最終話 辰巳センセイの文学教室~reprise~
号令。
礼をして、生徒が席に着く。
出席簿を開いて、出欠席を確認。
席表の名前を覚えきるって大変だ……まだ不安なので、視界の隅に入るよう教卓に置く。
――「覚えられなかったら無理しなくていいよ。教材に挟んでおいたり、手帳に貼っておいたり、スムーズに使えるように工夫するといい」
まだまだ慣れた、とは言いがたい。緊張で声がうわずりそうになったのは、初日だけだったけど、教壇に立って、何十人と向き合うって、凄くパワーが要る。 教室の後ろには、校長先生と教頭先生、そして国語科の指導教官を始めとする何人もの先生方が並んでいる。これも、緊張を上乗せしてくれる。
先生方の顔を確認がてら、後ろの黒板を見ると、隅に小さくイラストが描いてある。
――最強先生ハンター 『咲耶姫』センパイ……?
思わず吹き出しそうになった。
スーツ姿なのになぜか弓を装備した三頭身キャラが仁王立ちしている。
吹き出しには丸文字で「必中!」って……ちょっとちょっと。
でも、結構上手い……あれは現役創作部員だな。
――「後ろにいるエライ人は、キャベツだと思って無視するか、開き直って授業に巻き込むか……。中途半端に目だけ合わせたりすると、プレッシャーばかり大きくなってしんどいよ」
教育実習の最終日。
研究授業では、こうして先生方がいっぱい来るのがお約束、なのだそうだ。
「だから、思い切り見せつけるつもりで楽しんでおいで。なんだったら、校長当てちゃったっていいよ。盛り上がるし」
「えええ……それはちょっとこわいなぁ……」
「大丈夫……咲耶は強い子だ」
……お守りのキスは甘かった……キスだけって言ったのに。もう。
はっと我に返る。
「後ろに先生方が沢山来ていて……緊張しますね」
にこっと笑うと、生徒も笑顔を返してくれる。
「辰巳先生、がんばって!」
「緊張しなくて大丈夫です!」
小声で声援してくれるのが嬉しい。
こんな風に、私もセンセイの授業を受けていた。
右手に白いチョーク、指輪の光る左手に教科書。
……あの人と同じスタイル。いつの間にか似ちゃってる……おかしい。
さて。
「――授業を始めます。教科書を開きましょう」
―― 辰巳センセイの文学教室 了
※東日本大震災に遭われた方、ご遺族の方々に、心より哀悼の意を捧げます。
※本文中『こころ』の読解に際しては、秦恒平氏『湖の本 漱石「こころ」の問題』における考察を参考にさせていただきました。厚く御礼申し上げます。
最終回までお付き合いいただきまして、あらためて感謝申し上げます。
本当に、ありがとうございました。
これが、現時点の私に描ける最高のラストです。
読者の皆様にとって、何かが心に残る物語にできたか、希望のひとかけらでも、手の中に残る物語として共感していただけたか……それが気になっています。せっかくですので、是非一言だけでも感想を、そして、評価やブクマでの応援、よろしくお願いします!
さて……ひとまず辰巳センセイは完結ですが、今、ロッテ編のような番外編と、そこそこのボリュームになる外伝のアイデアがあります。そちらが形になったとき、また、完結フラグを外して、この先でアップしたいと思っています。しばらく構想を練ったり、他作品(辰巳センセイで中断しているものもあるので)をいじったりとなりますが、掲載の際には是非ともまた楽しんでいただければ嬉しく思います。
読者の皆様にも、明るい希望がありますよう。
心よりの感謝を込めて 瀬川雅峰
2019年11月27日