真実の糸 2
「勝負の内容は……」
極限まで高まった緊張のなか、先生が重々しく口を開きました。
ごくりとつばをのむ音。
それがみんなののどから聞こえたような気がしました。
「勝負の内容は、煮込みうどんの早食い対決だ!」
★ ★ ★ ★
「なんでそうなるの!」
ここで夢はおわりました。
というよりも、自分のツッコミの声が大きすぎて、その爆音でわたしが目を覚ましてしまったのです。
「せっかくいい夢だったのに……途中までは」
ため息を何度もつきながら、着替えと洗顔をすませて、わたしは1階におりました。
「おはようございます、マスター」
リビングではマスターが朝食の準備をしていました。
「おはよう、アリナちゃん」
すでに仕事着に着替えたマスターが笑顔であいさつしてくれます。(ちなみに、今日のエプロンの文字は「100点スマイル、0円提供!」です。)
「あれ、先生は?」
「魔捜研にいるよ。古くなった魔導具の整理をするんだってさ」
じつは『め~め~めふぃすと』の地下には魔捜研とよばれる研究室があり、ここで事件の証拠品を魔導具で鑑定して、犯人をわりだしたりするのです。
「もうそろそろ、あがってくるんじゃないかな」
「あの、マスター」
「ん、なに?」
「もし……もしですよ。もし、わたしが結婚したら、そのときは一緒にバージンロードを歩いてくれますか?」
そのときのマスターの顔を、わたしはわすれません。
たった2秒のあいだに、彼の顔がおどろき→困惑→よろこびと3段変化もしたのです。
「も、も、もちろんだよ。だって、ぼくら家族じゃないか」
マスターが、両手の親指をあげます。
「アリナちゃんの花嫁すがたかぁ。いや~、すごくきれいなんだろうなぁ」
天井を見あげて、マスターがそんなことをつぶやきます。
すると、とつぜん、
「うう……ううう……」
「マスター?」
「う、う、うわああああん」
夢と同じように、いいえ夢以上に声をあげて、マスターが泣きはじめました。
「ちょ、ちょっとマスター、だいじょうぶですか?」
「だって、だってアリナちゃんが……アリナちゃんが……」
マスターが近くにあったティッシュで、ブーーーと鼻をかみます。
「アリナちゃんと過ごした日々を思いだしてたら……そしたら、なみだが勝手にあふれてきて……」
そこで、ふたたびブーーー。
「ぼくは……ぼくは本当の父親じゃないけど、それでもソウマくんとアリナちゃんのことを本当のこどもだと思って……う、う、う」
そして3回目のブーーー。
「あはは、みっともないとこ見せちゃったね。この歳になると、タマネギどころかジャガイモを切ったぐらいで、なみだが出てきちゃうんだ」
真っ赤な目をほそめて、マスターがわざとらしく笑います。
「ソウマくんの様子を見てくるよ。朝食、さきに食べておいてね」
なみだと鼻水を手の甲でふきながら、マスターはリビングから出ていきました。
――マスター、ありがとう。
結婚なんてまだ先の話だし、本当に先生と結婚できるかもわかりません。
でも「もしも」の話で、あれだけなみだを流してくれる人と家族でいられるしあわせに気づいたとき、わたしの目からも、ちょっぴりなみだが流れました。
「パパ……」
だれもいないリビングで、わたしはマスターのことをそう呼んでみました。
――やっぱり、ちょっとはずかしいな。
胸をつつくはずかしさ。
それを1秒でもはやくわすれたくて、わたしは青春フレフレフレンチトーストにかじりつきました。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




