47 お一人様は飲み会に行く(番外編)
番外編はコメディです。
シリアスな余韻がお好きなかたは、前話でストップしてください。
私は今、ローズの部屋で飲み会セッティング中である。
自立した親友同士で、日々の窮屈さをぼやき、慰め合い、明日への英気を養い乾杯する!純粋にお一人様になったらやりたいことの上位項目で、ようやく叶えられた。
リッカはじめ子どもたちは皆、私の部屋でカルーア様とミトに守られてスヤスヤと夢の中だ。
が、私から目を離せないとコリンもいる。そしてチャールズもいる。そして、なぜか先日大神殿にて私がベール越しに立太子してやった、ミリウス殿下もチャールズが連れてきやがった!
「チャールズ!!!私のせっかくの休みに何してくれてんのお⁉︎」
薔薇模様の素敵な部屋着を着て、準備万端だったローズの目が逆三角形になっている。久々の休み、気のおけない二人で飲み明かそうと思ってたら、この国で最も気を使う相手を連れてきたのだ。
「殿下。これはルール違反です。巫女様は顔バレも住居バレも絶対に望まない!王族であろうと例外はないと宣言してますが?」
コリンが私の背中に立ち、思いっきり臨戦態勢に入る!
こんなことになるとは思ってもいなかったので、私はヅラも眼鏡も無く、巫女そのものだ。
するとチャールズが焦って、
「いや、絶対、誰にもバレてないから!殿下もここがどこかわかってないから!オレ、殿下の手を縛って目隠ししてここに連れてきたから!」
「「「はあ!?」」」
「そんなこと許されるの?」
「ていうか、この飲み会にそこまでする価値ある?」
ミリウス殿下が突然土下座した。
「私が許した!お願いだ!私も参加させてくれ!私のこと、みんな覚えてくれてる?私は覚えてる!初等教育のころ、キュウリが苦手なローズ様と、カボチャが苦手なマール様と、好き嫌いのないチャールズ!」
「なぜ嫌いな食べ物縛り⁉︎」
「公爵家の主産業は農業なんだよ!私は本当に城で孤独なんだ!山あいの自然に囲まれた公爵領で王都の父に代わってのんびり牧畜主体の領地経営していたら、突然王太子が降って湧いて、あたふたしてると今度は見知らぬ令嬢と勝手に結婚話!結婚してないチャールズに助けてを求めると、『オレは当分友情だけで十分です』とか余裕の発言ぶっこきやがる!貴族に友情なんかあるもんか!と言ったら私を可哀想な目でみやがった。で、聞き出したら、本当に楽しそうなんだもーん。私だって、楽しく飲みたいよ〜!」
ポロリと涙を落とす、新王太子ミリウス。
「「「あ〜……」」」
確かに、この人に王位が転がり込むことなど、万に一つもないはずだった。ラファエル殿下一択だったのだ。ここにもあの男に人生を狂わされた人間がいた。
「巫女のこと、本当に内密にしてくださいますか?」
一番に折れたのはコリンだった。こいつは同性に甘い!
「もちろん!」
殿下が目を輝かせ、コリンを拝む!
