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真実の糸 5

 つぎの日。

 タクミくんも元気に登校して、その日の授業は何事もなくすべておわりました。

 その日は6時間目のあとに全校集会があり、全学年の生徒と教師が体育館にあつまっていました。

 そう、わたしと大土(おおつち)先生以外は。


 午後4時。

 1年1組の教室で、わたしと大土(おおつち)先生の放課後面談がはじまりました。

「すみません。全校集会の時間に面談を入れてもらって」

「気にするな。ほかの先生方にも了解は得ている」

 教室のうしろには、面談のためにつくえがふたつ並べられています。

 わたしと大土(おおつち)先生は、ここでおたがい向きあって面談をおこなうのです。

日向(ひなた)、だれにも聞かれたくない話っていうのは一体なんなんだ」

 大土(おおつち)先生が、のぞきこむようにわたしの顔を見ます。

「1組どころか全校生徒にも聞かれたくない話というからには、よほど重大なことなんだろうな」

「はい、とても重大なことです。わたしの正体にかんする話ですから」

「正体?」

 大土(おおつち)先生がまゆをひそめます。

日向(ひなた)、どういう意味だ」

大土(おおつち)先生、じつはわたし人間じゃないんです」

「おいおい、いくら相手がおれだからって、ふざけるのはよせ」

「ふざけてません。わたしは真剣です」

 そう、わたしは真剣です。

 つくえの下でにぎったこぶしがふるえるぐらい。

大土(おおつち)先生、わたしは人間じゃありません。悪魔です」

「悪魔?」

「はい。日向(ひなた)アリナは人間ではなく、悪魔なんです」

日向(ひなた)、ふざけるのもいいかげんにしろよ」

「ふざけてません」

「じゃあ、おまえが悪魔だという証拠があるのか」

「ありますよ」

 パチン。

 わたしは指をならして、時間をとめました。

「学校の時間をとめました。いま、この学校で意識があるのはわたしたちだけです」

日向(ひなた)! いくらなんでも度がすぎるぞ」

 大土(おおつち)先生がつくえをたたきます。

「おれはおまえの悪ふざけにつきあうために、ここにいるんじゃないぞ」

「じゃあ、なんのためにいるんです?」

「なに?」

大土(おおつち)先生はなんのために、この学校にいるんですか」

「それはおまえ……」

「みんなのたましいを入れ替えるため。そうですよね」

 大土(おおつち)先生が口を(ふさ)ぎました。

 けど、しわをよせた目はくやしそうにわたしをにらみつけています。

大土(おおつち)先生。生徒たちのたましいを入れ替えた犯人は、あなたですね」

日向(ひなた)、これ以上ふざけると本当に――」

「おどしてもムダですよ。あなたは逃げられません。これがその証拠です」

 わたしは制服の胸ポケットから、白と茶色の糸が入った袋をとりだしました。

「この糸は旧倉庫のとびらから採取したものと、あなたに肩を触られたときについたものです」

 きのう、大土(おおつち)先生は万年筆まんねんひつをなくしたとウソをつくわたしをなぐさめようとして、わたしの肩に手を置きました。

 そう。旧倉庫のまえでわたしの肩に触れた人物。

 それは大土(おおつち)先生だったのです。


『め~め~めふぃすと』の地下に()(そう)(けん)という研究室があることは、まえにも話しましたね。

 わたしは2つの糸を持ち帰り、それを()(どう)()で鑑定しました。

 結果、2つの糸の魔力は一致。

 大土(おおつち)先生が犯人だという、動かぬ証拠が手に入ったのです。

()(どう)()で鑑定した結果、2つの糸の魔力は完全に一致しました。大土(おおつち)先生、あなたは自分が出した糸で自分をしばってしまったんです。これでもまだ、しらを切るつもりですか」

「……自分の出した糸で自分をしばるか。ふふ、ずいぶんと皮肉の利いた言葉だな」

 大土(おおつち)先生はつくえをはなれると、窓のほうへ向かいました。

大土(おおつち)先生、あなたは生徒のたましいを旧倉庫に閉じこめて、別のたましいを彼らに移した。そうしてみんなをあやつっていたんですね」

 大土(おおつち)先生はなにもいいません。

 ただ目をほそめて、無人の運動場を見入(みい)っています。

大土(おおつち)先生は家族がほしかったんですよね?」

 窓ガラスに映った大土(おおつち)先生のまゆが、ぴくりと動きました。

「あなたは家族がほしかった。『みんなが、まるっと大家族』という言葉も、『蜘蛛の糸』を話したときに『みんなを家族のように思って接しろ』といったのも、クラスのみんなと家族になりたかったから。そうですよね」

 (おお)(つち)先生の口から言葉は出てきません。

 とまり続ける時間のなかで、無言の重さが教室をつつみます。

「……家族は最高の集団なんだ」

 大土(おおつち)先生が、ゆっくりと言葉を吐き出しました。

「イジメもなく、差別もなく、絶対に裏切ることのない固い絆で結ばれた集団。それが家族だ。おまえのいうとおり、おれは、ただそのなかに入りたかっただけなんだ」

 窓ガラスに向かってしゃべる大土(おおつち)先生は、まるで自分のこころと会話をしているようでした。

大土(おおつち)先生、いまなら、まだ間に合います。みんなのたましいを解放してください」

「間に合う、か」

「そうです。だから――」

「間に合ってどうする」

「え?」

「間に合ったところで、おれもあいつも、またひとりにもどってしまう。日向(ひなた)、ひとりはさびしいぞ」

 大土(おおつち)先生がこちらをふりむきます。

「だから、おまえも家族になるんだ!」


(つづく)



更新は毎日おこなう予定です。

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