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Pro/No.2 In the Game  作者: P2-ITG傍観者
6/6

ユメを見ていた操り人形。

今回は9000文字です☆


 アタシの好きなもの。お母さんとお父さん。

 でも、お母さんはお父さんの、なんだって。

 お父さんもお母さんの、なんだって言うの。

 愛してはくれるケド、アタシだけじゃない。


 アタシの好きなもの。二個上のお兄ちゃん。

 でも、お兄ちゃんは優しいけど、それだけ。

 アタシのお兄ちゃんだって、ずっとじゃない。

 愛しているケド、アタシの求めるものと違う。


 アタシの好きなもの。お友達のまゆみちゃん。

 でも、まゆみちゃんはまゆみちゃんの彼氏ので。

 アタシのものには、なってはくれない。

 大好きなのに、愛してはくれない。ずるい。


 アタシの好きなもの。チョコレートみたいに甘い物。

 アタシのチョコレートはアタシの物だけど。

 誰かのチョコレートは誰かの物。アタシのじゃない。

 そもそも、チョコレートは話さないから、意味がない。


 アタシは欲しい。

 アタシだけを愛してくれる、アタシだけの人。

 アタシだけを見てくれて、優しくしてくれて。

 ずっと、幸せになれる様な、そんな人が欲しい。


 そしたらね、見つけたの。

 ステキなものを。見つけたの。

 ゲームなんだけど、アタシだけを見てくれるの。

 アタシだけに夢を囁いてくれて、アタシを見てくれたの。

 しあわせ、しあわせだわ。

 唯一、残念な事は、その人(・・・)が主人公の恋愛対象じゃないって事。

 だから、アタシは本当に逢いに生きたい。

 あの人に、逢いたい。一目ぼれなの。平凡顔だけど、カッコいいの。すごく。


 ねえ。カミサマ。

 何でもする(・・・・・)から、アタシを連れて行って!

 アタシだけを見てくれる、あの人の世界に。

 いきたいの、ねぇ、カミサマ。連れてってよ。




 * * *



 アタシの名前は****。

 苗字は日本で二番目に多いやつで、名前は“太陽みたいに明るい子”って意味だって、ちっちゃな頃にお母さんが教えてくれた。お友達のまゆみちゃんも、“ひーちゃん”って呼んでくれた可愛い名前。

 苗字には鈴っていう漢字があって可愛かったし、名前も陽っていう漢字が可愛くて好きだった。アタシにとって本来の名前は、初めてお母さんたちから貰った大切な宝物。

 

 だから、カミサマには別の名前を言ったの。神様に嘘なんかついたら、って思ったケド、『君の(すべ)てに愛を捧げる~学園で開く蕾~』という乙女ゲームの主人公に成りたかったのもあったから……彼女の名前を借りた。

 そしたらね、そしたらね! 本当に『君の(すべ)てに愛を捧げる~学園で開く蕾~』の世界に来ていたの! 嬉しかった、嬉しかった! これで、アタシだけを愛してくれる人が出来るって! 心から、嬉しかったの! でもね、そう思えたからこそ残念だったのは、容姿が変わっちゃった(・・・・・・・・・)こと。

 これじゃあ、アタシを愛してくれないじゃない。アタシはアタシを愛して欲しかったのに!


 でも、でもね。

 カミサマは言った。愛して欲しかったら、それ相応の姿にならなくちゃって。

 アタシが求める、王子様みたいな人と巡り合うためには、それ相応の努力が必要だって。

 だから、だからアタシ……それなら仕方ないって、容姿の事は諦めたの……。


 それでね、それでね! カミサマが言うには、名前が同じだったからって、アタシの立ち位置を、『君の(すべ)てに愛を捧げる~学園で開く蕾~』の主人公の立ち位置にしてくれたの! 名前を借りただけなのに、なんだか悪いわって思っちゃった。でも、きっとゲームの中だから、大丈夫、よね?

 そもそも、アタシは自分の本来の名前を教えていないのだから、たとえ、カミサマが神様じゃなくっても、きっと、悪い事にはならないよね!