「今日はオヤジからとっておきの酒もらってきた。みんなで楽しく飲もう?」
チャールズがここぞとばかりに、ヤック伯爵ご自慢の高級紅白ワインを出す。
貴重な時間がもう10分も過ぎてしまった。働く母親に余った時間などないのに!私とローズは目を合わせて大きくため息をつく。
ローズが、殿下の前に腕を組んで立ち、ドーンと威圧する。
「チャールズはワイン。マールは神殿直伝手作りクッキーとトリアのイカの塩辛、コリンは生ハムメロン、ミリウス殿下は何を持ちよってくれたの?」
「う、うちの公爵領の、かわいい牛たちの、チーズです……」
「はあ、しょうがない。ようこそ、私のうちへ」
「ありがとーーーお!」
結局ローズの部屋には椅子が五脚もなくて、床に直に座り、食べ物を並べる。当然、スーパー格上巫女である私が乾杯の音頭を取る。
「じゃあ、28歳だけどまだまだ若いもんには負けないよっ!カンパーイ!」
「「「「カンパーイ!!!イエ〜!」」」」
「いやーしかし、マール、旦那戻ってきてよかったな〜!」
「ありがと、チャールズ!」
私たちはチンとグラスを合わせる。
「今日はどちらに?」
「トリアに行ってる。お金貯まったからサジークに壊された橋をかけ直すんだって」
「トリアは島国だもんな……橋がなくて、不自由してたんだろうな」
コホンと、ミリウス殿下が咳をする。
「あのさ……もうやりづらいからはっきり言っちゃうけど、マールとその……旦那さんの秘密、国王陛下から、聞かされてるから。間違いを犯さぬために、真実を知っておけと」
ミリウス殿下がモジモジと言う。
フーン、国王はデュラン様の生還をご存知か……適当なことを吹き込まれるよりも、その方がいい?でもどこから漏れたのか……私は神殿に調べるように、コリンをチラリと見る。コリンが頷く。
「そうですか……ここだけの話にしてくださいね。私も彼も、もう前を向いて生きていますので」
「うん、了解。あースッキリした」
ミリウス殿下がホッと息を吐く。
「それを言うなら、シングルで子持ちの女優の家なんかに来てる王太子様のほうが、よっぽどスキャンダルだと思うけどお?」
ローズが殿下にスッピンでも美しい顔で詰め寄る。
「王太子なんて呼ばないで!サブイボが出る!頼む!私もここではミリウスと呼び捨ててくれ!あのねローズ。ローズの評判なんて、今の王家の評判に比べれば全然悪くないからね!」
確かに、私は……神殿はラファエルの所業を明かさなかったけれど、たった一人の王太子が離宮送りにされたのだ。巫女が目が覚めてすぐというタイミングで。大方ラファエルが巫女に不敬を働いたのだろう……という噂が流れ、実際それは間違ってない。民からの巫女への同情と、国への抗議が止まない状態なのだ。
完全にとばっちりを受けているミリウス、ドンマイ。私はミリウスのグラスに赤を注ぐ。
「おい、ローズ!ミリウスに近寄り過ぎだ!」
チャールズがローズとミリウスの間に入る。
「うっさいなあチャールズ!私はねえ、二度と騙されないように外ではお酒飲まないの!それにこないだまでリッカにおっぱいやってたから断酒してて、ちょー久しぶりに飲んでるんだから楽しく飲ませてよ!」
「「お、おっぱい?」」
独身男性二人の声が裏返る。私とコリンは淡々と食べる。
「コリン、生ハムメロンなんて、どこで知ったの?」
「この世で一番罪深い食べ物と、教典に載ってました!」
「おお〜これが罪の味〜!」
「ねえ、本当にこの二人が世界を救った巫女と最高位の神官なんだよね?」
ミリウスがローズに聞く。
「あったりまえじゃん、ぶれいものめ〜!あはははは〜」
ローズ、いい感じに酔っ払ってきたな。自宅だから良し。
「おい、こんな飲んで大丈夫なのか?明日二日酔いだったらリッカの世話できないぞ?」
チャールズが心配そうにローズに水を渡す。
「ああ、その絵の女の子がローズの子どものリッカちゃん?可愛いねえ」
ミリウスがリビングに所狭しと飾ってあるナターシャの描いたリッカの絵を見てニッコリ笑う。
「可愛いとか、もうそういう次元じゃない」
チャールズがワインボトルをドンと床に置き、言い切る。
「は?」
「リッカは……天使だ……」
「まあ天使だね」
「はい、天使ですね」
チャールズが一番最近の、スキップするリッカの絵を見て、うっとりする。私とコリンにも異存はない。
「ははははは、あー久しぶりだ。こんなに笑ったの。ねえローズ。うちの実家のチーズも気に入ってくれたみたいだし、私も天使のリッカに会ってみたいし、私と結婚を前提に付き合ってくれない?」
ミリウスがローズにウインクする。
「えー!何言ってんの〜こんなコブ付きのおばさんと〜」
酔っ払いローズがキャラキャラと笑う。
「おばさんって同い年だよ?スキャンダル持ち同士、楽しく助け合って生きて行こうよ?」
急にチャールズが立ち上がり、ローズを後ろから抱きしめた!そしてミリウスを睨みつける!
