第15話
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2017年5月20日午後零時25分。月井と今村は新宿の街を歩いていた。今日はここを張ることが予定の仕事で、一応捜査本部には戻るつもりなのだが、ほぼ一日繁華街にいることになる。スマホと耳に嵌めていた無線機で時折捜査情報をもらっていた。
蒸し暑い。建物でも日が差さない陰となる場所に行き、人の流れをじっと見ていると、駅方向へと人間が行き交っているのが分かる。デイタイムだと、電車や地下鉄などを利用する客が多いのだろう。
どうやら現場にいるデカたちによると、害者が殴打され殺害された部屋から、マル害と高木梨帆、それに第三の人間のDNAが検出されたらしい。有力な手がかりとなるだろう。月井も今村も事件の捜査線上に新たな人間が浮上してくるのを感じ取っていた。
午後1時を回ると、辺りの人間の動きが変わってくる。オフィスなどへの行き来が激しくなってきた。食事を取り終えたサラリーマンや女性社員などが、ビルへと吸い込まれていく。ここは大都会だ。同じ都内でも、丸ノ内や銀座などと並んで。
スマホには常に連絡が入ってくる。月井もIT機器に慣れていた。今村も所轄の刑事課のデカだが、パソコンやタブレット、スマホなどを一通り使いこなすところを見ると、年齢の割には頭が柔らかいらしい。
「月井巡査部長」
「はい」
「ここは新宿のど真ん中ですから、人間が多いですね」
「ええ。……普段、寺田警部補や門倉巡査と一緒に、所轄に籍置いてるんですよね?」
「そうです。……でもね、新宿ってのは繁華街に行けば行くほど、欲望の渦って感じがしますね」
今村がそう言い、街の一角から人の行き来を眺めていた。歌舞伎町の歩行者天国からは抜けているのだが、依然人口密集地帯にいる。
「第三の人間が捜査線上に出てきたみたいですよ」
「ああ、さっき無線で傍受しました。……多分、岡田さん殺しの実行犯ですよ」
「私は男性だと推理します」
「同感です。……女性には害者を殴って殺すだけの力がない」
「高木梨帆は事件現場に居合わせて、何かを知ってるはずです。本人の毛髪が出てきてるわけですから」
月井がそう言って欠伸を噛み殺すようにしながら、人の流れを見る。今村も人間を観察していた。互いに連日働き詰めで疲れている。睡眠が短いので、昼間眠気が差していた。デカは事件捜査中、眠る暇があまりない。4時間睡眠とかで動く。短眠にも慣れていた。缶コーヒーなどを買って飲みながら、襲ってくる睡魔を凌ぐ。限界もあったのだが……。
2017年5月20日午後3時15分。月井と今村は街から所轄の帳場へと戻るため、新宿山手署へと向かった。岸間が「いったん戻ってこい」と言ったからだ。班長も両角一課長や田川理事官から促され、捜査を急いでいる。単にいくら焦っても、事件は解決へと向かうわけがないのだが……。(以下次号)




