第23話
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2017年5月21日午後6時30分。新宿山手署刑事課にある捜査本部において、捜査会議が始まった。両角一課長や田川理事官臨席の下、デカや鑑識、監察医など複数の職種の人間たちが意見を出し合う。
「第三者のDNAは都内在住の会社員、志村浩のものと断定されました。警視庁のデータベースには前歴等がありませんから、一般人です」
警視庁鑑識課の湊川がそう言って、スライドにDNAを映し出し、説明した。月井も今村も黙って聴いている。事件時、あの密室にいたのは志村という男だったのか?月井は頭を捻る。高木梨帆と志村浩が共謀し、岡田社長を殺害して密室を作った。それが順当な推理線になる。
湊川が一通り説明を終えると、デカたちも各々捜査報告などをした。複数の人間が岡田殺害に関わっている。月井も今村もずっと新宿の街や現場を見て回っているのだが、事件はますます曖昧模糊になるばかりだ。
午後7時2分。会議が終わり、刑事たちは四散する。岸間が班の捜査員を集めて、月井や今村にも明日はまた街の巡回や雑務をこなすよう、指示を出した。特に変わったことはない。デカたちによる事件捜査が続く。連日都内は暑い。
DNAが検出された志村浩は一般の会社員なのだが、事件に直接的もしくは間接的に関与しているか、何か事情のようなものを知っているはずだ。確か、帝都物産勤務だという。帝都物産は大会社であり、日本の旧財閥の一つでもある。そこの社員が事件にタッチしているとなると、事は大きい。
志村浩が捜査線上に浮上してきたことで、捜査陣はより捜査範囲を狭められる。月井も今村もその日午後8時半過ぎに署を出るまで、ずっとそんなことを考えていた。いずれ自分たちにも捜査が回ってくる。そう思い、今夜は眠るつもりでいた。何せクタクタに疲れているので……。
午後9時5分。月井は自宅マンションに帰り着いた。部屋に入ってスーツを脱ぎ、冷蔵庫から缶ビールを一缶取り出して、プルトップを捻り開け、呷る。摘みを食べながら、宅飲みした。車の運転をする以上、外で飲むことは出来ない。常にそう思っていて、気を付けている。飲酒運転など厳禁だ。誰しもが……。(以下次号)