 そんな感じで、アタシはアタシのニューライフを始めようと思った。新しいお部屋に新しいアタシ。新しい出会いに、新しい街。きっと幸せな事が起きるって、まるでユメみたいだって!

 でもね、でもね。可笑しいの。楽しめると思ったのに、すっごく眠くて、すっごく身体が重いの。気づいたら、一日中寝てた、なんてことがほとんど毎日。


 そしたら、カミサマがまたやって来て、「今はキミの身体を調整中だから、きっとすごい眠いだろうね! でも、これも全てキミの為だからさ!」って言ったわ。だから、あぁ、ゲームの一年前に来てしまったんだね、って思ったの。だって、与えられたお部屋にあったカレンダーを見たら、一年早かったんだもん。

 でも、そうね。調整の為なら、仕方ないよね。こんなに身体が怠くて重くても、カミサマが色々(・・)とやってくれている証拠だって考えたら、この世界に来れた事もカミサマのお蔭なんだから、感謝しないと!


 それに、一年後がゲームの舞台なんだから、ちょうど良いよね。焦らない焦らない。寝ているだけじゃ、運動不足になっちゃう心配もあったけど、カミサマが、「ボクが調整に踏まえて、適度に運動させておくから」って言ってくれたし、問題ないよね。

 一年経って、カミサマがまた来た。「調整が終わったよ」って言ったのをぼんやりと聞いてた。アタシの唇は弧を描いて、可笑しそうに嬉しそうに笑った気がした。カミサマに「ありがとう」って言った気がした。


 でも、何でだろう? ゲーム通りに二年生になったのに、編入試験とかなくって、転入生っていう肩書でもなかったの。元から居たかのように、皆から優しく接されて、戸惑ってるの。

 それにね、何故か体が思うように動かないの。行きたい場所と、逢いたい人が違うの。

 言いたい事はコレじゃないのに、アタシの唇は別の事を言っちゃってるの。違う。貴方じゃないの、アタシの好きな人は『攻略対象』の人じゃないの。


 アタシが好きなのは、写真部の『高橋歩武(たかはし あゆむ)』くんで、そりゃあゲームの『攻略対象』じゃない人だけど、主人公を励ましてくれた素敵な人なの! 一目ぼれで憧れだったの! なのに、どうして? どうして? アタシは貴方なんかと恋はしたくないのに!

 やめて、やめてよ! アタシは虐めなんてしたくない! なんで、なんでアタシの身体(・・・・・・)なのに、動かないの? 動けないよ……! いやだ、こんな事の為に、来たかったわけじゃないのに!!


 違う、違う。そんな狂喜的な愛が欲しかったわけじゃない。好きでもない人の愛をもらってもうれしくない!

 一緒に笑ってくれて、一緒に怒ってくれて、一緒に泣いてくれて、一緒に楽しんでくれる……そんなワタシの愛する人が欲しかったの! 高橋君は、まさにそういう人だったの! だから、だからアタシは……!

 嫌よ、いやいや!! アタシ、こんなこと望んでない! どうして、カミサマ、どうして!? アタシが願ってしまったのがいけなかったの!? 何でもする(・・・・・)って言ったから!!


 嫌だ、アタシが、アタシの夢はこんなことじゃないの……もう、嫌だ。帰りたい、家に帰って、お母さんとお父さんとお兄ちゃんと一緒に、いつもの毎日に戻りたいよ!

 歩武くん、歩武君、アタシの好きだった歩武君が居ない……どうして? どうして、ひどいよ、やめて、やめて、怖い。そんな目でアタシを観ないで! 違う! アタシは陽子じゃない、陽子だなんて呼ばないで! アタシは、アタシは……!!


