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神様の人事異動【エピローグ】

 大学で何で連絡も取らずに二人揃ってサボっていたのか。バイト先では普段ちゃんと働いているためクビは免れたが次は無いと釘を刺された。

 どうしてそんな事していたのか。

 自分達にも理由が分からない。二人でいなければと言うそんな記憶があるが、どうしてそうしなければならなかったのかが思い出せないのだ。

「何だろうな」

「スマホに写真は残ってるんだよ。海の写真」

「海だな」

「何で海に行ったんだろう」

「何でだろうな…?」

 サボっていた分を埋めるように働き勉強している日々を送る中、久々に休みが重なったからとカケルと待ち合わせをして外食をする事になった。

 お互いの家の最寄り駅。その中間地点の駅で降りて近況を話す。話すと言っても特に変わった事はない。ネットで見かけたかわいい動物のニュース。気になる料理のレシピ。許せないような極悪非道のニュースを話の種にして会話を咲かせるが、どこかで何かが何かが足りていないとかんじるような不思議な感覚を持ったまま空になった料理の皿を見て会計をして外に出た。

「どうだった?」

「旨かったよ」

「うん。また来よう」

「この前さ、三ヶ月記念で焼肉行ったろ?」

「行ったな。カケルのリクエストだ」

「その後、ロイヤルなホストに行ったろ?」

「……」

「お前のリクエストだぞ?」

「…だっけ?」

「そうだぞ?」

「そうか?」

「あれ?」

 違ったか?カケルが首を傾げながらそう話す。かわいい。

 三ヶ月記念なんて、そしたら次は四ヶ月記念でもしようかと思いながら駅に行き改札を抜けてホームに立つ。

「…何でこっちのホームに来てるんだ?」

「え?」

 カケルに言われて気付く。確かにここは自分の家に向かう電車は来ない。

「二番線だろう?」

「二番線…だな?」

 いつも乗っているはずの電車なのにカケルを追いかけたのか訳の分からないまま本来のホームに戻ろうとするがその時自分達の前に電車が停まる。踏み切りの音もアナウンスも流れていないのにやって来たその電車は音も無く扉を開いて中からスーツの男性が降りてくる。

