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第三十九席 何かとお祭り騒ぎが付き物になってきている気がする

 突然であるが、はぐれ者の村には村長と呼ばれる者はいない。

 抱えた事情は様々。

 自分から、あるいは周囲に追い立てられてなど出奔の形もそれぞれ。

 しかし属していた集団から弾かれてきた者が寄り集まった村であるため、個人や家族単位で働き、行動するものが多い。

 雑多な種族。

 それぞれ独特の価値観。

 それらのサラダボウルである村の環境では、ごく自然なことではある。

 そのような集団を、村長という立場、血筋なりでまとめようとしても上手くいくものではない。

 しかしまとまりが無いか、というとそんなことはない。

 協力が必要な場面では自然と村人の皆が集まり、惜しみなく力を貸し出す。

 それは労力であっても、物品財産であっても同じことである。

 村長のような専門にまとめ役を担う者がいなくとも、村人各々の判断と協調性で悪くない程度に団結できている形になっている。

 ただ、これまでに村の代表。顔役を担う人物が誰一人としていなかったというわけではない。

 時には神官が。

 またある時には商売に明るいものが。

 その時々に適任者が代表として担ぎ上げられる形になる。

 要は代表やその補佐として、細々とした雑用を押し付けられることになるのである。

「だからって……なんだって僕が今回の代表役なんですか?」

 そんな村の事情を知らされながら、利康はただいま肩にかかけられている重みにぼやく。

「お前が言い出しっぺだろ? だから任されたのさ」

 そんな利康に、エルネストは口の端を釣り上げて笑う。

「それはそうですけれど、だからってって話ですよ。こういう仕切りならもっと慣れてる人だって……」

「だから俺がついてるんだろう?」

 なおも重荷を不条理だとぼやく利康を遮る変革神官。

 いう通り、たしかにエルネストが補佐役についてくれてはいる。

 ここしばらくはぐれ者の村に起きた事の大半が利康の主導なのも間違いはない。

 くわえて、森を実効支配するエルフの一家と親戚でもある。

 だが同時に、利康がまだ村の中では新参者なのもたしか。

 そしてまた、成人扱いではあっても未だに若造の領域を超えるものではない。

 だからこそ利康としては、家庭と現在の役職の責任で精いっぱいの自分には村の催しを取り仕切る立場まで重なっては重すぎるとしか思えないのである。

「いやお前そいつはお前自身を軽く見積もりすぎだろ」

「そうでしょうか?」

「そうなんだよ。お前がこれまでに積み重ねてきたモンと、それがまだ序の口とありゃあな……」

 利康の首を傾げての自己評価に、エルネストは肩をすくめて苦笑い。

 利康が伝えた窯焼き炭は、火力の安定した燃料として村のみならず交易の行商人からも求められるほど。

 もっとも植樹と平行しての事で、炭材を気軽に伐採できるものでは無いので数は山のような量は焼けないのだが。

 さらには風呂。

 日頃の疲れと汚れを沐浴以上に落とせるこれは村人に大好評。

 村に設置された小さな公衆浴場は、一日に入れる人数にこそ限りはあるが、それがために煙の上がらない日がないほど。

 燃料の消耗と供給の問題さえ解決できるなら、大きめの二件目の建築をすぐにでも望まれているのである。

 さらには炭焼きの副産物である酢液。

 燃え残りである灰の新たな利用法である石鹸。

 利康自身が欲しいものをどうにか工面しようとした結果生まれた様々なもの。

 これらは村の暮らしを大幅に豊かにし、生産性を改められれば、これだけでもより村を豊かにできそうな可能性を秘めているのである。

 しかも利康はまだ道具のネタを持っているとなれば村人からも期待がかかるというもの。

 具体的には色々な状況に対面させて新たな品を作り出すことを。

「……まあ、たしかにヒサゴーリ素材の器以外にも考えてるものはあるんですけどね……」

「お、売れるもんか?」

「恐らくは、としか言えませんけれど」

 利康は今も温めている新しいネタがあると言いながらも、その成功は断言できずに肩をすくめる。

 そうして歩いていくとやがて二人は村中央の広場に。

 広場にはすでに多くの村人が集まっていた。

 中央に顔を向けて輪を成し、こちらに背を向けて座った人々。

 拳を握った村人の頭上を越えてその注目する先を見れば、そこにはござの上に胡坐をかいてにらみ合う五名ずつのカワロたちが二組。

 それは今さら言うまでも無くチクマとコセ、双方の里を代表する力自慢の大カワロたちである。

 いくらかの個性と差はあれど、いずれも劣らぬ分厚い体躯。

 丈低く、脂肪に覆われながらも感じられる確かな筋骨。

 まさに里の意思を背負いうる戦士である。

 むろん里長である両名もそれぞれの五名に、大将として名を連ねている。

 里長同士を初めとして、互いの対戦相手をにらみ合う両軍。

 その間には地面に藁束を円形に埋めて作ったリング。つまりは土俵が。

 カワロたちの相撲にも、正式なものは土俵のような場を設える習慣がある。

 もっとも、その大きさにこそ細かいルールはあるものの、使うのは蔦や蔓草を繋いだような粗末なものらしいが。

 先日の茶席にてこの対決を約束したカワロの両長。

