〇話 〝Mother shows sunrise(生まれた場所で未来を指し示す者)〟は永久の眠りにつく
Fageーそれは沈んだ湾岸に〝沈没都市〟が建設された時代を呼んだ。
沈没都市はAI〝MSS〟が「人々の未来を繋げる」という理念のもとつくった都市型の船である。
「わたしにはなにもない」
無価値を叫んだ誰かのために、生まれたその理念。
〝MSS〟は生き物から機械に至る、混沌とする信号をまとめ、調整し、信号世界〝エンドレスシー〟を作った。
FageのAIの本体が存在する場所であり、役目に応じた船の姿を持っている。
同じく〝MSS〟もエンドレスシーの空を覆うほどの大きな船の姿で、年月をかけて「無価値」を集めていった。
「無価値」に該当したものは内陸に残し、それ以外を集めたことで沈没都市が完成することに至った。
‥‥Fage.18.
突然、〝MSS〟は停止した。
現実世界で動揺は広がったものの、沈没都市に住む人間は内陸の人間よりはるかに優秀だ。
〝MSS〟がいなくとも、沈没都市の基盤は全く揺るがなかった。
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現実世界から存在を消した〝MSS〟は。
エンドレスシーで集めた無価値と、現実の危険性との関連性をずっと分析していた。
このままでは沈没都市は崩壊する。
これでは理念に反してしまう。
価値あるものを揃えた沈没都市が崩壊するということは…、無価値の中に解決策があったのかもしれない。
人間にとって価値あるもの。
〝MSS〟はその正体を理解できないことを理解していた。
だから、理念のために集めた最初の作業が――〝無価値〟を集めることだった。
価値の証明はAIのつくった理念を守れることだ。
実際に正しい証明もあっただろう。人間では及ばなかった成果だってある。
しかし。
この先の未来を繋げるには、〝MSS〟がいなくとも、守らねばならない価値を見つけてもらう必要がある。
ほかでもない、〝人々〟に。
――――だから。
〝MSS〟は、人間に死力を尽くしてもらうことにした。
そうでなければ、無価値の山の中から宝石を見つけることはできないから。
機械仕掛けの針路は、理念を人の手に返すために。
もう二度と。
人間の役に立つことはなかった。