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第22話

ジェイからの連絡が来たのは、それからさらに何ヵ月か後のことだった。


連絡は電話ではなく僕宛のメールで。正確には、メールに添付された、暗号化されたファイルの形でやってきた。

ジェイとはアドレス交換してなかったんで、前に葬儀の時に交換してた、お姉さんのサクラコさんのアドレスで届いたんだけどね。


何だ、サクラコさん、やっぱジェイと連絡取り合ってたんだ。

僕が連絡取りたいって言ったときは、妹は放浪中だとか、音信不通だとか言ってたくせに。ぶつぶつ。


暗号が最新式で、僕のマシンでは対応ソフトが入ってなかったり、解析に三日もかかったけど。内容はビデオレターで。

ーー中身を再生して、たまげてしまった。


僕を仰天させた内容はというとーー。



『やあ、久し振り』

外見は違っても、快活な口調も表情も、手を上げる仕草も、確かにジェイだった。けど、何か疲れてるみたい?

あーでもあの笑顔、何かすごく懐かしい。


ミドリコさんって母国では名家の人だけど、写真嫌い、社交嫌い、映像流出拒否の人だから。調べても外見までは分かんなかったんだよね。こんな感じなんだ。美人さんじゃん。


『さて、連絡したのは、君に我が家の新しいお姫様を紹介したいと思ってね』

そう言って抱き上げたのはーーえ? 赤ん坊?


『名前は、佐保さほ。我々の母国の、春の女神の名だ。瑞姫が娘に付けたいと言っていた名だよ』


義姉さんが? ……ってことは、まさか。もしかしてその子って……?


『あの時、あの場に残していくのに忍びなくてね。どうやら私が連れてきてしまったらしい。気付いたら、腹に宿っていた』


ーーはァ?


『と言っても、私は借り腹でな。遺伝的には、瑞姫の子供だ。そこは調べたから、間違いない』


……さいですか。医学の常識よ、さようなら、って感じだなぁ。


ーー待てよ。あの時、”義姉さん”のお腹にいた子供、ってことは。父親って……。


『そこで、君の兄さんに伝言だ。この子の親を名乗りたいのなら、七日以内に、この子の名前を付けてくれ」


名前? でも、”サホ”って付けた、って?


『”佐保”は我々が呼ぶ時に使うが、君たちが呼ぶ時用の名前も必要だろう? 瑞姫にも、二つ名前があったようにね。

君の兄さんに名前を考える気がないなら、代わりに君が考えてくれ。その場合、君の兄さんは。この子の親になる意思が無いと見なすことにする』


ーーええっ! ちょっと待って!


ジェイはそこで、ふわっと欠伸をして。

『子供を産むのも育てるのも、女の一大事というのは、本当だな。そっちに会いに行く余裕は、当分なさそうだが、君から会いに来てくれる分には歓迎だ。連絡先は、私の姉に伝言しておこう。ーーただし』

ジェイは、ニヤリと笑って。

『君の兄さんの方には、名前が決まるまで、会う気は無いと言っておこう。では、また』

軽く手を振って、映像はそこで途切れた。


……七日以内だっけ。でも、既に三日使っちゃったんですけど。

僕は青くなって、大急ぎで兄さんに連絡を取った。






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