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Causal flood Prelude  作者: 山羊原 唱
12/19

一一話 応答

『お父さん』

 幼い少女が父の袖を引っ張った。父は回収してきた人骨を削ってクギやネジに加工している。仕事をしていたので適当な相槌を打っていた。

 少女は頬を膨らませて、「お父さんってば!」と強く袖を引っ張った。作業に差し障るので父は手を止めて振り返った。

『なんだよペトラ』

『ねえそれ。どうして?』

『なにが?』

『どうしてわたしがペトラであいつがコアなの?』

 急に娘が名前の由来を聞いてきたので、父は目をぱちくりとさせた。

 父は嬉しそうに頬を緩ませて「良い質問だなあ」と自分の手入れの行き届いていないひげを撫でた。

『神話の双子の名前から取ったんだぜ?かっこいいだろ』

『しんわってなに?』

『神の物語だよ!人間より超偉くて強い神様の名前から取ったんだ』

 ペトラは「ちょうえらい」「つよい」の単語に目をきらきらと輝かせた。

『すごい名前なんだね‼さっきね、知らないおじさんに名前なんて言うのってきかれてね。そしたらどういう意味ってきかれたの』

『そうか。初対面で名前を聞く大人は人攫いだぜ?ちゃんとぶっ殺したか?』

『コアが横からチクルのたまで頭にあててたよ』

 ペトラがえっへん、と胸を張って答える。

 父は「さすが息子」と誇らしげに手を叩いた。

『いいねえ。毒を使うと使えない部分が広くなるけど、ゴム弾なら死体は綺麗だな。後で運ぶから一緒に解体しよう…ん?ペトラ?』

 俯いてしまった娘の顔を父は覗き込む。まとまりのない黒髪から見える娘の表情はなんだか悲しそうだった。

『お父さん。しんわのコアもさすがなの?』

『どゆこと?』

『コアは頭いいでしょ。お父さんもいっぱいコアのことほめるでしょ。ペトラは?しんわのペトラもこうだからわたしもペトラなの?』

 どうやら娘は息子に嫉妬しているようだ。

 特別息子を贔屓しているつもりはなかった父だが、娘が落ち込むのなら元気づけようと親心が動いた。

『そんなちっさいこと気にすんな!神だぜ?ペトラだってすげーよ!』

 父のフォローは完璧に失敗する。

 あまりに雑な父に、娘はぎり…と睨んだ。

 幼い子からそんな目つきを送られて、父は慌てて弁明をする。

『ほら、お父さん、本当はあんまりそういうの知らないからさ。神話の双子がなんの神だか知らないんだよ。神で双子だから名前を借りただけで』

 ペトラはむーと頬をさらに膨らませた。父はそんな娘の頬を手の平で包んで暖めてやる。

『つえー双子になって欲しかったんだって。コアは頭良いけどさ、お前ほど勇敢じゃない。あいつちょっと卑屈だろ?ああいう考え方は幸せになりにくいんだよ。でもお前は、自分の人生も、人の人生も幸せにできる奴だよ。どうだ?すげぇだろ?』

 にかっと笑う父に、ペトラは少しほだされて頬のふくらみが小さくなった。

 可愛い娘に、父は娘の額と自分の額をくっつけた。

『意味があるから名付けたんじゃねぇの。お父さんは馬鹿だから。名前に意味が欲しいなら、お前の人生で名前に意味を与えてやってくれ。だから精一杯元気に生きろよ。…こんな場所で、こんな俺じゃ、いつまでもお前たちを守れるわけじゃないからさ』