「おい、ミリウスふざけんな!ローズとリッカは俺のもんなんだよ!」
「え、そうなの?知ってたコリン?」
「いや、初耳ですね」
突然はじまった劇場に、私とコリンは正座して見守る態勢に入る。
「ローズ?チャールズとそういう関係なの?」
「……私だって、初めて聞いたわ」
ローズが酔っ払った、赤い顔のまま、ボソッと呟く。
チャールズも顔を真っ赤にして、ローズの首元に向かって言葉を紡ぐ。
「前のアパートの時から、ずっと、ローズとリッカと一緒にいる時間が楽しくて、嬉しくて、いつの間にか、俺の生きがいで……でも、マールが死にかけて、なかなか戻ってこなくて、俺だって、浮かれた気持ちになれないし、ローズはマールと一緒に幸せになりたいってわかってたし……」
ローズが、自分に回されたチャールズの腕に、そっと手を添える。二人に、たくさんの心配をかけた。神殿関係者じゃないだけに、何の情報も入らなくて……苦しませたに違いない。私のいない間、二人で、リッカも入れて三人で、力を合わせて生きてきたんだ。
チャールズが、グイッとローズの向きを変え、正面から見つめ合う。
「でも、マールが元気になって、デュラン様と結ばれた。俺だって、ローズとリッカと幸せになりたい!ローズ、リッカ二人を愛してる。結婚して!」
「だ、だって、チャールズは伯爵家……私なんか……」
「今日のワイン、ローズを絶対に頷かせる約束で、親父にもらってきた。親父は何度もローズの舞台を観に行って大ファンだ!俺をリッカのお父さんに、親父をじいさんにしてやってくれ。頼む」
すっかり酔いの醒めたローズが、視線で私に助けを求める。
……チャールズが嫌いならば、警戒心の塊のあなたがリッカの一番近くまで、チャールズを置くわけないでしょう?
私はニヤリと微笑み、両手でめったにない印をきる。
「はい、今代巫女によって二人の結婚ととのいました〜!おめでとうございま〜す!」
「「はあああああ?」」
「あ〜ダメですよ、二人とも、酔っ払いの前で結婚するしないでモジモジしたら。今巫女は自分の幸せ分けたいモードなんだから。世界最高位祭祀者によってめでたく婚姻と相成りましたこと、特級神官である私も承認致しました。なにはともあれおめでとうございます」
コリンが神官の所作で美しいお辞儀をする。
「「あ、ありがとうございます?」」
「めっちゃ超高速だった……」
ミリウスがクスクス笑った。
新婚?がバルコニーに風にあたりに?出たところで、私はパシンとミリウスの背中を叩く。
「ミリウス、やるじゃん!チャールズの背中押してくれてありがとう!」
「チャールズの想いはダダ漏れだったしね。チャールズは数少ない、城での私の味方だ。幸せになってほしい。ねえあれ、本当に結婚したの?」
「ん?仮だね。祝福は授けたけど、やっぱり書面も必要なの。明日シラフのときにキチンと双方に意思を確認して書いてもらうよ」
友達の気持ちを気にかけ、友達のために動ける男ならば、いい王になるかもしれない。とりあえず、ミリウスの御代を応援しよう。
「ねえ、巫女権限で、当面のお見合い止めてあげようか?『まだそのときではない!』とか神託して?」
「うわああん。マール、ありがと〜!」
ミリウスがハンカチを取り出し大袈裟に泣き真似をして、コリンが笑いながら背中を摩る。
「でも期限は切るよ。二年で、自分で相手を見つけてこい」
「わかった!本気で探す!他国の王族がいいと思うんだよね……外交的に。国内は派閥争いになるし……」
コリンがふと、フォークを止める。
「巫女様、留学で来ていらっしゃるデュラン様の従姉妹姫を紹介されては?確か先日成人のお祝いをしましたよね?」
「……どう?」
「トリアの王族?バランス的に……うん、会ってみる!」
「じゃあ次の飲み会のときにお忍びで連れてきてもらうね〜」
ミリウスが突然立ち上がった。
「くそ〜!嬉しいな〜!この一時間で全ての悩みが一気に片付いた!もう一回、友情にカンパーイ!」
「「カンパーイ!」」
バルコニーで肩を寄せ合う二人を見ながら、残った三人で口を開けて笑ってグラスを合わせた。
◇◇◇
ポラリア王国はサジーク国との戦争で大きく傷ついたが、その復興を任されたミリウス国王の時代に最盛期を迎える。
それは、ポラリア国軍将軍、民衆からの絶大な人気を誇る平民の大女優、ポラリア神殿の大神官、そして奇跡の第9代巫女と、各方面の要人と生涯に渡って定期的に意見交換?の場を設け、友好に努めた結果、と言われている。
……息抜き大事!
おしまい。
最後までお読みいただきありがとうございます。
全ての読者様に、感謝です ╰(*´︶`*)╯♡
 




