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受験について

もう真知子との事には殆ど眼中にはない「僕」はどんどん受験に没入していった。

 夏の終わりを告げる9月の末、僕の高校は秋休みなんてモノがある。9月の末の週の5日、土日含めると7日間お休みがあるのだ。ゆとり教育なんてモノが始る遥か前だが、私立の特権かどうかは知らないがとにかく休めるのだ。そしてまた、もう推薦入試シーズン迄あと1ヶ月を切ろうとしていた。僕は最後の追い込みを掛けるべく、かなり激しく勉強をしていたが、夏の残り火なのだろうか、僕の姉は当時付合っていた彼氏さんをよく家に呼んでは愉しく談笑をしていた。そんな事にもピリピリしている僕の心境を逆撫をする事は言う迄もない。何しろ自分の付合っている彼女とは、とてもではないがいい雰囲気とは言えないし、受験勉強の為に全ての神経をそちらに向けていたから愉しそうにしている声がよく聞こえるから苛々していた。しかもどこの大学を受ければいいのか、僕はなかなか焦点が定まらずにこの事も焦りにつながっていた。願書提出まではあと2週間しかない。学校の先生も、煮え切らない僕の態度にちょっと不安を隠し切れない様子だった。


 当時の推薦入試のシステムと今とではどう違うのか、分からないが簡単に説明をしておくと、


・推薦入試で合格が取れたら必ずその大学に入学をしなければならない

・入学金は前納

・学校によっては併願は許されない


ざっとこんな感じだったのでいかにして合格発表迄の間に次の願書提出を間に合わせるか、いかに日程調整をして幾つかの選択をするのか、という勉強とは全く関係の無い事での調整が効率良く、また効果的に大学受験を行えるか、という事だった。休みの間、何度も色々な大学の入学願書の日程と仕組みとを確認して、日程のシミュレーションをした。結果としてはこうなった。


・10月某日 T大学法律学部受験。翌週月曜日合格発表

・10月末週某日 K大学受験と同時にWK大学に願書提出末日

・11月初旬某日 K大学合格発表

・11月中旬某日 WK大学受験

・11月中旬   TY大学願書提出

・11月末    TY大学受験


第一志望は最後のTY大学。しかし合格率は30%。すべり止めはT大学でここは当時唯一併願可、という制度だった為、僕の高校でも人気はあった。しかし入学金が馬鹿高い。更に同大学で当時、副学長のA氏がワイドショーなどで渦中の人となっていた。T大学は都内の僕の生家近くに医学部も抱えており、金満大学としての汚名も当時はあった。入学金だけを搾り取って………という構図が高校生の僕でもすぐに分かるような感じだった。しかし今の大学はそんなの比じゃないね。T大学など寧ろ今では可愛い方じゃないかな?。


 その他のK大学は合格率が更に下がり10%未満じゃなかったかな?。理由は僕の不得意な英語のみの試験で、しかも英語での面接もある。所謂チャレンジ入試という奴だ。外国語学部で僕は正直、興味も無かった。


 それ以外のWK大学は鶴川という町田の外れにある大学で千葉の実家からはとてもではないが通える大学では無いが学部が僕にとっては魅力的だった。人間関係の勉強で、心理学を勉強したいと思っていた僕にはぴったりだった。TY大学は本郷にキャンパスを置き、また、僕の敬愛するSの出身大学で同じ学部を受ける予定だった。印度哲学という学科で昔は駒沢と並んでお寺の息子さんが通う学科だったらしい。僕もお坊さんになるつもりは毛頭無かったが、修業の道を歩むには丁度いい、印度哲学なんて何を勉強するのか、さっぱり分からなかったが未知の世界に行くのも悪くは無いと思っていた。


 しかし問題はWK大学、TY大学共に論文を書かなければならない事で、文章を書く事自体は嫌いでは無かったし、当時から物を書ければと切に願っていたのでそれは良かった。しかしどうも与えられているテーマからはアイデアが何一つピンと来ない。インスピレーションで文章を書くスタイルは今も変わらない。当時は余計に未熟だったので、どうもピンと来なかった。今なら適当に合わせて書けるのだが………。


 一応、ラインは決定したのでそれぞれ学校見学に出向き、一応のキャンパスライフがどうなのかを確認した。中でもK大学は最寄りのH駅から出るバスを一回乗り間違えてしまい、とんでもない辺鄙な場所に行ってしまった為、そうとう時間を費やした。取り合えず先に分かって良かったような気がする。また、グラウンドを見ると野球部がフリー打撃をしていて、夕方の寒空なのに元気がいい。気持ち良く木製バットで硬球を打つ音に、僕は素直に感動した。俺も早くまた、野球をやりたい、そう思った。



 もうこの時期になると真知子の事など全く頭に無かった。もう心はお互い、あっという間の早さで離れて行ったのだ。特に真知子は僕に幻滅しただろう。年も2つ上である上に、何だか僕の考えがよく理解出来ないような感じだったし、デートしても余り楽しそうではなかったように写った。その証拠として、


「受験、頑張ってね。」


という一言すら無かったのだ。僕にしてみれば、おいおい、と思っていた。そして同時に、


「なんだ?、これ?、何様のつもりだ?、テメェから告ッといて。」


と僕も真知子には苛立ちが隠し切れないような、信用出来ないような、そんな感じだった。所詮自分の事しか考えられないお嬢様なのか、と僕はもうウンザリしていたのが本音だった。少しは相手を思いやる気持ちがあってもいいんじゃないのか?、いくら最初、僕が無神経な事をほざいたにしてもちゃんとフォローは入れた。更には真知子の話を最大限、聞いて僕はなるべく聞き役に徹した。なのになんでだろう?、高校生の僕はさっぱり理解出来なかった。今なら理由はよく分かるのだが………。これが若さ故の………という奴なのだろうか?。


 こんな感じで僕の長い、長い、夏の終わりと寒い秋の始まりを感じ始めていたのであった。

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