第17話
17
2017年5月20日午後9時3分。月井は自宅マンションに帰り着き、リビングで着替えを済ませて、バスルームへと向かった。髪や体を丹念に洗い、冷たいシャワーを浴びて汗を流してから、風呂場を出る。熱が滞留していた。仄かに。
キッチンにある冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プルトップを捻り開けて口を付ける。呷ると、麦芽の苦みが舌先に感じられ、一気に酔いが回ってきた。摘みにチーズやソーセージ、生ハムなどを食べながら、しばらく酔い続ける。
確かに警官も夜ぐらいは酔いたい。昼間は過酷な捜査をしているのだから。しかも対象案件は殺人事件である。ただ事じゃなかった。月井も滅多に愚痴の類は漏らさないのだが、言いたいことはいろいろある。
その日も午後10時半を過ぎると、急激に眠気が襲ってきた。確かに夜は眠る時間である。マンション近辺も新宿の一角なので、夜間は騒がしさがあった。特に不良グループなど、いつの時代でも変わらずにいる。大人の事情など、そいつらには通じやしない。
午後11時前には洗面台で歯を磨いて休む。ベッドに倒れ込み、アラームを午前3時半にセットして、そのまま寝付いた。真夜中に目が覚めることもある。わずかに夢を見ることもあった。だが、睡眠時間などすぐに経過し、また活動時間が始まる。
2017年5月21日午前3時32分。月井は目覚めて起き出す。ベッドの脇に置いていたペットボトルの水に口を付け、水分補給してから、キッチンへと行った。アイスコーヒーを一杯淹れてブラックのまま飲む。部屋着から上下ともスーツに着替えて洗顔し、髭を剃って髪を軽く整える。
2017年5月21日午前4時25分。月井は部屋を出、駐車場に停めていた車に乗り込む。エンジンを掛け、アクセルを踏み込み、勢いよく発進させた。
複数の無線を傍受したところによると、明け方の新宿区の繁華街ではクラブのホスト同士の喧嘩などがあって幾分荒れたようだ。だが、いつものことと思い、あえて手出ししない。アイツらも刑事相手に仕掛けたりすることはまずない。やれば公務執行妨害で捕まるからだ。
午前4時55分に新宿山手署に着き、捜査本部に入る。
「おはようございます」
「ああ、おはよう、月井君」
岸間が月井の挨拶に返してきた。互いに早朝のデカ部屋で仕事を始める。班長は署に寝泊まりしながら、ヤマを追っているらしい。疲れが溜まるだろう。それにこの班長は睡眠が極端に短い。果たしてもつのだろうか?月井は傍目からは気丈そうな上司を見て、常にそう思っていた。パソコンに向かい、本件について一通り情報収集をする。他の刑事たちが出勤してくるのを目に留めながら……。(以下次号)