 ――歩武くん、『ゲーム』の貴方が好きだった。


 ――でも、目の前の貴方の目は、気持ち悪いくらいに可笑しいの。焦点があってないよ? ねぇ、歩武君は虐めなんて大嫌いなはずでしょ? どうして常盤さんを殴ってるの? どうして? 陽子ちゃんの為? 違う、やめてよ、アタシは陽子じゃないの、でも言葉にできない。望むように唇が動かない。


 ――鏡の向こうのアタシと、いっしょの目をしてる、ね。でも、こんなおそろい、うれしくない。


 パキィン。

 アタシの中の、大切な何かが、壊れた音がした。でも、もういいの。

 だって、なんだか、眠くて…………。




 * * *




 カチッカチ。音を立てて、作業を繰り返す。何度も繰り返される作業の中、一つの(ほころ)びを発見したらしい。

 金髪の髪が揺れる。同色の瞳をぱちぱちと何度も瞬きしては、ソレをまじまじと見つめて確認しているようだった。

 そんな不思議そうな動作、首を傾げた金髪は、ソレを指しては隣の“誰か”に話しかけた。

 その声色には残念そうな感情が込められている。


「ありゃ。まだ序盤おままごと……一年生時だけど、Pro/No.2(あやつり人形)ちゃんにバグ発見! 魂と媒体に分離が出来ちゃったよ! ど~する? 直す? 切り離しちゃう??」


 話し掛けられた“誰か”――黒髪は、目の前を覆う髪の隙間から、そちらを興味が無さそうに見やる。作業は続けたまま、どうでもよさそうに一瞥しただけだった。

 キュイン、カタ、キュイン。駒を集めて、構造を組み立て、舞台と脚本を構成し、運命を動かす。

 不思議な音を立てて、彼のキーボードは文字を続けていく。


「切り離せ。欲しかったのは“異世界少女(こいするキモチ)”っていう媒体で、特別、魂の方じゃないんだから。

 そもそも、身体自体がこっちの都合で造ったキャラクター体だし、バグが生まれたならば、コレは幸い。魂の方を元居た世界に先に戻してしまおう……後々面倒になるからな」


 ギィッ。音を立てて、椅子から離れ、黒髪の側に立つ金髪。淡々と答えた黒髪の言葉に、ケラケラと可笑しそうに笑って、金髪は黒髪の肩に腕を乗せる。

 黒髪はそれを鬱陶しそうに身動(みじろ)ぎしたが、音を鳴らしたままで作業を止める様子は無い。


「うわ、かっわいそ~(笑) こんなカミサマ擬きに目を付けられるなんて、Pro/No.2(あやつり人形)ちゃんは運が悪いな~」


 遠くからでも操作は可能なのか、カチカチと操作音を鳴らしている金髪。全く可哀想と思っていないからか、その声色から同情の色は見えず、ただ可笑しそうに笑っている。

 壊れた異世界少女(たましい)の事はさて置き、動かせる媒体(うつわ)を自分の思うが儘にでもしようというのか、彼女は手のみでちょんっと触れて、その媒体に様々なコマンドを追加していく。


「カミサマ? アクマ様の間違いだろ? 善愛なるカミサマと間違われるなぞ、耐え難い絶望を招くだけさ。

 それに、Pro/No.2(あやつり人形)になったのは、あっちが望んだことだ。何でもするからトリップしたいって。お望み通り、何でもして貰っただけだ。一応、取引は取引なんだから、な」


 嫌そうに、小馬鹿にしているように、鼻で笑った黒髪。彼は作業を進めていたキーボードから手を離し、椅子を音を立てない様に引いて立ち上がった。

 ウィーン……ガガガ。彼が立ち上がり向かった先には白い長方形型の箱。何かしらの機械音がそこから響き、箱にある黒い切れ目から出てきたのは一枚の紙。


「まぁ、Pro/No.2(あやつり人形)ちゃんも一応、賢いっちゃあ、賢かったよね? おかげで、ボク達も魂まではPro/No.2(あやつり人形)ちゃんに出来なかったんだし?

 いや、魂までPro/No.2(あやつり人形)ちゃんにしたら、上司サマが大激怒! だけど。で、切り離したけどど~すんの?」


 黒髪が白い箱の方に向かったのを見て、再び自分の席へと戻った金髪は、『ゲーム画面』に映っている媒体(うつわ)から、白い珠のような物を人差し指クリックで取り出してから、黒髪に尋ねる。

 金髪の見ている画面上、その白い珠の頭上アイコンには、涙マークと髑髏マークが付いていた。


「ん? どうするも何も、返すに決まっているだろう?