 対して利康は場所として、このはぐれ者の村を提案。

 村の皆も楽しめる騒ぎになれば。そう期待しての案であった。

 結果としては現状を見てのとおり、チクマもコセもこれを了承。

 それからはあれよあれよと話が進み、利康が土俵の準備まで含めて主導するかたちで対決の今日(こんにち)を迎えたのである。

「お、トッシー師範にエルネストさん。おーっそかったねーえ、もー先鋒戦の決着ついちゃったよ?」

 そんな対決の場にやってきた利康らに、弾んだ声がかかる。

「義姉さん」

 鈴を鳴らすような音色ながら、おどけて振り回すかのようなその声の主はやはりフミニアの実姉であるアイアノであった。

 短い金髪を割って伸びる耳を羽ばたかせる彼女。その手には薄焼き無発酵パンの巻物が。

 それに巻かれた樹液由来のシロップと果物の汁で口元にそえたアイアノは、完全にこの催しを満喫しているようであった。

 元々は二つの里の勝負を見届けるという名目で来ていたはずであるが。

「やっぱりそちらにしたんですね」

 利康は義姉に口回りの状況を指摘してから、その手にあるブリートに目をやり言う。

 それを受けてアイアノは、甘く味付けされた唇を舌で拭いうなづく。

「そーそーコーッチのがアタシ好みぽかったからさ? もーいっぽーはなんか、タレに魚使ってんの? 合わない感じがしたからさぁーあ?」

「もしかしたらとは思ってましたが、分かるものなんですね」

 そのアイアノの見立てに、利康は感心しきりと首を繰り返し縦に。

「なんだ? またなんか新しいの試してたのか?」

 そんなやり取りに、エルネストが首をかしげつつ混ざる。

 その問いに利康は肯定を返しつつ、その試作品を使っている場所を見やる。

 そこには鉄板を前にしたフミニアやポリーヌら村の女衆が、せっせと具巻きパンをこしらえている姿が。

 一種はアイアノが持っているものと同じ、果物と蜜巻きの甘いもの。

 対するもう一方には、赤褐色に色づいた炒め物が巻かれていた。

 様子を見る利康に気づいて、笑顔で手を振るフミニア。

 利康はそんな妻に同じく手を振り応える。

「アレがそうか? あの具に絡めたタレが?」

「ええ。説明を聞くよりは、実際に味わってみるほうがいいでしょう」

 利康と同じく、ポリーヌに応えて見せながら言うエルネストに、利康は百聞は一見にしかずと味見を勧める。

 そこへ話に上った食べ物を抱えたフミニアとポリーヌが歩み寄る。

「ごくろうさま。フミニアさん」

「いえ。あなたに任せられるのはうれしいです」

 妻をねぎらった利康は、エルネストへ目をやって手でもう一度勧める。

 エルネストは利康のすすめに素直に従い、自身の妻から試作品を使った具巻きパンを受け取る。

「魚使ってるとかなんとか言ったが、なら魚醤(フィゾース)か? だったら別に珍しい事はなんにも……」

「大丈夫ですよエル様。一口試して見てくださいよ」

 エルネストは魚醤のクセのあることを知ってか、難色を示す。

 だがそれにポリーヌは直接扱っていた者の一人として大丈夫だと重ね勧める。

 対するエルネストはにおいを確かめて、なおも怪しむような目を耳だけオークの妻に。

 しかしポリーヌは、そんな夫の疑わしげな態度にも笑みを崩さず、身ぶりをくわえてもう一度うながす。

 するとエルネストは不安げな顔色はそのままながら、具巻きパンにかじりつく。

「なんだコレ……!? マジに魚醤なのか!?」

 その一口に、目を見開いてのエルネストの感想がコレであった。

 驚きのあまり口に含んだままだったことに気づいたエルネストは、急いで口を手で隠して噛み始める。

「火が通してあるからか? いや、それだけじゃない! 元々のクセが無いのか!?」

 そして口に含んでいたものを腹に送ると、舌に受けた衝撃を改めて言葉にする。

 エルネストの見立てどおり、クセの少ない魚醤を目指した試作品なのだ。

 鮎魚醤、という物がある。

 藻を主食にした淡水魚を基にしたそれは、魚醤としては臭みが少ない。

 作り方としては魚を頭と皮を外す形でさばき、塩と合わせてつける。

 ちなみにはらわたを取り除く必要はない。

 発酵を行う菌は付け加える必要もなく、魚が自身の体内にすでに飼っているからである。

 この世界にいた鮎に似た魚。それが食卓に並んだことから、利康はこの魚醤の存在を思いだし、村近くの川から獲れる草食性の魚をいくらか分けてもらって試作していたのだ。

 期間が短かったのか熟成は甘い。

 そして世界が違えば菌の構成もやはり違うのか、雑菌が混ざらずキチンと出来上がったのは一部のみ。

 しかしながら、地球式の作り方がまた通用したということでもある。

「こいつはいけるぞ! 村特産の調味料として交易にも使えるなッ!」

 そしてなによりエルネストが太鼓判を押すように、これは村の特産品の一つとして顧客を得ることができる可能性は備えているのである。

「なぁーあ? そーろそろ次のが始まりそーだけーども?」

「お……っと」

 アイアノの声を受けて利康たちは改めて土俵へと目を向ける。

 するとちょうど次鋒役のカワロたちが立ち上がろうとしているところであった。

今回もありがとうございました。

次回の更新も未定ですが、待っていてくださるとうれしく思います。

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