真実の糸 6
「だから、おまえも家族になるんだ!」
妖しく光る大土先生の右手。
そこから出た糸が、わたしのからだに巻きつきます。
「うぅ……」
クモの糸がからだを締めつけます。
動けない。
ほどけない。
苦しい。
骨がきしむ。
「殺しはしない。だが、からだはもらうぞ」
大土先生が糸をたぐりよせます。
1歩、2歩、3歩。
からだがどんどん引き寄せられます。
糸を引きちぎろうとしましたが、極太の糸は硬くて、わたしの力ではどうすることもできません。
「日向、おれたちの家族になるんだ」
大土先生の左手が、わたしの口にのびました。
★ ★ ★ ★
絶体絶命……。
いいえ。大逆転のチャンスです!
「いまです、先生」
開け放したかばんから、白い影がさっと飛び出しました。
白い影の正体。
それは封魔探偵、月読ソウマでした。
「封魔陣・ゴセイ」
光り輝く⛤の陣形。
先生は、それを大土先生の背中にたたきつけました。
「うおぉぉぉぉ」
大土先生がくるしそうに床を転がります。
「日向、きさまぁ!」
「いいましたよね、『いま、この学校で意識があるのはわたしたちだけ』って」
そうです。わたしたちのなかには、カバンのなかに隠れていた先生も含まれていたのです。
「ああ……ああ……」
絶望のなかで、大土先生が、ふたたび口を開きました。
しかし、糸は出てきません。
代わりに口から出たのは、だ液がべっとりついたクモでした。
背中に⛤が刻まれたクモは、大土先生と同じように脚をバタバタさせて、くるしそうにもがいています。
けど、それもすぐにおわりました。
足元に黒い穴が開き、8本脚のちいさな悪魔はそのなかに沈んでいったのです。
封魔陣・ゴセイ。
魔物を封印させる力をもった、封魔探偵の切り札ともいえる魔法陣です。
「おわった……」
緊張が一気に解き放たれて、肩から力が抜けました。
黒霧中学校を支配していた悪魔は、もういなくなった。
その証拠に、わたしのからだを縛っていた糸は、あとかたもなく消えてしまいました。
「やりましたね、先生」
「おかしい」
「先生?」
先生は、気をうしなった大土先生をじっと見ています。
「アリナくん、彼はこの事件の犯人じゃないよ」
「え?」
大土先生が犯人じゃない?
わたしは先生の言葉が信じられませんでした。
「封魔陣は人間には効果がない。もし彼が悪魔なら、肉体ごと封印されるはずだ。けど、彼はこうしてこの場にいる。それこそ彼が人間であることの証明さ」
「でも、実際に封印したじゃないですか。わたし、ちゃんと見ましたよ。口から出てきたクモが穴のなかに沈んでいくの」
「そうだ、ぼくもたしかに見た。けど、もしかしたらあいつは、この事件の犯人じゃなくて、犯人のたましいの一部なのかもしれない」
「たましいの一部?」
「うん。犯人は自分のたましいの一部を削り、それを大土先生たちのからだに入れて、彼らをあやつっていたんじゃないかな」
「じゃあ入れ替わった人たちのからだには、みんな、あのクモが入ってるんですか?」
「おそらくね。鑑定で一致した魔力は大土先生ではなく、犯人のものだった。削った一部とはいえ、もとは同じ悪魔のたましい。魔力が一致するのは当然さ」
時間がとまっている限り、からだのなかにたましいがなくても大土先生は死にません。
でも、それにも限界があります。
もし魔法の効果が切れて、時間が進みはじめたら、たましいのない大土先生のからだは時間がたつにつれて、腐りはじめてしまいます。
そして、もし完全にからだが腐ってしまったら……。
たとえ、たましいがもどってきても、大土先生が息を吹き返すことは二度とありません。
「もうひとつ気になるのは、彼がいっていた『おれもあいつも、またひとりにもどってしまう』という言葉だ」
そうつぶやく先生は、穴があくほど大土先生の背中を見つめています。
「あいつ……あいつとは一体だれのことなんだ」
「おれのことだよ」
いきおいよく開くとびら。
その向こうにいたのは、わたしの知っている人物でした。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