 本名での契約ならともかく、偽名での契約なら、ある意味、此方らがこの女を攫ったかのような感覚だろうからな……あっちの善愛なる何とかサマになんか言われる前に、女の記憶を適当に弄ってユメ見ていたようにしとく。商売に支障が起きたら困るし……なぁに。あっちでは一週間しか経っていないんだから、大丈夫だろ」


 白い箱から取り出した一枚の紙を満足そうに見ていた黒髪が、金髪からそんな事を問われれば、当たり前のように言葉を紡いだ。

 確かに魂に名づけられた真名ならばともかく、言葉と思いから生まれた偽名では正式な契約にはならないんだっけ? と、金髪は納得したように言い。

 時間差としては『ゲーム』では一年弱経ってるが、あちらではたったの一週間ぽっち。そこまで気にしなくてもいいだろう、という意味で黒髪は言った。


「あぁ、キミが言ってた、調整って……あっちに残っちゃったPro/No.2(あやつり人形)ちゃんの身体とのリンク云々だったのか~。

 やっさし~ねぇ? まぁ、眠いわけだよね~……あっちじゃあ昏睡状態だったんだし?」


 そんな黒髪に、金髪はすべてに納得がいったようにポンッと手をたたく。

 そして、キミは心から優しいねぇ、と褒め、人差し指クリックをしたままだった画面上の白い珠をそっと離した。何やらメール画面のような物を開くと、そこに白い珠を添付して何処かへと送信する金髪。

 送信したのを満足げに見届けると、金髪はメール画面を削除し、再び画面上で繰り広げられている様々なイベントを確認した。


「知らんな。……おっと、もうラストイベントか何か始まるみたいだぞ? 随分と早いな」


 手にしていた紙を机に置き、金髪の見ている画面を覗き込む。

 そこには、大きめの空間にわらわらと集まっている男女と、大人たちの姿。退屈そうに老人の話を聞いている子供達の、その一部では誰かを嫌悪しながら探している者達も居る。

 手前に居るのは、魂が切り離された残った媒体(キモチ)、造り出されたキャラクター。見目麗しい男どもを侍らせながら、可笑しな笑みを絶やさず、喋り続けている。


「あ、そうだった。早送りにしてたんだよね~! だって、これのメインイベントはやっぱりラストじゃん? あとは、プレイヤーの好きに進めて貰えば良いし。まぁ、バッドもノーマルもあるけど、ボク達が今見ているのは、ハッピー(笑)の方だよ~!

 さ~て、今回の『Pro/No.2(あやつり人形)ちゃん In The Game』……略してはP2-ITG(おままごと)は、どんな結末を迎えるのでしょ~か!」


「フン。セカンドタイプは、結局のところ、“トリップした者を最終的にはどうするか”ルートだからな。先に心が壊れてしまった方が、あの魂にとっても幸いだったかもしれんな」


 金髪がくすくすと笑って、画面上に向けて合図を送る動作をする。

 それを呆れ顔で見やった黒髪が肩を竦めて、先ほど切り離した魂のことを思い直しては、正しい選択だったのかもしれないな、と言う。

 それを聞いた金髪は、一瞬だけ顔を引き攣らせ、確かに、と言葉を詰まらせたが、終わった事だ、とすぐに自信を持ち直し、楽しそうに言った。


「あー。変にもっと壊れたりしたら、馬鹿者! 人間界の乙女の魂をこわすとは……これでは天界との商売にならんだろう、我が魔界社をつぶす気か! って上司サマ方にぶちっとされちゃうもんね! 考えるね~?」


「貴様ほどではないさ……あのキャラクター体に、目で意のままに他人の心を操る設定を付け足したんだからな。で、この設定が効かなくなる条件も、貴様が付け足したんだろ?