 父の最後の一言はどこか寂しげで、許しを請うようなものだった。





 「黒い箱は開いていた」と「宝箱のなかみ」を思い出すと、ペトラは全てを思い出した。


 父との記憶。

 教育支援を受けるため、沈没都市に訪れたこと。

 実験協力のため、シミュレーションカプセルに入ったこと。

 〝ここ〟はFageではなく、Nageという架空の時代であること。

 〝ここ〟で死ぬ度、何度も繰り返していること。

 姿も、名前すら、自分たちのものではなかったこと。


 〝一日目〟を目覚めたペトラは布団を蹴り飛ばした。

 急いで上段をよじ登り、眠る片割れを揺さぶる。

「コア‼コア起きて‼」

 ペトラに額を引っ掴まれたコアは声も出ずに驚いた。

 ペトラの手を振り払って勢いよく起き上がる。

「いぃったいな‼俺が何したって⁉」

「何もしてない‼」

「は⁉それは理不尽だろ⁉」

「いいから黙って話を聞いて‼ここは―――」

 ペトラは思い出したことを全てコアに伝えた。


 最初こそ混乱に満ちていたコアだが、曖昧にされていた記憶は一つ思い出すと次々と蘇った。

 二人はベッドから降り、床に座って向き合う。

「推察としては良いとこまでいってたな。でも正確に言うなら、これは訓練じゃなくて実験だ」

 コアは繰り返してきた記憶を思い出しながら、自分たちの置かれた状況を整理していく。

「未来都市開発の協力…、怠惰に過ごさないためのゲーム…。支援者が俺達被験者にやって欲しいことはゲームそのものだ。てっきり、未来都市で生活することが実験の目的かと思ったけど」

 ペトラはコアの発言に激しく同意し、首を傷めるんじゃないかというくらい頷いた。

「嘘っぱちもいいとこだよ!未来の沈没都市の生活、全然してないもん!」

 むきー!と火が出そうなほど怒っているペトラの「嘘」という言葉がコアは引っかかった。

「嘘…。そうだな…、嘘だとしたら俺達大陸出身者を使った心理的な実験だとか…、あとは沈没都市の人は実は悪趣味でこういうゲームで賭け事をしたり…」

 ぶつぶつ呟くコアを見ながら、ペトラは大人しく彼がまとめてくれるのを待つ。

 コアは「嘘だったら」という前提から考えられる仮定に、大陸出身者らしいものばかり出る自分に苛立つ。


 そもそも。

 沈没都市の住民は人に危害を加える趣向を持つ人はいない。

 安全と平和、それを守れる人間性と能力を持つ人が〝MSS〟に選ばれ、そういう人が育つように針路調査が作られる。

 ()()()()()()()()、大陸の住民は沈没都市に勝てないのだ。


 だから大陸出身者が思いつく仮定など的外れだと、前提から考え直すことにした。

「この実験が沈没都市の人にとって必要なことだとしよう。それなら、この実験は〝未来で起こる真実〟である可能性が高い」


 「嘘」という仮定を「真実」として考えた彼に、ペトラはぎょっと青ざめた。

「ふえ⁉それはつまり…つまりだよ⁉」

「うん」

「浄水虫がアスタロトになって大陸で暴れるでしょ⁉」

「そう」

「で、各地の沈没都市が大陸から離れて逃げるでしょ⁉」

「その後、海で合体してね」

「それがナグルファルって言われるようになって…」

「キヴォトスという武器を使って、アスタロトと戦う。…まさしくこのシミュレーション世界の通りだよ」

 冷静でいることを努めるコアだが、表情は苦く暗い。

 他になにか不穏なことを思い当たっているのだろう。ペトラは彼が話し出すまで待とうかと思ったが、ある不本意な一点に気が付きまた怒った。

「ねえ、じゃあこの実験、沈没都市の人がやれば良くない⁉それこそ軍人とかがやればいいじゃない!私たち大陸出身者ってそれどころじゃないよね⁉だって浄水虫の飼育施設のほとんどは大陸だよ⁉」

