どうしてそうなる?
姉と堂城さんの間で百合百合疑惑。
いや、さすがにそれはないだろうと思いつつ、なんか考えてしまう。
堂城さんが百合の可能性は知らないけど、陰キャな姉とくっつく理由が思いつかない。
姉が暴走して堂城さんに手を出そうとして、タチキとやらの怒りに触れてしまった?
だとしたら自業自得だなぁ。
ていうかその件の真偽はともかくとして、堂城さんとタチキに近づく理由もないな。
堂城さんと席が隣なのも次の席替えまでだろうし、来年はクラスも違ってるだろうし、これ以上、深掘りすることもないか。
それより、ダウジングアイで改めて姉の遺体を探してみる方が建設的かもしれない。
そう思っていたんだ。
一緒に昼食を食べていたクラスメートの一人が今日は学食だと言うので、それに付き合って教室を出た。
「尾羽くん」
そこで名前を呼ばれた。
見れば、厳里朝都の相方がいた。
コト、とか呼ばれていた方。
「ちょっと、いいかな?」
俯き加減なそんな言葉をクラスメートはどんなふうに受け止めたのか、肘で脇を突いた後に「じゃあ、今日は俺たち別行動だな」と去っていった。
そんないい話じゃ絶対ないと思うな。
思うんだけど、断れなかった。
体育館の裏にある非常階段には滅多に人が来ない。
そこで僕たちは弁当を食べながら話をすることになった。
今日の弁当のメインおかずはコカトリスの唐揚げ。
心を落ち着けて美味しくいただきたかったんだけどなぁ。
彼女の名前は柚木言子。
厳里と同じ2ーD。
「アサちゃんが学校に来なくなったの」
「へぇ」
ああ、コカトリスの唐揚げは冷めても柔らかくて美味しいなぁ。
「あの頃、尾羽くんのことを怒っていたみたいだから、なにか知らないかなって」
「知らないよ」
柚木さんはなんか小さい二段弁当に細々とおかずが入っている。
ていうか、仲悪い相手にそんなことを聞く?
「そう、なんだ」
「うん」
変な沈黙がのしかかってきた。
僕としては「そっかじゃあ」と去ってくれることを願っていたのだけど、そんなことにはならなかった。
「私ね、もしかしたら堂城さんが関わってるんじゃないかと思ってるの」
「……なんで? 逆恨み?」
嫌われる方向な言葉を選んでみたけど、柚木さんは首を振るだけだ。
「違うの。堂城さんには噂があるの。彼女、タチキの関係者だって」
「タチキ?」
初めて聞いたみたいな顔をしつつ、内心で「なんで出てくるかなぁ」と思っていた。
そんな僕の気分を放置して柚木さんはヒートアップしていく。
「タチキって桐郎市にある昔の村の名前でね。そこの村には怖い秘密があるって、前にアサが言っていたの」
たしかに、厳里妹はタチキと聞いて本気で怖がっていた。
厳里兄も一緒になって怖がっていたから、ただ噂を信じているってだけじゃない。
なにかを知っている感じではあった……かもしれない。
「それで、堂城さんの住所が昔、立木村があった巣馬子町だって」
「それは誰に教えてもらったの?」
「堂城さんと中学が同じだっていう子」
それなら、嘘とかじゃないのか。
「僕も桐郎市なんだけど、そんな村の噂なんて聞いたことなかったなぁ」
まぁ、僕の場合は母親があんなのなのであんまり友達もできなかったので、そういうご近所の怖い噂みたいなのに触れることができなかった、みたいな理由もあるかもしれないけど。
「知っている人は知っている、っていうのみたいよ。堂城さんの住所を教えてくれた子も、タチキのことは知らなかったから」
「ふうん」
と聞き流しつつ、柚木さんはどうしたいんだろうと思った。
「そもそも、厳里さんがタチキ? っていうところにいるとは限らないんじゃない? どこかで遊んでいるとか? 実は家にいるとか、連絡はしたの?」
「したわ。でも、親戚のところにいるって、変じゃない? それなら連絡に返信してくれたっていいじゃない」
親はタチキのことを知っているのかもしれない。
だから、もう諦めているとかではないのかな?
「親がそんななら、僕らにできることなんてないんじゃない?」
「どうしてそんなことを言うの?」
僕のやる気のなさをようやく受け入れたのか、柚木さんは恨みがましく睨んでくる。
「いや、むしろどうして僕があなたたちの心配をすると思っているの? 僕たちってそんなに仲良しな関係だっけ?」
「あなたがアサを怒らせたからこんなことになったんでしょ⁉︎」
すげぇ。
こんな理論で人に責任感を押し付けようとする人がいるんだ。
「それを言い出したら、君の片思いが原因になるんじゃない?」
「アサは、私のために動いてくれたんだから」
「いや……」
あ、これ、なにげに話が通じないタイプかも。
厳里妹もあの程度の衝突で車で人を攫うような危ない奴だったけど、その友人は他人の話を聞かない危ない奴みたいだ。
「だからお願い。私とタチキに行きましょう」
「いや、行かないけど?」
「どうして⁉︎」
「いや、高校生二人で行ってどうするって言うのさ?」
なにができるわけでもないでしょ?
「大丈夫! 他にも声をかけてるから!」
「いや、かけないであげて?」
「一緒に行きましょう!」
「行かないからね?」
僕は必死に抵抗した。
死亡フラグの臭いしかしないのに、なんで行きたがるの?
「みんなで堂城さんの裏側を暴きましょう」
「うん、結局、君の本心はそこだよね?」
友人の安否じゃなくて、堂城さんに傷を付けたいのだ。
「違うわ! そうじゃなくて!」
「いや、もういいから」
その後もしつこく勧誘してきたけど、僕はなんとか断ることにし成功した。
そのまま無関係でいられたらいいんだけどなぁ。
クラスメートたちに昼休憩のことを誤魔化しながらその日を過ごし、学校が終わる。
電車に乗って桐郎市に戻ったところで、僕はなんとなくダウジングアイのメガネをかけて「姉の遺体」と呟いた。
相変わらず薄い線が四方八方に散って消えてしまうのだけど……。
その一本が消えずにどこかに伸びていた。
「よし」
変なことは考えず、僕はこの線の導きに従おう。
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