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僕の部屋がアイテムボックスな件  作者: ぎあまん


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12/50

裏庭には



 堂城さんに姉を知っているかと質問をしたいのだけど、そもそも彼女は他人とそんなに話さない。

 席が隣という幸運があるとはいえ、僕だって雑談ができるわけではない。

 この前みたいに宿題見せて〜みたいに話しかけたいのだけど、なんだか堂城さんから感じる壁が前よりも厚くなったような気がして、それすらできなかった。


 なんだろう?

 普通のノベルゲーならあんなことがあったら堂城さんの僕への好感度がアップして話しやすくなるはずなんだけど……。

 まぁ、現実はゲームではないってことだよね。


「ねぇもしかしてうちの姉と知り合いだったりする?」なんて、普通ならそんなに気負うことのない質問のはず。

 だけどうちの姉は世間的には失踪中になっているわけで、そんな事前情報有りでだと質問の重みが変わってきてしまう。

 そんなわけで、話しかけるきっかけを得られないまま時間だけが過ぎて昼休憩になった。


 弁当はファイアブルの肉を使った焼肉弁当。

 いや、肉の在庫が凄過ぎて。

 アイテムボックスの容量は無限らしいのだけど、それでも積み上げられた肉の圧迫感がすごいので思わず消費してしまいたくなる。

 冷めても美味いのはいいんだけどね。

 いつか、もうファイアブルの肉は見たくもないってなるんだろうか?

 席が近い男子連中と一緒に昼食を済ませ、そのまま駄弁って時間を過ごす。話す内容はゲームだったりアニメだったり動画だったり、大体この三つのどれかになる。


「ちょっとトイレ」


 そう言ってからトイレに行って出てくると、不穏な会話が聞こえた。

 いま着ている制服は静丸の件以来改造制服となっていて、内ポケットには妖刀・風魔魂が隠されている。

 なのでいまの僕は忍者のジョブを持っているんだけど、声が聞こえたのは、たぶんその影響なんだと思う。

 廊下は教室と外側の両方に窓があるんだけど、聞こえてきたのは外の方だ。

 山に面した校舎の裏側、裏庭部分は狭いのでたいしたものはない。

 だからこそなのか、内緒の話とかをしたい人たちが行く場所というイメージになっている。


 さっき聞こえてきた会話に「堂城」という名前が混ざっていたのもあって、気になって行ってみることにした。


「ですから、その人のことは知りません」


 僕がやってきた時にはうんざりとした様子の堂城さんがそう言っていた。

 裏庭にいるのは三人。

 一人が堂城さん。

 そして二人組が堂城さんを問い詰めている。

 話の感じからして、二人組の片方の好きな男が堂城さんに告白したとか付き合っているとか、そんな情報を信じて問い詰めているという感じだ。


「そもそも私には婚約者がいます」

「そんなこと関係ないんじゃない」


 堂城さんの、おそらく必殺の言葉を片方が跳ね除けた。


「婚約者なら、まだ結婚してないんでしょ? それなら遊び放題とか考えているんじゃないの?」


 それを本心で言ったのかどうかはわからない。

 千館高校は進学校だし、問題行動を起こすような生徒の話はあんまり聞かない。

 ただ、堂城さんの場慣れした態度に苛立っているような感じはした。

 堂城さんは美人なので、こういう場面によく出くわしているのだろう。

 明らかな挑発の言葉。

 堂城さんは……。


「それはあなたの価値観であって、私のものではありません。あなたはそうなのかもしれませんけど」


 あ、ちょっと怒ったのかな?

 最後の言葉は、ちょっと余計だったかもしれない。

 煽り返された二人組の片方は、イラっとした様子で手にしていたペットボトルの蓋を開けた。

 炭酸飲料だ。

 蓋が緩んだ瞬間に、「シュワッ」と溢れ出す音がする。

 来る前から振っていたのだとしたら、最初からこれをするつもりだった?


 ただ、溢れ出す前に気付かれないように接近していた僕が、その口に手を当てた。

 噴出する炭酸飲料は僕の手で跳ね返され、二人組の方に飛び散った。


「きゃっ」

「なにすんのよ⁉︎」

「その炭酸飲料を持っている人は誰?」


 逆ギレしてきたペットボトルの持ち主に言い返すと、ぐっと押し黙った。


「よくわかんないけど、堂城さんが婚約者がいても男遊びしてもいいんなら。恋人の男が他の女性と遊んでても別によくないかな? ていうか話題の人はどっちの彼氏なの?」


 僕が問いかけると、二人ともが黙った。

 その後でペットボトルを持っている方が、相方を見てから僕を睨む。


「コトが気にかけて」

「それって片思い?」

「「……」」

「片思いで優先権を主張する人ってあれなんなんだろうね。もし自分が付き合い出した人に、他に片思いしている人がいたら、彼氏を譲ったりするの?」

「ちっ、無関係な奴が……」

「いや、僕は堂城さんとクラスが同じ。つまりクラスメート。クラスメートが困っているのをたすけてるんだから、無関係じゃないよね? そっちは? 片思いの告白もしてない男が他に好きな人がいるからって、男じゃなくて女の方に文句を言いに行ってるんだよね? そっちのが関係なくない? せめて恋人同士になってから来なよ」

「……ねぇ、もう行こう」


 相方……片思いの方? が折れた。


「……覚えてろよ」

「なんかしてきたら、今日のことを大声で言いふらしてあげる」

「死ねよ!」


 ペットボトルが何度も舌打ちしながら去っていく。


「あれって実は、あっちの方もその彼のことを好きだったりしてね」


 と、二人に届くように言ってみた。

 相方がビクッとしてペットボトルを見る。

「そんなわけないし!」と怒鳴り返された。


「……ああ、ドキドキした」


 二人が完全に見えなくなってから、僕は堂城さんを見た。


「めっちゃ手が震えてる。あはは、怖ぁ」

「尾羽くん、どうして?」


 ぶるぶる震えている手を見せても、堂城さんは笑ってくれなかった。


「いや、さっきも言ったけど、クラスメートだから?」

「……」


 あ、信じてくれてない。

 もしかして、こいつも私のことを好き? みたいな目をされているような?


「ええと、まぁ他に、聞きたいことがあったりもしたんだけどね」

「聞きたいこと?」

「堂城さんってうちの姉のことを知ってる?」

「お姉さん? いいえ」

「尾羽莉菜っていって、うちの学校の三年なんだけど?」

「いいえ。この学校に仲良くしている人はそんなにいないと思うのだけど……写真はあるかしら?」

「ちょっと待って」


 僕はスマホから姉の写真を探し出した。

 失踪前のクリスマスイブに一緒にケーキを作った時の写真があった。

 市販のスポンジケーキに生クリームとかを塗って、自分好みのトッピングをするだけなんだけどね。

 チキンはケンタで買うから、いつもケーキはこうしている。


「これ」


 いちごショートを完成させてから溺れるほどのチョコソースをかけたケーキを前にピースしている姉の写真を見て、堂城さんの眉がぴくりと動いた。


「知らないわ」

「姉が去年のクリスマスから行方不明なんだけど……」

「知らないわ。ありがとう尾羽くん、力になれなくてごめんなさい」


 僕の言葉をかき消すように言うと、堂城さんは足早に去っていった。

 その態度はもう、なにかを知っていますと言っているようなものなんだよね。




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