第34話
34
2017年5月23日午前10時35分。月井と今村はコーヒーを飲み終え、一息ついた後、喫茶店を出る。外は蒸し暑い。揃って目抜き通りを歩く。都会の交差点は入り組んでいて、複数の道に枝分かれしているから、スマホの地図で確認しながら行く。
高木梨帆を葬ったホンボシは誰だ?志村浩は警察に任同され、事情聴取を受けるのだろうか?ずっと引っ掛かっていることである。帝都物産に他の刑事が行っている以上、志村は身柄を押さえられるだろう。月井もずっと考えを巡らせていた。心も肉体も暑さで疲れているのだし、頭の中は一際混乱している。岡田徹殺しにしても、きっと裏があるはずだ。各場所での事件が、複数の線で繋がっている。港区の交通量の多いところを歩きながら、ずっと考えていた。
「月井巡査部長、何か勘付きましたか?」
「ええ、まあ。……今村巡査部長、あなたは?」
「いえ、暑さでまともに思考が回りません。ですが、岡田社長を殺害したのは、高木梨帆でも志村浩でもないということは確信してます」
「そうですか。……私も引っ掛かってるんですよ。警察はいたずらに振り回されてるだけだとね」
月井はそう言って、幾分伏せていた目線をまっすぐに向け、眼前を見据える。人の波が絶えず押し寄せていて、通行人は途切れない。白昼の大都会は何か違っていた。波にさらわれながら、歩き続ける。
「裏がありますね。きっと」
「ええ」
互いに頷き合った。だが、ここで事件の推理を披露し合っても始まらない。歩を進めながら、街を見る。大きなビルが多数あり、午前10時台は営業関係のサラリーマンや女性社員などがスーツ姿で行き交っていた。事件とは無関係に実社会は動く。
また新たなDNAがあのビジネスホテルから出るのだろうか?そればかり気にしていた。確かにデカたちは右往左往している。捜査自体、行き詰まりかけていた。もちろん、どこの署の捜査員も懸命にヤマを追っている。その姿勢は全く変わらないのだが……。
午前11時を回ると、次はランチ店などが活況付く。今からお昼の時間帯ぐらいがこの手の店の書き入れ時だろう。月井たちはさっきカフェでコーヒーを飲みながら、焼き立てのパンを食べていたので、しばらくは空腹を覚えず大丈夫だ。人の喧騒をかき分けながら、歩き続ける。目立ってそう動じることもなく……。
殺人事件の捜査が迷走するのと同時に、疲労やストレスが溜まり始める。月井も今村もじっと我慢していた。ここで逃げたら負けだと自分に言い聞かせて……。
太陽は中空にあって、日差しが照りつける。絶えずずっと。(以下次号)




