白杖と変態とカツ丼
堂城さんの冷たい威圧に耐えられなかったよ。
結局、姉が異世界転生して僕の部屋とアイテムボックスで繋がっていることを説明させられた。
ちょっと前にバレないように斜九字の虹丸と話を合わせたことも無駄な努力となってしまった。
無駄なリスクを背負わせただけになってしまったのだろうかと、この前の真白みたいに内心で落ち込む。
そして堂城さんは異世界転生物を読んでいないことが判明した。
いや、そんなもんだろうけどね。
というわけで異世界転生とはなにか、アイテムボックスとはなにかに付いて説明し、それを理解してもらっている間に2時間目の授業が終わってしまった。
教室に戻ったのは小休憩の時間。
教室のみんなの視線が、なにか痛い。
だけど堂城さんは鉄壁の無視で対抗。
強い。
僕は地味に事情を聞きにくる男子たちに「親戚トラブルがあってちょっと」と口を濁すことにした。
完全に秘密にするより「話せるところだけ話してもらえた」っていう方がみんなが納得するっていうことは理解できた。
そして放課後。
問答無用で堂城さんところの高級車に放り込まれて我が市営住宅に到着。
「っ!」
うちにまで移動していると息を呑む気配がしてドアが閉まる音がした。
お隣さんだ。
「尾羽くん、早く入りましょう」
「あ、うん」
さっきまでウッキウキだった堂城さんがスンとした表情でそんなことを言うので、なにかを察した僕は大人しく従うしかない。
そっかぁ、お隣だったのか。
全然覚えてないな。
「お帰りなさ……」
お出迎えしてくれた人型の真白の言葉が堂城さんを確認して止まる。
「ただいま真白!」
「ふんぐっ!」
学校では絶対に見られないハイテンション堂城さんに抱きしめられ、真白は変な声を漏らす。
「な、なんでお母さんが……」
「ごめん、真白、バレた」
「えええっ!」
「それで尾羽くん! そのアイテムボックスとやらはどこ⁉︎」
「ああ、こっちだけど……」
と、僕の部屋に案内する。
「莉菜さん!」
叫んで僕の部屋に入っていく堂城さん。
ちゃんと、僕以外は入れていないって説明はしているんだけど……堂城さんは部屋の前で一度だけ立ち尽くすと、迷うことなくアイテムボックスに通じる壁に突撃し、そして派手に額を打ち付けていた。
いや、僕にはもうそこに元の市営住宅の壁があるようには見えない。
なので透明な壁に侵入を拒否されているように見えている。
「お母さん!」
「ああ、確かにこれは莉菜さんの気配」
だけど堂城さんはへこたれない。
わずかにのけぞった体を戻すと、その場に膝を付いて壁に頬ずりを始めた。
「すごい膨大な霊気。まるで莉菜さんという宇宙の中に放り込まれたよう」
「うわぁ」
「うわぁ」
壁に頬擦りする堂城さんに僕と真白はドン引きだ。
蛇神の嫁なのにヤモリのようにそこから動かなくなったので、その間に真白に学校でのことを説明し、ニャンゴト・サービスからの封筒を見せる。
「もう少し場所を考えて連絡してきてほしいものです」
真白もぷりぷり怒っている。
「それでどうなさるのですか?」
「バイトは受けるつもりだよ」
どうせゴールデンウィークに予定はない。
部屋でダラダラするぐらいなら、なにか役に立つことでもしていた方がなんかコスパがいいような気もするし。
気がする。
この気持ちが大事。
「内容が短期調査ということですから、あるいはその期間、どこかに移動させられるかもしれません」
「じゃあ、もしかしたら、少しは旅行らしいこともできるかもね」
「そういうところができる場所ならいいですけど」
そんなことを話していると、お腹が空いてきた。
堂城さんは……帰る気はなさそうだ。
「夕ご飯、一緒します?」
「するわ!」
壁に張り付いたまま堂城さんが答える。
「じゃあ……」
堂城さんも一緒なら、真白も人型でご飯を食べる方がいいかな?
となると卵料理……。
「カツ丼でもいい?」
「はい!」
前にちょっと考えたからか、第一候補がカツ丼だった。
昨日が親子丼だったから嫌かなと思ったけど、真白は即決で頷いたのでカツ丼にする。
二人で折りたたみテーブルを広げ、飲み物の用意などをした後に堂城さんの隣を抜けてアイテムボックスに入る。
中でちょっと片付けとかした後、オーク肉のトンカツを取り出す。
前に揚げた分がまだ残ってるんだよね。
ほんと、僕らだけだとここにあるオーク肉を消化するのも何十年とかかりそうだ。
アイテムボックス効果で未だ熱々のそれを使ってカツ丼を作る。
「姉ちゃん、カツ丼作ったよ!」
「やったぁ! アキヤは偉い! ところでさ」
「うん?」
「そっちの入り口になんかいる? 変な感じがするんだけど」
「うおおお……」
もしかしてそれは堂城さんの気配だろうか?
いるのを察知されているのか?
もしかして、それで僕が入ってきても黙っていた?
警戒していたのかな?
とりあえず、堂城さんにバレたことを姉にも話した。
「あちゃあ、バレちゃったんだ。でも、アキヤ以外は入れないし、わからないんでしょ?」
「入れないみたいだけど、なんかすごい霊力は感じるみたいだよ」
「霊力? ふうん。まぁ、いいか。アキヤもお世話になっているみたいだし、なにか困ったことがあったらここのを使ってもいいからね」
「うん、そうするよ。ていうか、これからこのカツ丼をご馳走するし」
「ふふふ、異世界ご飯を堪能するがよい」
そんな感じでカツ丼三人分をなんとかお盆に乗せてアイテムボックスを出る。
堂城さん的には壁に向かって立っていた僕が、いきなり向きを変えて、しかもカツ丼を抱えているという姿に変わって見えているはずだ。
前に、真白もそう言っていたし。
そんな僕を見て、堂城さんが目を丸くしていた。
びっくりする堂城さんもきっとレアな姿なんだろうけど、今日はそんな彼女を見過ぎているので、特に感動はなかった。
いや、ヤモリ堂城さんのインパクトが強すぎたのか?
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