受験・・・本番
とうとう受験本番。最初は呆気ない。本人にしてみれば呆気ないのだ。けれども・・・。
T大学の受験。某、郊外都市の校舎だった。
呆気無くテストは終わった。正直、何だ、こんなモンか、と驚く程に簡単なテストだったので合格する自信は、まぁ、あった。何しろ普通ならば高校一年生が解くような問題ばかりで、たまに難しい問題もあったがそれもちょっとばかり捻ったレベルの問題で、引っ掛けの中身も簡単に見透かしてしまうような内容だった。
僕はT大学の、否、推薦入試で受けるような大学の過去問題は一つとしてやってはおらず、いつも早慶とか明治とか、都立大(現首都大学東京)とかそんな有名大学の赤本ばかりを解いていたから簡単に見えたのだった。ただ不安要素としては、成績の悪い僕ですら簡単だと思える位のテストなので、廻りは皆、100点満点を取るんじゃないか、そんな不安は確かにあった。また、そんな自分とは不釣合いな勉強ばかりをしていたから、実力など本当は無い事位判っている。だから薄っぺらい中身が見透かされてしまうのではないだろうか、そんな不安は確かにあった。
しかし翌週の月曜日には合格通知を受け取った。それは呆気ない出来事で、まずファーストステージをクリアしたような気持ちでいた。
ただ問題になったのは入学金の事で、父母共にT大学に行く気がないのならば入学金は払わないよ、もし払ったとして、他の大学にお前が合格したら、社会人になってこのお金はきっちり返して貰うからね、ちゃんと紙に書き残しておくからね。そう言われて僕は憂鬱だった。結構な金額で、五十万位だったかな?。入学一時金として三十日以内には振り込みをしなければならないのだった。別に浪人してすねかじりをしている訳ではないのだから、いいじゃねぇか、僕は正直そう思っていたがそれは単なる僕の甘えだと今はちゃんと理解出来る。無駄金を一切払いたくはないのは本音だからだ。ケチとかそういう問題では無く、無駄なのだ。正直最初からT大学になど行く気は全くなかったから、もしもどこにも大学に行けなくて、そのすべり止めとしての最低限度の大学がここならば、と選んだ程度である。だから僕にも父母には負い目を思いっきり感じていたのは事実だった。
………湧いたのは家庭ではなく学校だった。
毎年この時期になると進学指導を担当する先生達は、その合否に常に神経質な程に気に掛けた。ましてや先に進学クラスだったかつてのクラスメート達がT大学の経済学部を皆受けて、落ちて帰ってきたばかりだったから、進学クラスの鼻ツマミの僕が法律学部を受けて、どうせ落ちるだろう、と皆、その落ちる報せをずっと待っていたのだ。しかし合格してしまった。高校内で大学合格一番乗りとなった僕と同じ柔道部のU君は、共に英語を試験課目として選択しなかったから、進学クラスの先生(かつての僕の担任で僕を進学クラスから追い出した張本人)始め、皆僕等を白い目で見ていた。卑怯者扱いされたのだ。アイツは英語に自信が無いから英語を避けた、と最初はヒソヒソ程度の噂話だったが、それがやがて、全く関
わりの無かった後から進学クラスに入った人に言われた時は正直ショックだった。
しかし次ぎのK大学。ここは最後迄学部の選択に迷ったがこの一件があり、外国語学部を受験する事への決意を更に固め、英語だけで勝負をしようじゃないか、そう思った。そして英語だけで勝負を掛ける事にした。とにかく馬鹿みたいにアトサキ考えず英語ばかりを勉強し、他の日本史や国語などの課目への時間は殆ど無くした。
K大学の外国語学部の平均偏差値は六十。
僕は一瞬その数字を見た時、頭が凍りついた。思考が止まるとはまさにこの事だろう・・・。そりゃそうだ。まさか偏差値六十もあるなんて思ってもいなかったし、大学案内の本にある、所謂、同レベルの受験選択大学、というような欄を見ると上は(チャレンジの領域)上智・青学・立教大から始り、下ですら麗澤大………語学系のイイトコばかりが目に付くような気がする。
僕には絶対無縁の大学ばかりだ。所謂併行して受ける確実なラインの大学は、地方国立大や日東駒専ラインから、國學院、大東亜帝国などで僕はこの内の一つに先に合格をした訳だ。安全圏ラインでもやっぱり大東亜帝国から、拓殖大などで僕が通常の試験でようやく受かりそうな大学のレベルが確実ラインとの事だった。もし合格して、入学しても基礎学力が違いすぎるんだ。大学の勉強についていける訳が無いだろう。正直そう思った。廻りの話をよく聞くと、大当りだったと今は振り返る。
また、僕はこのK大学の入試試験の際、僕はとんでもない体験をした。
周囲の雑音がどうしても耳に入ってしまう。しかも今度受ける大学は自分の実力を遥かに上廻っているようだ・・・。この先一体どうなるのだろうか・・・。