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終末世界の方程式  作者: 釣り人
第二章 新たな仲間
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第一話 俺と病院と名誉とお金

 シンジは気が付くとベットで寝ていた。


「おや、目を覚ましたかね。まぁ生きてて良かったよ。目の再生には金が掛ったけど軽傷だったから、治療費も安く済んだしね」


 そういわれれば片目が見えている。

 そして、軽傷という言葉も引っ掛かったが、シンジは何も言う気になれなかった。

 それよりもあの後どうなったか気になる。


「あの後、どうなったんです?」

「さぁ、私は運ばれた患者を診るだけだし、すでに都市から金をもらってるしね。医療費のことは気にせずに好きにさせてもらったよ」

「都市から?」


 都市が出張ってくる時はよほど重要な場合のみだ。シンジには自分があのモンスターを倒したことが、都市に何か影響があるとは思えなかった。


「さぁ、私には詳しいことは分からないね。知ろうとも思わないし。さっき君が目を覚ましたと連絡しておいたから、暫くたったら都市関係者が来ると思うよ」


 そういって医者はどこかへ行ってしまった。そういえばまだイリスを見ていない。


『イリス? いるのか?』

「ここにいますよ、マスター」


 そういってイリスは自分の体から透けて現れた。この登場の仕方はだいぶ心臓に悪い。


『なんかこう、普通に出てこれないの? すっと出てくるとか、後ろから歩いてくるとか』

「できますが、やらないだけです」

『……それってやっぱり――』

「はい。気分の問題です」


 シンジの予想していた通りだ。イリスはいたずら好き、というわけではなさそうだが、気分で動くことが多い。前の風呂の時もそうだった。


『俺ってどうなったの?』

「私が説明しても構いませんが、ここは都市職員に聞いたほうがいいでしょう。説明しようとした時に、すでに知っていたら不自然ではないですか?」

『……確かに』


 そうして、暫くシンジはぼーっとしていた。ここまで平和なのは久しぶりだ。

 束の間の平和な時間を楽しんでいるシンジのもとに、来客がやってきた。


「お! お前だったか! いやー薬をやった甲斐があったな。冒険者になったのなら、僕に連絡してくれればよかったのに」

「……その節はどうも」


 やってきたのは、前に自分をスラム街へ輸送した職員だった。


「あんたっていったい何者なんだ? あの薬もかなり高価な物だろ? そんなものを、ホイホイ馬の骨とも知らない奴に渡すはずがない」

「俺か? 俺はしがない都市職員のイシワラというものだ。名ばかりの部長さ」


 部長といえば都市の実質的な実行部隊のトップだ。さすがに取締役会には入っていないが、その権力は絶大。一人の人生を操作するなど容易なことだ。


「……俺に何の用だ」

「おいおい、そんなにビビらなくてもいいだろ。お前さん、中山の娘と、柳川の娘さん二人とも手籠めにしたそうじゃないか。そんな人たちに比べれば、俺はそんなに偉くないぞ」

「――! 手籠めにはしてない! 会っただけだ!