 確か、“危害”を受けたり(イジメられたり)、“暴走”を観たり(中庭で独り言を聞いたり)、したら……だったか?」


 画面上で眺めているのは、大きな白いスクリーン。そこに映し出された、映像と音声。

 その内容に驚愕する面々、騒ぐ少女、困惑し避難する周り。でたらめだ! と騒ぎ立てる者や、まさか? と混乱が伝染していく者も。このルートは、嫌われ者側のハッピーエンドでしか見れない物だが、どうにもリアルすぎて気味が悪い設定になっているのが特徴だったな、と黒髪は思案する。

 思考を画面へと戻すと、白いスクリーンの側に立っている、二人の女子の姿がそこにあった。彼女らに向かって罵声罵倒が飛ぶが、一人はそれをふるふる耐え凌ぎ、もう一人は鼻で笑っている。


「ふふん! まぁ、そこはチカラ有る者のご都合主義って事で!

 まぁ、結局は全部、上司サマの命令なんだけどさ。キミもボクも、ねぇ?」


「全く。上司サマの考える事は理解しがたいな……制作済みの乙女ゲームを利用して、今度はバーチャルシステム風もっとドロドロ嫌われ、にしてみろなんてな。どれだけ心が荒んでいるんだ?

 可能ならば、本当の恋する想いを用意し、それに“老若男女に愛される素質”を追加せよ、とは……無茶ぶりも良い所だ」





 彼らの居る此処は、ゲーム制作会社だ。一見普通の会社に見えるが、実は魔界の制作会社であって、従業員の中に人間は居ない。

 けれど、それはどうでもいいことだ。有り得ない事があり得ているだけ。

 別に実害を与えているわけではない。もちろん、ファンの思いに応えて、今回のように力を借りる事はあるが。


 そう。今回は、人間界で有名になったとある『ゲーム』を魔界に持ち帰った所、思いの外反響を呼び、この制作会社が適当に似せて造った嘘PVにより、反響と多数のファンからの是の声のお蔭で誕生した作品に、いつも通り人間を参加させただけだ。主役のように素敵な恋がしたい、と言っていたから、それを叶えてやっただけだ、と黒髪は笑う。

 造る事を愉しめれば何でもいい、と思っている人外には、人間の心は分からないのだ。主役になれるならば何でもする、と簡単に言ってのけてしまう人間が、人外の真意を分からないのと同様に。


 現在、彼らが造っている『ゲーム』。前作の二次創作(無断)であり、様々な視点ルートが楽しめる短編集でもあるこの作品。エンド数はバッド、ノーマル、ハッピーの三種。そしてエクストラモードとおまけ。

 本当にいい具合に販売されるのか? と、制作側としての不安もあったが、上司命令で造った一品。別名、『カミサマの御都合的恋愛ゲーム with 前作』。

 とりあえず、最終確認として、動作・バグ、イベント等の確認をしていた二人だが、案の定、バグは起こったものの、それは予期していたモノだった為に回避成功。ハッピーエンドルートで起きたバグを取り除き、現在はラストイベントを見直している。


「あはは。まぁ、上手く行ったんだからいいじゃん? P2-ITG(全愛嫌われ風モード)が無事販売まで完了したら、次は別のジャンルが良いって掛け合ってみようよ!」


「次は、乙女ゲーム(おままごと)なんぞより、RPG(ものがたり)の方が、楽しいだろうしな。やはり、できるだけ愉しめる方を造らせてもらいたいものだ。無理だとは思うが」


 はらり。黒髪が机に置いていた紙が、床へと落ちる。

 その紙に書かれていたのは、“ドキッ★制作会社のエイプリル限定作品・お遊び短編が解禁! If番外・『嫌われストーリー』!  桐栄陽子(きりえようこ)に成りすましたトリッパーに()められた、この『作品』の『主人公』である『常盤尊(ときわみこと)』と、そのヒロイン『東間幸乃(あずまゆきの)』を中心としたハートフルボッコギャグ学園恋愛ストーリー。ラストエンディングは、君の選択に掛かっている!”という文字。

 そして、『君の(すべ)てに痛みを捧げる~学園で纏う棘~』というタイトル。





「ま、このヒロインちゃん……幸乃ちゃんも頭賢いよねぇ。Мっ子だけど、頭は回る回る。

 乙女ゲームみたいって言われて、ヒヤッとしたよ。まぁ、キミが書いたセリフなんだけどね!」


 ゲーム画面で飛び交う罵声、騒然としている会場の中、立派な少女だと思っていた一人から、俺は、男だ! と言い切る声が響く。それは主人公『常盤尊』であり、彼はカツラを脱ぎ捨て、着ている服を肌蹴させていた。

