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真実の糸 4

「アリナくん、ぼくはね、ここにハルカさんやほかの生徒のたましいが閉じこめられていると考えているんだ」

「たましい、ですか?」

「うん。ユリさんの話のなかに『夜中になると、古い体育倉庫の窓に青白い火の玉が浮かぶ』というウワサが出てきたのをおぼえているかい」

「もちろんです。それを調査するために、きのう、わたしはここにこようと思ってたんですから」

「さすがだね。ウワサに出てくる火の玉というのは、おそらく人間のたましいのことだろう。犯人は生徒たちのたましいを旧校舎に閉じこめ、別のたましいを彼らに入れて、意のままにあやつっている。そう、ぼくは推理しているんだ」

「そっか。たましいが消滅したら、肉体も死んでしまう。そしたら、あやつれなくなるから、犯人はみんなのたましいを旧倉庫に閉じこめているんですね」

「うん。すばらしい推理だよ、アリナくん」

 先生がほめてくれたときです。

日向(ひなた)!」

 ふりむくと、西校舎のほうから大土(おおつち)先生が、こちらに向かって走ってきていました。

「先生、はやく隠れて」

 先生が旧倉庫の(かげ)に隠れます。

 わたしも手首にからまった糸くずを、いそいで落としました。

日向(ひなた)、こんなところで、なにをしてるんだ」

 大土(おおつち)先生はわたしの顔を見ると、つばを飛ばして怒鳴(どな)りました。

 カッと見開いた怒りの目は、きのうのハルカさんと同じで血走っています。

「いまは体育の時間だろ、こんなところでなにをしているんだ」

「すみません。きのう、このあたりで落し物をしてしまって、それをさがしていたんです」

「落し物? 何を落としたんだ」

まんねんひつです。母の形見なんです」

 わたしはうつむくと、肩をふるわせて泣くふりをしました。

「ママ、ごめん。ママの大事なまんねんひつ、わたしなくしちゃった」

「そうか、お母さんの形見なのか」

 大土(おおつち)先生がなぐさめるように、わたしの肩に手を置きます。

「わかった。まんねんひつはおれがさがしておく」

「本当ですか?」

「本当だとも。だから日向(ひなた)は授業にもどれ」

「はい」

「それともうここには近づくんじゃないぞ。まえに遊び半分で倉庫に入った生徒がクギを踏んでケガしたこともあるんだ。だから絶対に近づくんじゃない。約束してくれるな」

「はい。約束します」

日向(ひなた)はおれの大事な家族なんだ。家族をあぶない目には()わせたくない。わかってくれるな」

「はい」

「わかってくれたなら、それでいい。それじゃあ、おれは職員室にもどるからな。日向(ひなた)もはやく授業にもどるんだぞ」

「はい。そうします」

「そうだ。さっき、なにか白いものが()ねていたような気がするんだが、日向(ひなた)はなにも見なかったか?」

「見てません。気のせいじゃないですか」

「気のせいか。うん、きっとそうだな。気のせい、気のせい」

 大土(おおつち)先生は、むりやり自分にいい聞かせるようにして、西校舎にもどっていきました。

「きみは将来、名俳優になれるかもしれないね」

 物陰ものかげから先生が顔を出しました。

「泣く演技なんて、アカデミー賞ものだったよ」

「そんな……ほめても、なにも出ませんよ」

「出す必要はないよ。ところでアリナくん、少ししゃがんでくれないかな」

「え?」

「きみの肩に気になるものがついているんだ。調べたいから、ぼくの手がとどくように、しゃがんでくれないかな」

 わたしはその場にしゃがむと、先生をひざの上に乗せました。

 先生はフワフワの手でわたしの肩をなでると、

「やっぱり、そうか」

 うれしそうに鼻をピクピクと動かしました。

「見たまえ、アリナくん。これがきみの肩についていたよ」

 突き出した先生の手には、ネバネバした白い糸がからみついています。

 それはまぎれもなく、クモの糸でした。

 茶色ではありませんが、フリースローのときにわたしの手についたものと同じ白色の糸です。

「アリナくん、ここにくるまでに、ぼく以外できみの肩に触れた人物がいたかを思いだしてほしい。もし、その人物を特定できたら、犯人をわりだせるかもしれない」

 わたしは、この30分のできごとを正確に思いだそうとしました。


【着替えの時間】

 だれにも触られてないし、触ってもいません。


【運動場への移動時間】

 移動はハルカさんと一緒でしたが、彼女に肩を触られたおぼえはありません。


【準備体操】

 体操は個人でしていたので、だれとも、からだは触れ合っていません。


 ここまでは、だれにも肩を触られていないと断言できます。

 旧倉庫にきてからのことを思いだしていると、

「あ……」

 いたのです。

 たったひとりだけ、先生以外でわたしの肩に触れた人物がいたのです。

 ――まちがいない。あの人が犯人だ。

 わたしは犯人を確信しました。

 なぜなら、もしその人物が犯人だとすれば、この学校でおぼえた違和感のすべてに納得のいく説明をつけることができるからです。

 異常ともいえる1年1組の仲のよさも、フリースローのときに手のひらについた糸も、すべての謎に説明をつけることができるのです。

 ハルカさんでも先生でもなく、わたしの肩に触れた人物。それは……。


「先生、わたし犯人がわかりました」

 9月になり、少し元気のなくなったアブラゼミの鳴き声が、どこか遠くでひびいているような気がしました。


(つづく)



更新は毎日おこなう予定です。

※熱海富士関、小結昇進おめでとうございます!


お詫びと修正

文章の一部に正確にルビがふれていない箇所と脱字があったことをお詫びします。これらの箇所は2月24日に修正しました。

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