「聞いたところによると、武器の購入、遺物の売買などを二人とやっているはずだが?」

「どうしてそれを!」


 キャロルの店を利用していることはシンジしか知らないはずだし、ヒフミに遺物を売ったのも、一部の都市幹部とあの受付嬢しか知らないはずだ。


「俺にはよく見えて聞こえる目と耳を持っているからね。というか、そんな話を俺はしようと思ってきたわけじゃない。お前と取引をしたいのさ」

「……俺と取引?」

「そう、正確には都市管理企業とお前のな」


 都市管理企業が個人に取引を持ち掛けるなど、滅多にないことだ。それこそ、某日本一の車会社が一介の高校生に取引を持ち掛けるようなものだ。

 そんな大層な理由はあれしか思いつかない。


「……もしかして、あのモンスターの話か?」

「ビンゴ! そういうことさ。今回の取引を円滑に進めるには過去の話をする必要がある。勿論お前にも関係ある話さ」


 そう言ってイシワラは話し始めた。


「都市は前にワタヌキヒルズ遺跡の完全攻略に向けて乗り出した。結果は失敗だったがね。だが、ある程度の遺物を集めることはできたし、収支も黒字だ」

「なんだ、良かったじゃないか。それとこれとどんな関係が?」

「実はモンスターの卵を発見したんだ。モンスターは直ぐに繁殖するから、卵の状態のまま見つかるのは稀なんだよ。それで持ち帰ったのさ」


 シンジはモンスターが、卵から孵るということは聞いたことがなかった。てっきり何処からともなくスポーンするものかと思っていた。


「……なんだ? その意外な顔は。まさか生体モンスターと機械モンスターの違いを知らないってわけじゃないよな」


 シンジは答えられなかった。嘘をついてもバレる危険性があるからだ。


「そういや、お前はスラム街から冒険者になったんだったな。じゃあ簡単に説明しよう。生体モンスターは生き物、機械モンスターは無機物、これで分かったか?」

「……まぁ、恐らくは」


 ものすごく簡単だったが、なんとなく理解できた。そこへ、イリスが話しかける。


「後で私が説明しておきます」

『助かる、イリス』


 イリスの説明が後であるとわかったので、シンジはこの話を聞き流すことにした。


「じゃあ話を続けるぞ。卵を持ち帰ったところ様々な有用な情報を得られた。そこまではよかったんだが……」

「何があったんだ?」

「モンスターの大軍を呼び込んでしまってね。モンスター大侵攻が起こってしまったわけだ。前にスラム街の一部が半壊しただろ。あの時だ」


 シンジははっと思い出した。やけに前のモンスターの侵攻から間隔が早かったあの時だ。


「余計なことしてくれやがって」

「悪い悪い。だがお前は生きていただろ? それに、都市には問題がなかった。スラム街が本来の役目を果たしてくれたからね」


 確かに、スラム街は大規模侵攻が起こった時のおとりだ。そういった意味では本来の役割を果たしたといえる。


「ここからが話の肝なんだが……。お前さん、あのモンスターはなんとなく奇妙な動きじゃなかったか?」

「奇妙……あ! そういえば、あいつ俺に向かってずっと突進してきたぞ!」

「正確には、都市に向かってだがな。あいつが卵を産んだ親元らしい。いわば、大侵攻の核だな。我々都市管理企業は完全にその存在を失念していた」


 なんとなく話の流れが見えてきた。


「察していると思うが、大方その通りだ。多くの顧客を抱える我々に失敗はあってはならない。そこでお前に相談だ。その手柄をこっちにくれないか?」

「はぁ? 俺の手柄を! やるわけないだろ!」

「まぁ、お前の手柄を証明するのは、その通信端末に記録された討伐記録だけだがな」


 そういえば、自分が討伐したという証明できるものをシンジは持っていなかった。というかそんな機能通信端末にあったか?


「何不思議な顔してんだ? ははぁ、お前さては通信端末の機能知らないだろ」

「少しは知っている! 現に中層都市にいた頃に使ったことがあるし」

「その様子じゃ、冒険者仕様になっていることも説明されてないんだな」


 確かに、あの受付嬢には通信端末としか言われておらず、説明もされていない。


「興が削がれた。本当はお前と駆け引きを楽しみたかったんだが、お前には余りにも知識がない。簡潔に言う。お前のそのデータを五千万エールで買い取らせろ」

「ご、五千万エール!?」


 シンジには到底想像できない金額だ。親父もそれなりに稼いではいたが、精々三千万エール。それも年収でだ。それを一日で、一括でだ。


「医療費を抜くと四千万エールだがな。だがその代わりに、冒険者ランクは上がらない。Fランクのままだ。そして、お前がモンスターを倒したことは守秘義務化する。喋ったら命がないぞ。そう簡単に言えば……ランクを売るって感じだな」

「そんなことより! 本当に四千万エールを貰えるのか!?」

「そんなことって……武勇伝とランクが一気に消えるんだぞ!?」

「でもランクが上がっても金は貰えないんだろ? 名誉より金だ」


 シンジがそういうと、イシワラはいきなり高笑いしだした。何が起こっているのか分からず、暫くシンジはポカンとした表情で座っていた。そして、ようやくイシワラが喋り始めた。


「いや悪い。冒険者っていうものは名誉やビックファイトが目的でやるやつが多いからな。そういう奴らは自分の戦闘記録を消されるのを嫌がるんだよ。『俺が倒した獲物を横取りするのか!』てな感じでな」

「でも消したら金が貰えるんだろ」

「そうさ! 金が貰える! 今日はいい日だ。こんな奴にもう一度出会えるなんて!」


 そう言ってイシワラはまた笑った。

要相談 「シンジはいまいち理解していなかったが、戦闘記録を売るということは、資格を売るのと同じことだ。

 例えば、自分の命を懸けて受験し東大に合格した実績を売る行為と同等か以上。二回目の保証はないし、それがあるかないかで、信頼度に雲泥の差がでる。

 それをいつでも得られる金のほうを選ぶなんて、イシワラは可笑しくて堪らなかった。」


「ほら、さっさと金を渡せ」

「待て待て、そう急かすな。この契約書にサインしてくれればいい」


 そう言ってイシワラは一枚の紙を取り出した。


「紙に書くんだな」

「そのほうが隠ぺいすることが簡単なんだよ。さぁ、金が欲しいなら書きな」


 特段躊躇うことなく、シンジは契約書に自分の名前を書いた。


「よしよし。これで俺の役目は終わりだ。今後も楽しませてくれよ。あぁ、お前にまだ面会したい奴がいるみたいだ。きっとびっくりするぞ! 俺がびっくりしたからな」


 そう言って、イシワラは高笑いをしながら去っていった。


「あいつ笑ってばっかだな」


 思わずシンジは口に出してしまった。


「マスター、次の客が来たようですよ」

『おっと、俺に会いに来るような奇特なやつはだれ――』


 そこには、今現在最も嫌いな女が立っていた。


「こんにちは、シンジさん。いや、()()()()()

お金は大事ですよね~

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