくんだって。
それで、最後の部屋にいる彼氏を呪い殺すんだって。
そんなのに誰が付き合うんだよって思ったけど、まさか強制参加させられるなんて思わないじゃないか。
逃げないとって思うんだけど、なぜかその気持ちのまま部屋の中で隠れる場所を探したんだ。
動けるようになったんだから、廊下に飛び出して逃げればいいと思うかもしれないけどさ、ドア越しにずっとOの声が聞こえてくるんだよ。
ずっと、ドアの前に立っているみたいな声で数を数えてるんだよ。
怖くて外に出られなかったよ。
壁の向こうや床の下でゴソゴソとかバタバタとか音が聞こえてくる。
きっとみんな、隠れるところを探しているんだと思った。
俺も隠れないとって慌てたよ。
クローゼットの中に隠れようと思ったけど、開けてみたら荷物をどかさないと入る隙間もないし、ベッドの下も狭いしで、結局、布団に包まっているしかできなかった。
布団の中はカビ臭かったし埃臭かったし、知らない奴の臭いも残っていたしで最悪だった。
「〜〜百」
Oが百を数え終わった。
途端に周りが静かになった。
Oもなにも言わなくなって、ただ、廊下を歩く音だけが聞こえてきた。
その音は一階に向かっているようだった。
そうだよな。
二階の奥にいる彼氏を呪い殺すのが目的なんだから、一階が先になるんだよな。
足音が一階に行ったから、俺は少し安心して布団から頭を出して、音に集中した。
一階でも廊下を歩く音は続いていたんだけど、どこかのドアを開ける音が聞こえたら、足音が聞こえなくなった。
どこかの部屋に入って探し回ってるのか?
だとしたら、もしかしなくてもいまが逃げるチャンス?
そう思ったんだけどさ。
「ひっ」とか「うわああ!」とか「やめてくれ!」とか、聞こえたからすぐに布団の中に戻った。
誰かが見つかって、なにか酷い目に遭っているんだってわかった。
本当にかくれんぼをして鬼が探しているんだとしたら、鬼はOでいいのか?
それとも、ひとりかくれんぼみたいに、人形を使っているのか?
どちらだったとしてもそれは一人見つけるごとに、なにか力みたいなものを強くしてこっちに迫ってくるのか。
だとしたら、最後から二番目の俺は気持ち的にかなりしんどい思いをすることになる。
そう気付いて最低な気分になって……いや、やる気になった。
布団に潜っているだけなんてすぐに見つけられるんだから、自分の番が来る前に逃げ出してしまおうって、覚悟を決めた。
部屋から出たら、階段を駆け降りて、玄関目掛けて走る。
そう決めてドアの前に立ってノブを掴んで、一回深呼吸してからノブを回した。
開いた。
飛び出した。
階段までの短い廊下をバタバタ走り、半分滑り落ちるようになりながら下っていった。
それで、玄関にまで辿り着いたんだけど、ドアが開かないんだ。
ノブをガチャガチャやっていると、背後から俺の名前が呼ばれた。
「ダメだろ〜、隠れてないと」
反射的にそっちを見て……Oがいると思ったのに、そこには誰もいなかった。
いや……違う。
いるんだ。
廊下の奥の暗い場所に、掌ぐらいのサイズの人形が。
ゲーセンで手に入るアニメキャラのぬいぐるみみたいなのがそこに立って、こっちに歩いて来てるんだ。
「まぁでも、隠れる場所を変えるのもかくれんぼかもね。どっちでもいいけど、どっちにしろ……見〜つけ」
Oの声の人形がそう言っている途中で、背後で爆発が起きた。
その音が本物だったのかどうかはわからないけど、とにかく俺はそこで気を失った。
それで次に気がついたら、自分の部屋のベッドの上だった。
夢オチ?
だったらいいんだけどさ。
次の日からOは学校を一週間休んだ。
で、戻ってきたら体重半分になったんじゃないかってぐらいに痩せこけてたよ。
なんか、謎の高熱が出て入院してたんだってさ。
それで、これも不思議なんだけど、彼女への気持ちとか恨みとか、そもそも呪いがどうとか言っていたことを、全部きれいに忘れてた。
彼氏?
彼氏はもちろん元気だよ。
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