本戦決勝戦②
気持ちの高ぶりに合わせるかのように大きくなり続ける二人の魔力は、ぶつかり合い弾けるたびに会場全体をも飲み込み始める。
強すぎる魔力の余波に充てられて、目眩や吐き気など体調を崩し始める観客も現れた。
「これならどうだ!」
距離を取ったカズトは百個以上にも及ぶ雷弾を展開して零へと射出する。
一発一発の威力は高くないが、この雷弾はある程度の操作が可能であり、動きが遅ければそのすべてを受けることになる。
普通なら動き回って狙いをつけさせない動きを取るべきだが、零は避けずにその場で立ち止まり、雷弾のすべてを叩き落し始めた。
「まじかよ!?...だったら!」
半端な攻撃ではダメージにはならないと悟り、雷弾の相手をしている零に向かって今度は直線状に螺旋回転した雷撃を放つ。
先程の広範囲の物とは違い、威力を一点に絞った攻撃なら弾かれることはないはずだ。
しかしその目論見は大きく外れる。
雷弾を叩き落した零は、拳を引いた構えを取ると大きく踏み込んで前方に跳躍する。
「せぇい!」
気合のこもった声と共に繰り出された右拳は、貫通力のあるはずの雷撃を割砕きながら突き進んでいく。
弾けた雷撃が零の顔や身体の皮膚を引き裂きながらも、お構いなしに突破してきた拳はカズトの顔を殴り飛ばした。
「私に小細工は聞かないわよ」
「いってぇ、、今のを小細工と言えるのはお前くらいだよ」
口から血を流すカズトは、自身の中でも火力が高めの攻撃を小細工扱いされて呆れている。
一方で余裕そうなセリフを吐いた零も、右こぶしに魔力を集中させ過ぎたせいで他の部分の防御力が下っており、割り砕いた雷撃の余波で複数個所から血を流していた。
「余裕そうなこと言う割には息上がってんじゃないのか?」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。貧弱なあんたと一緒にしないで」
強がってはいてもお互い確実に呼吸は荒れてきている。
それでも、まだまだこの時間を終わらせたくない気持ちは同じだった。
カズトは身体の奥から魔力をさらに捻りだす。
あれだけ派手に放出したにもかかわらず、更に上昇する魔力量に実況が驚愕する。
「魔力は底なしでも、体力には限界があるわ」
「それは零も同じだけどな!」
再び始まった肉弾戦。
徐々に動きにキレを失っていく攻防戦の中で、お互いの魔力が混ざり合い相乗的に高まっていく光景はもはや異様と言えた。
その純粋な殴り合いはまるで会話でもしてるかのようで、観客達も言葉を失いただただ魅入っている。
そして永遠に続くのかと思われたこのやり取りにも、ついに終わりが見え始める。
零の一撃でカズトは大きく吹き飛ばされて地面を転がった。
一方で零も膝に手をついて肩で大きく息をしており、直ぐに追撃をする余力はない。
カズトは地面を這いずりどうにか起き上がるも、立っているのがやっとの状態だった。
「安心、しろよ……まだ、終わらねぇから!」
零を安心させるまでは倒れることは絶対にしない。
そう誓った自分を奮い立たせるように、右手首を左手でつかんだカズトは周囲に飛散した魔力を収束し始めた。
集中力で留めきれない分の魔力はクローブの力で押し固める。
かつて光を失っていたグローブに、雷の魔力によって新たに刻まれた魔力回路が激しく輝いていた。
収束の力により急速に周囲の魔力濃度が低下していく。
これが最後の一撃になることを、零は感じ取っていた。
ならばそれに答えない理由はない。
魂から絞り出すかのように、自身の魔力の一滴まで力に変えていく。
「行くぞ!零!」
「来なさい!カズト!」
足元を磁力反発によって弾き飛ばして弾丸のように飛び出すカズトと、それに迎え撃つ様に踏み出す零。
お互いに全てを込めた一撃は、闘技場を光で包み込んだ。
…合格よ。強くなったわね
その光の中で、カズトは確かに聞いた。
消えそうな小さな一言だったが、それは何よりも聞きたかった言葉だった。
光が治まると、そこにはお互いに支え合うようにして立つ2人がいた。
唯一違うのは、零が気を失い、カズトはギリギリ意識を保っていたことだけだった。
「......ついに決着ー!今この時をもって、戦技祭の優勝者が決まりましたー!優勝したのは失われた雷魔法を操り、底なしの魔力を見せたカズト選手です!!」
少しの沈黙の後、一気に会場が湧き上がる。
「どちらが勝ってもおかしくない、素晴らしい戦いでした。2人の主人として誇らしく思います。彼らが護衛ならば、安心して日々を過ごせそうです」
暗にこれだけの実力者を、王女が2人も従えているのだから無駄な手出しはしてくるなと、そう伝えたいかのような物言いだ。
自身の勝利を聞いてギリギリ保っていた緊張が解けたカズトは支えていた零ごと倒れ込んだ。
その衝撃で零も意識を取り戻す。
「ちょっと、、私は動けないんだから抱きかかえて医務室に連れて行きなさいよ...」
「無茶言うなよ...俺だってもう一歩も動けねぇよ...」
「まったく情けないわね。でも、倒れ込む時にあんたが下になっただけ評価してあげるわ」
口調とは裏腹にすっきりとした顔で話す零の表情は晴れやかだ。
それは出会った時の保護者としてではなく、これからは隣を歩く本当のパートナーの顔だった。
戦技祭編が思ったより長くなりましたが、ようやく終了です。
下地が整ったのでこれから段々と話が動いて行きます。




