第21話
そして。
それからまた何ヵ月か経っても、”また会いに来る”と言ったジェイは姿を現さず。連絡も無かった。
イスルギさんに電話で聞いてみたところでは、無事本来の体には戻れたらしい。
といっても、イスルギさん宛に連絡があったわけではなく、イスルギさんの方から、師匠なる人物に確認をとって得た情報だそうだ。
「マメに連絡を寄越すようなヤツじゃないからな」イスルギさんは苦笑していた。
「あれは風来坊だし、連絡があるにしても忘れた頃に、だろうから。気長に待った方がいい」
なーんてアドバイスを有り難くいただき、通話を切った。
というわけで、気長に待つことにした僕だけど。兄さんは、自分の仕事が早いからか、時間に正確なタチだからか、せっかちな所があるようだ。
「彼から何か連絡は無いのか?」さりげなさを装って、何回か聞かれた。
その度に、『”彼”って誰だよ』と思いながら、「無い」と答えていたんだけど。
何回目かに聞かれた時、僕は一応、教えておくことにした。
「あのー、兄さん。ジェイのことなら、”彼”じゃないと思うよ」
「……え?」
「僕もずっと誤解していたんだけど。あの人、女の人だよ」
「……はぁ?」
兄さんが呆然としてるけど。
ジェイから聞いた話と集めた情報で、ジェイの本名に気付いてイスルギさんに確認したら。苦笑混じりに肯定していたから、間違いないと思う。
義姉さんの身内で、初恋と言えるくらいの交流があった人。
何らかの武道をたしなんでいて、言動が男前な人。
で、結婚式に呼びたかったのに来てくれず、義姉さんが気にしていた人。
「あの人、義姉さんの従姉妹のミドリコさんで間違いないと思うよ。ミドリコのミドリ[翠]っていう文字は、ジェイド[翡翠]を表す言葉にも使われてるんだって。”ジェイ”という呼び名は、そこから来ているんじゃないかな?」
僕は、義姉さんの母国語のフォントを入れて印刷した二つの言葉ーー”翠子”と”翡翠”を兄さんに見せながら説明した。
だってこんな字、書こうと思っても書けないし。この国にも、こういう字が好きって人いるらしいけど。僕はカンベンだな。
「……あのひとが、女性ーー?」兄さんがぼんやりと呟いて。
その顔が見る見る、真っ赤になった。耳まで赤くして、口許を抑えて、何やらぶつぶつ言っているみたいなんだけどーー。
あのー。兄さん。あの人に気があるとか、言わないよね?
あの人、言動見ていたら分かったと思うけど、恋愛対象、女性オンリーの人だよ? 複数の武道をたしなんで師範格だっていうし、下手な真似すると、蹴り殺されるよ?
そんな理由で兄を亡くすって、かなりイヤなんだけど。
兄さんなんて、どうせ義姉さんが初恋の恋愛初心者なんだから。
あまり高い山に登ろうとしないで欲しいなぁ。