「そう、それ」

 話す前に切り出してくれたペトラに、コアは人差し指をピッと向けた。

「ペトラのそれはただの文句なんだけど、今すごく大事なこと言ってる」

 コアに褒められると条件反射で喜んでしまうペトラは「ありがとう」と食い気味で答える。

 コアは「褒めたんじゃなくて」と人差し指でペトラの額をつついた。

「いいかペトラ。俺達がいつだって真っ先に考えなきゃいけないのは生き残り方だ」

 額をさするペトラの目の間にコアは指を三本立てて見せる。


「このシミュレーション世界での俺達の役割は?それはキヴォトスを使ってアスタロトを倒すこと。

 じゃあなぜこの実験が行われる?実際に未来で起こることだから。

 この二点は分かった。

 目先の問題は、この実験の任期が終わった後、生かして帰してくれるのか」


 ペトラはコア三本目の指をつつき、眉を寄せた。

「三点目は?」

「…なぜ、未来でそんなことが起きるのか。この答えが全く分からない。でもそれが分からないと、この実験の首謀者も検討がつかないんだ」

 遠い問題とは、二人が大陸にいるのならばFageの終了と共にアスタロトに殺されていることだ。

 目先の問題も、遠い問題も、自分たちの立場では生存方法が存在しない。

 それは理解できるペトラだが、寄せた眉が少し下がった。

「首謀者って…沈没都市の誰かじゃないの?それは分かんないだろうけど…」

「さっき、ペトラが言ったろ。沈没都市の住民にやらせた方がいいって。俺もそう思う。だって軍人や危険区域の研究者も命懸けのシミュレーション訓練を行うはずなんだ。これに限って大陸出身者にやらせる意味がない」

「え、待って。ここが沈没都市の海底施設である以上、大陸出身者が首謀してこんなことはできないんだよ?なのに沈没都市の住民でもないなら…」

 ペトラはようやく、コアが苦い顔でいた理由が分かった。

 自分たちの知る限りの情報では、黒幕が存在しないのだ。


 沈没都市の人間がこのような実験を、立場の弱い大陸出身者を使って行うことはしない。

 では大陸出身者が?それはあり得ない。沈没都市の設備を使うには沈没都市の住民にならなくてはいけないから。

 そんな人間は住民になるための試験で落とされる。

 

 コアは自分の額に手を当て、暗いままの顔で俯く。

「…黒幕の検討が全くつかないまま記憶を調整されて帰されても…どうしたら…」

 生き残る方法を必死に探すコアの姿に、ペトラはぐっと唇を噛んだ。

(考えろ、私。私はコアと違って推測とかで作戦を立てられる頭なんか持ってない。なら、私が持っているもので考えろ)

 同じ所で躓いては二人でいる意味がない。

 ペトラは自分を叱咤してこれまでの経験と記憶を思い返す。

 そうしていると、自分の容姿に気を留めた。


 この姿は借り物だ。

 雪のような白髪。煌めく琥珀色の瞳。

 この姿は。


「あのお姉さんじゃん…」

 一体どんな偶然が重なり、彼女と出逢ったのか。

 ペトラが零した言葉にコアがなにごとかと顔を上げる。

 ペトラはがっしとコアの両肩を掴んだ。


「あの時のお姉さんの顔だよ!今の私!」

「おね…あ、あの歌を歌ってた女…」

 力任せに掴んでくるのでコアは身を下げながら子供の時出逢った女性を思い出す。

「そう!あと歌‼〝黒い箱は開いていた〟って歌は忘れなかった。この世界に合ってるなって、なんとなくそう思って」

 感覚の話しをするペトラに代わり、コアはまた思考を巡らせた。

「あの女は兄貴がいるって言ってたな。それなら、俺のこの姿はそいつのもの。…〝ティヤ〟、〝スラ〟。名前も借りているのなら…あの女がスラ。スラたちはこの未来、もしくはこの実験に関係がある人物か」

 小さな情報からすぐに推測を立て始めたコアの姿に、ペトラは少しほっとして彼から手を離す。

「スラがさ、言ってたでしょ。〝黒い箱は開いていた〟の歌は怪物と戦うための歌だって。この指輪を使うために」

 面白い歌を聴かせてくれたお礼に、あの時は盗らないでおいてあげた、スラの指輪。

 キヴォトスそっくりのそれは、今コアとペトラの指にもある。

 コアは自分のキヴォトスに視線を落とす。そしていつもペトラが歌っていた歌詞の一つを読み上げた。

「〝黒い箱から出てきた泥の蛇〟…。アスタロトはまだ現実にはいない。想定された時代は今から七〇年も後だ。だから、泥の蛇ってのはアスタロトのことじゃない。スラの言った怪物は、アスタロトじゃなくて」

