蛇神
【忍者】のジョブを意識すると、自然とそういう動きになる。
装備は、改造制服が強化ジャケットとズボンに変わっただけみたいなものだ。
むしろ、ズボン分、静丸の時より強化されていることになる。
なにかあったら逃げる前提で防御力と速度重視にしているけどね。
戦う根性なんてないよ。
音を立てずに堂城さんの屋敷を出て、山へと向かう。
一本しかない道は巫女姿の堂城さんが歩いているので、僕は家々の間にある裏道みたいなものを通り抜けて行くことにした。
【忍者】や装備による能力補正のおかげで塀を跳び越えるなんて簡単で、やろうと思えば家の屋根に上ることだってできてしまう。
道を一人で進む堂城さんを追い越し、なんとなくの方向感覚で山の中に入ってさらに進み、道の奥にあった家も通り過ぎていく。
田畑を片側に見ながら進んでいると奥に大きな池がある
そこからは完全に山の中になるけれど、適度に伐採されているのか薮などがなく進みやすい。
時々、ダウジングアイをかけて方向を修正しながら進んでいると、人の声が聞こえてきてそこに向かった。
立花さんをはじめとした大人たちに囲まれて柚木さんたちがいた。
腕に縄を巻かれ、さらに手首を足首に結束バンドを使われるという徹底的な拘束っぷりには、慣れている雰囲気があると思った。
きっと勘違いじゃないんだろうな。
拘束された男子たちはしくしく泣いているし、本当になにがしたかったんだろう?
話題の祠はすぐ近くにあった。
周囲の木々とは明らかに格の違う幹の太い楠の老木があり、祠はその根元に置かれていた。
その祠はひどい有様だった。
思わず「うわぁ……」と声が出そうになり、口を手で押さえたぐらいだ。
苔むした老木と比べるとやや新しいように見えるので、最近になって建て直したのかもしれない。
その祠に一抱えもありそうな大きな石がぶつかっていた。
一人では絶対に持てなさそうな大きな石が上から乗っかり、上は屋根から下は高床式みたいな土台まで潰れて、斜めに傾いでいる。
思わず、「そこまでする?」と思ってしまうほどだ。
「違うんだ!」
「聞いてくれよ!」
「俺たちじゃない!」
with男子たちが泣き叫んで弁明している。
立花さんたちのガチ対応に完全に心が折れてしまっている。
「柚木さんがやったんだ!」
「本当だよ!」
「俺たちは止めたんだ!」
しかも柚木さんに罪を押し付ける有様。
それはさすがに酷いと思ったのだけど、柚木さんを見てその感想はすぐに引っ込んだ。
立花さんたちも柚木さんを見て、反応に困っているのかもしれない。
柚木さんは一人、騒ぎも抵抗もせずにボーっと虚空を見つめている。
その目はなにも写しておらず、唇の端からは涎さえも垂れている。
明らかに普通じゃない。
昔に何度も見たグダグダに酔っ払って帰ってきた母親の姿ともまた違う。なにかドラッグ的なものの摂取さえも疑ってしまいそうな様子だ。
でも、だからってあんな石を一人で持てるものなのか?
「立花さん……」
「これは……」
「うむ。そうかもしれないね」
「イカリの連中が仕返しに?」
大人たちはなんかそんなことを話し合っている。
僕は遠回りで立花さんたちや騒ぎ続けるwith男子たちを避けて祠に近づくと、より詳しく観察した。
ダウジングアイから伸びた線は、間違いなくこの祠の中に刺さっているのだ。
どういうことかと祠に顔を近づける。
正面にある両開きの扉も片方が崩壊してだらりと開いている。
祠の中には御神体らしきとぐろを巻いた蛇の像があり、その横に小さな壺があった。
どちらも壊れていないのが奇跡のようだけれど、それでも傾いた祠の中を転がってしまっている。
小さな壺はしっかりと封がされていて、中身は無事のようだ。
そして、線は、その壺に刺さっている。
見間違えようもない。
この壺に姉が?
人なんて入りようもない、骨壷にしたって小さすぎるその壺に手を伸ばそうとしたところで……。
(触れるな!)
誰かの声が頭の中で響いた。
激しい頭痛を伴うその痛みに悶絶していると、立花さんたちの驚く声がそこに重なる。
【透明化】を解除された?
僕の姿が晒されて、立花さんたちに見つかったらしい。
だけど頭痛に苦しむ僕はなにもすることができず、地面に顔を押し付けられることになった。
そうして僕も、ぐるぐる巻きの仲間入りをしてしまうことになった。
「尾羽くん、どうして?」
後からやってきた堂城さんは驚いたような呆れたような顔をしていた。
その頃には頭痛そのものは治っていたけど、余韻のせいか全身が冷たくなっている気がした。
熱でも出ているみたいだ。
「あなたはもう少し賢い人だと思っていたのだけど」
「姉をどうした?」
そんな蔑みの視線を無視して、僕は問い返す。
「だから、知らないって……」
「あの壺の中に姉はいる。なにをやった?」
「……」
僕が問い返すと、堂城さんはなにも言わずに祠を見た。
その視線は祠にある壺に注がれているような気がする。
だけど、彼女はなにも言わずに祠の前に移動すると、その場で正座をし、なにか祝詞のようなものを呟いた後、中にあった蛇の像とその壺を抱くようにして腕の中に隠した。
「立花」
「はい」
「祠の修繕と後始末、お願いします」
「わかりました」
堂城さんは氷の表情となって僕たちを無視して、その横を通り過ぎる。
「待って堂城さん!」
「たすけて!」
「お願いだ!」
with男子の叫びと僕の質問を無視して、堂城さんは行ってしまう。
そして僕は、立花さんに襟首を掴まれた。
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