 ……本当に、これがハッピーエンドか? と黒髪が納得がいかないような視線を送るが、金髪はにっこりと微笑みを返し、黒髪に画面を見る事をお勧めした。黒髪が画面に再び視線を向けると、今度は主人公が騙していた事についての修羅場化としていたが、もう一人が更なる暴露をすると、辺りは一瞬空気が凍ったような雰囲気となった。


「あはは、一応、ギャグだからさ? 最後の最後でドタバタして、ぐるぐる~のっぽい★ してもいいかな~? って」


「これはおまけルートにしておけよ。流石にこれじゃ、微妙な感じだからな」


「うへぁ~い……んじゃあ、主人公暴露はしないで、イケメンズに問い詰められたトリッパーが自棄になって暴露しちゃう方にするね~」


「あぁ、むしろ、そっちの方が基本っぽいからな……」


 画面上のイベントを停止させて、指クリックとキーボードで内容を変更していく金髪。また、黒髪に言われた、おまけモードのページを開いて、そちらに先ほどまでの暴露シーンを造り変えていく。

 造り変え終わったのを見た黒髪が、これならばファンも納得がいくだろう、と言い。今度こそ、ラストイベントを繰り広げていく画面上。


「番外編ならではの『ゲーム』には、時には多少のイレギュラーも必要だ。それが今回の様な、嫌われ者をハッピーエンドにさせるならば、こういった趣向(イレギュラー)も可笑しくは無いだろう?

 『転生者』という枠組みを使う事で、尚更な」


「自分達も『転生者』枠になりたい! って言ってきた元仕事仲間で、元マジン夫婦(カップル)の記憶を弄るのには、さすがに躊躇ったけど~。まぁ、あっちでも案外楽しんでいるようだから~、良い感じかな!

 旦那ちゃんの養護教諭云々の話は流石に、付け加えすぎたかな~? って思ってるけどね☆ 性格は相変わらずオネェで安心したなぁ~。お嫁ちゃんも、相変わらず自分至上主義で、仲良しこよしさ★

 でもでも、天界魔界の者達をも楽しませたいがために、自ら『ゲーム』の材料になるなんて……ホント、これで記憶弄り直したら、ど~なることやら★ やらないけど!」


 画面端の笑いを堪えているらしき男性をニマニマと見やる金髪に、黒髪は、彼の机に立て掛けられていた写真の様な、立体画像を観ては懐かしむ。栗色の髪と紫黒色の髪の仲睦まじい男女の姿がそこにはあった。

 楽しんでいるならばいい、と呆れたような、感心している様な言葉を紡ぎ。

 金髪と同様に、ラストイベントの醍醐味、『ゲーム上のシステム』によるトリッパーの消滅を確認して、この画面上に居る『主役』枠と『転生者』枠の三人の驚愕している顔を見て、これならば、と笑った。

 そして、彼ら三人の心情など無視して、『ゲーム』はエンディングを迎える……。


「フ。では、このストーリーで完成にするか。

 これ以上弄った所で、何か変わる事も無いだろうし。何より、容量が大変な事になるんでな」


「おっけ~★ じゃあ、さっさと他の部署にも連絡するね~!」


 再び、メール画面の様なものを開いた金髪が、造り上げた作品のデータを添付して様々なところに送る。本文に確認よろしく! と掻き、題名には『全愛嫌われ風味ストーリーが完成したけど、何か、変えてほしいとこある?』と付けて。

 一応、仕事が終わった事に安堵した黒髪は、流れるスタッフロールと『ゲーム上の』今までのイベントで出てきた絵を観つつ、薄ら笑みを浮かべた。


「人間はたくさんいるんだ。少しぐらい、使用したって、構わないだろう? たとえ、壊れても、直してやるんだからな」




これにて、完結です。

結局は、すべて、『ゲーム』だったのです☆

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