「浄水虫をアスタロトに変える連中のことだ‼」

 ペトラは黒幕への手がかりに指を弾いた。

 まだ明瞭な目星ではないが、コアも頷く。

「その連中をスラは怪物と言った。歌詞には〝泥蛇〟と記して――…」



 拍手の音が聞こえた。


 コアの言葉を掻き消す喝采に、二人は驚いて立ち上がった。

 兵舎にスピーカーでもあったのか、と思うような響き方であった。

 コアとペトラはキヴォトスを起動させ、〝ブリッツ(銃撃型)〟を構えて天井や壁などを見渡す。

 音響機材など全く見当たらない。


 二人と怪物の世界から、初めての応答である。


〈うん。君たちはとても優秀ですね。特別に、こちらからご挨拶させて頂くことになりました。まずは改めて感謝を。この実験にご協力頂きありがとうございます。〉


 柔らかい声質は男性のものだ。

 声の主は拍手を止めた。

〈そして初めまして。私たちはラクスアグリ島で生まれました。ティヤとスラは私たちのことを泥蛇と呼んでいます。ああ、島のことはご存じでしょうか?〉


 泥蛇、と称する相手に、コアとペトラはなるべく小声で状況を整理する。

「…シミュレーションカプセルで私たちに説明していた人の声だね」

 ペトラの確認に、コアは頷いた。

「…ここで騒いでも不利だ。どうせ俺達の体は向こうの手中にある。従順にいこう」

 コアの提案に、ペトラも頷く。

 コアはとりあえず天井に向かって泥蛇に答えた。

「スラから少し聞いた。火山の噴火でできた資源豊富な宝島だって」

 冷静でいる二人に、泥蛇は嬉しそうな声色になる。

〈その説明は正確ではありません。火山の噴火ではなく、Fageに至る資源のゴミが異常気象によって練り上げられ、噴出したのです。資源のゴミ、と言うとラクスアグリ島がゴミの島のように聞こえるかもしれませんが、フフ。〉

 ここは笑うところだと泥蛇は思ったようだが、双子としては説明を追いかけることに集中しているのでむしろ険しい表情になる。


〈資源とは人の役に立つ材料のことを言います。ラクスアグリ島は使えなくなった価値(ゴミ)が新たな価値として生まれ変わった姿なのです。使えない価値(ごみ)を調べつくした〝MSS〟と非常に良く似ています。つまり、誕生した経緯が〝MSS〟と似ているからこそ、あの島は宝島なのです。〉

 ペトラはおろか、コアもあまりピンときていない。

 コアは〝MSS〟とラクスアグリ島の相違点を上げる。

「そもそも、〝MSS〟はAIだよな。AIと島が似ているって言われてもよく分からないよ」

〈それはラクスアグリ島の特性を観てもらった方が理解は早いでしょう。〉

 コアが口を開く前に、泥蛇は〈ただその前に、〉と少し硬い声音で制した。

〈実験はまだ続ける予定ではありますが、君たちの協力なくして続行はできません。私たちの正体や実験の目的を、君たちならばお伝えしても良いと結論が出ました。しかしそれは真実を伝えた方が君たちは私たちに一層協力して頂けるだろうという理由からです。〉

 脅しにも聞こえる泥蛇の言葉に、ペトラはコアを不安そうに見つめた。コアもペトラと目を合わせ、落ち着け、と視線だけで伝える。

 コアは脅しかどうかを確かめた。

「協力って、このシミュレーション実験のこと?それとも他のこと?」

 質問が論点に戻ったコアに、やはり泥蛇は嬉しさを滲ませて〈はい。〉と応答する。

〈このシミュレーション実験は本計画の前段階(プレリュード)なのです。よろしければ、本計画の協力まで致しませんか?お望みの教育支援はきちんとお支払い致します。いかがでしょう?悪いお話しではないかと思います。勿論、このまま前段階の実験の任期を終了させて、一定期間の教育支援後、大陸に戻られるという選択肢もあります。ああ、学力向上によっては沈没都市の移住権試験も受験可能ですよ。〉


 ペトラはコアの手を軽く掴み、コアが沈没都市への憧れで目の前が眩んでいないか不安になった。

「コア。大陸に帰してもらおう。信用なんかできないよ」

 ペトラの不安はコアにも伝わる。

「分かってる。でも、俺達は〝MSS〟もラクスアグリ島のこともよく分かってない。こいつらの正体だって。目的が分からない相手と戦う時は勝てる見込みがある時だけだ。だから焦るな。こいつらの言うことを鵜呑みにする気はないけど、知る必要はある」

 コアが冷静であったのでペトラは少し安心するが、「断ったら殺す、とか、そういう可能性はあったりする?」などとコアがストレートに尋ねたので、思わず「ちょ⁉」と声を上げた。


 隣で驚かれたコアだが、コア自身も正直少し賭けの質問だと思っていた。

(生意気な態度を取るだけで殺すような相手ならそもそもどうあがいても勝ち筋はない。でも話しぶりを聞くに、そういう相手ではない気がする。向こうの話しに関心がある素振りを見せる方が、俺達を生かすかどうか考えてくれるかもしれない)

 勘であるため確証がないが、コアは冷や汗がバレないよう冷静を取り繕う。


 その勘は正しかったようで、泥蛇の口調は変わらず柔らかいままだった。

〈そのあたりを説明するのにも、ラクスアグリ島で起きた事件を観てもらった方が分かりやすいと思います。大雑把に説明しますと、私たちは人間を殺せない、という性質を持っています。ですので、君の心配はご無用です。〉

 コアとペトラは泥蛇の言っている意味が分からず顔を見合わせた。

 今度はペトラが質問をする。

「殺せないってどういうこと?だって、私たちの体に尖ったものでも刺せばできることなのに」

〈殺害の手段は理解しております。しかし、私たちにはできないのです。人の役に立つ我々があなた達(人間)を直接殺害することなどあり得ないのです。〉

 釈然としない二人だったが、ハッと床に視線を落とした。

 兵舎の床から映像が溢れていたのだ。


 真っ白な激しい雲の海が二人を包むと、怪獣の息吹のような風がそれを吹き飛ばした。

 開けた空の下、そこには緑豊かな島があった。その島に向かって降り立つと、大人の両掌くらい大きな青い蝶がわっと一斉に飛び立つ。

 コアとペトラは青い蝶の勢いに目を閉じ、ゆっくり目を開いた。

 森の奥に繋がる道が一つ。

 青い蝶は二人を誘うように森へ入っていく。


 言葉もなく立ち尽くす双子に、泥蛇は最終確認をした。

〈さて。ではもう一度お尋ね致します。私たちの本計画に参加しませんか?〉


 緑の美しいこの島こそ、ラクスアグリ島だった。


 コアはペトラを窺うような表情で見た。

「…怖いか?」

 コアの確認に、ペトラは笑って首を振る。

「二人なら怖くないよ。ここまで来たのは、私の意志でもあるんだから」

 ペトラの返答に、コアは少し息をすることを忘れた。次いでなにか羨むように微笑して頷いた。

 双子は空を見上げる。

「いいよ。過去を知った方が話は早いってなら、俺は合理的な方が好ましい」

「私も賛成。ここまで聞いたら、あなた達の正体はちゃんと知りたいかな」

 双子のはっきりとした同意に、泥蛇はまた嬉しそうに声を弾ませた。

〈そう仰ってくれると思っていました。それではお見せしますね。この前段階(プレリュード)の実験と本計画、〝新時代(Causal)の水源(flood)〟の発端となった、幻の島のお話しを。〉


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