「……」

「こんにちは」

「……あ、!」

「あぁ!」

 柔和に笑う男を見て全てを思い出した。


「あなた達の代役の方はよくやってくれてます」

「…あ、そう」

「そうか…」

 この男がこの生きている存在がある世界では触れてはいけない存在なのか、いつも周囲から人が消えて静かになる。そんな静かな世界で男はあれからどうしたのかと話し始めた。

「本来ならあなた達が私達の意にそぐわない事をしたため二度と同じことをさせないように世界を再構築させる予定だったんですよ」

 予定と言うか、もうしていていただろうと反論すると、だっておかしな答えを出してくるんですからと男性は相変わらずこちらに感情があることを知らないように話す。

「俺達だって…あぁなった時は自分達のせいで世界がどうにかなるって後悔したんだよ。でも…そこまでしなくても良かっただろう?お前、情が無いのか?」

「無いよ多分」

「恐らくあなた達が抱いている感情は私達の中では欠けています。だからあなた達が出した答えに対応出来ないのであぁするしかなかったんですよ?」

「……あぁそうかい」

 本当に欠けているんだろう。こちらがどんなに感情論をぶつけても、きっとこの男は今のように何を言っているのかと首を傾げながら答えるのだろう。

「……あのおじさんは」

「あぁ彼。あなた達の記憶は無くしているので覚えてませんけど仕事はちゃんとしてますよ」

「いや、そうじゃなくて…そうでもあるけど…あんたが連れていく前に話したのは」

 不死にしたとか何とか。

「えぇ。千年ぐらい前に人事異動がありまして…その時存在していた人類の何人かを代役を立てて仕事をしてもらいました」

 彼はその時、今のあなたと同じ様に大事な人が連れていかれるのを拒んだ人間です。

「はぁ?」

「あんた千年前も同じ事を?」

「人間に詳しい存在曰く、勘が鋭いとか何とかですごく稀に連れて行かれるのに気付く方がいるんですよ。そして彼は大事な人を連れていかないでほしいと懇願しました」

「…それであんた達は?」

「当時はあなた達にそうしたような代役を立てろとかの選択肢を与える事なんて考えていなくて、とりあえず連れて行こうとしたんですが」

 あまりにも泣きわめくものですから、人間に詳しい同僚が泣かないようにおまじないをかけたんです。

「おまじない?」

「何だそのかわいいの」

「いつかあなたの大事な人は生まれ変わる。その生まれ変わりに会えるように彼を不死にしてあげたんですよ」

「……っ」

 背中に冷たい汗が伝う。

 男はあまりにも真っ直ぐにその恐ろしいおまじないを笑いながら言った。人としての感情が無い彼らにとってこれはきっと素晴らしい発案だと思ってホームレスの男性をそうしたんだろう。

「…あれ…本当だったんだ」

 カケルが青ざめながら呟く。冗談を言うんだなと思っていた千年生きたと言う男性の言葉に間違いは無かったんだろう。

「でも、どうやら生まれ変わりには会えなかったみたいですね。千年も生きたのに」

「……」

「まあでも結果は良かったでしょう?おまじないをかけたおかげで再構築しようとした世界の中で彼は動けてそしてあなたの代役に名乗り出た」

 結果あなたとあなたはまた一緒にいられる。何てハッピーエンドなんでしょう!

「…ハッピーエンド?」

「これが?」

 確かに自分達は離れること無くここにいる。

 ただそうなるために自分達は名前すら知らない男性を犠牲にした。なんならその前に自分達のために世界を滅ぼすような事態を引き起こした。

 今がどれだけ穏やかで、男性が望んで代役になったとしても結局後ろを振り向けばこちらの責任で存在を消された人間がいる。

 これがハッピーエンドと呼べるのだろうか。

「……そんなの」

「テンマ君。カケル君」

 男に名前を呼ばれて顔を上げる。

「私達はあなた達があの世、黄泉、天国地獄。そう呼ぶような場所にいます」

「……」

「その世界で魂になった存在を導き新たに生を受けさせるために動いています」

「それで…?」

「それが何?」

「滞りなく行うためにあなた達が持っているような感情は欠けています。そして滞りなく進めるのが難しいと判断した場合、ためらい無くこの世界をリセットするでしょう」

「そりゃ、身に染みて分かってる」

「それでもね。私達はあなた達のような存在を好ましく思っているのです」

「か、」

 感情が無いと言っておきながら、どの口がそう話すのか。

 喉元まで出かけた言葉を飲み込んでしまったのは相変わらず真っ直ぐこちらを向いているからだ。

「喜び笑い泣き、怒り、愛する」

「…あんたには無いもんだな」

「そう。だからそれらを持つあなた達を好ましい。愛していると言っても過言ではない程に」

「そう言ってもあんたには」

「だから、この世界をなるべく滅ぼさないように選択して下さいね」


 感情を持ち知性を持つあなた達の存在は、私達がそうしなくても滅ぼす力を持っているのです。


「……」

「それではさようなら。あとそれと…」

「…まだ何かあんのか?」

「働き者の代役を立ててくれたのでお礼に願いを一つ叶える事が出来るんですよ」

 どうやら事が終わっても目の前に現れたのはこれが本題らしい。

「あなた達の関係があたかも当たり前のように世の中を変える事も出来ますが」

「へぇー…」

 そりゃいいな。男女の恋人同士のように往来で手を繋いで親にも友達にも言えるのが当たり前の世の中に出来るのか。

「…そしたら」

 カケルと目を合わせて男に向かって答える。


 電車が停まる。

 人が飲み込まれるようにその電車に乗り込む。座る席はもう埋まっているので邪魔にならないように立ち動き出した電車に揺られる。

 スーツの男の姿はもう無い。恐らくもう二度と会わないだろう。

「…俺達」

「ん?」

 カケルが窓の外を見つめながら呟く。

「…これで良かったのか?」

「…良かったんだよ。これで…」

 願いは叶えなくていい。そう首を振って断るとスーツの男はあっさり引き下がり無音だった駅のホームに人の声が戻っていた。

 ただ最後に自分達の記憶を無くさないように伝えるとそれぐらいなら簡単だと、スーツの男は消えていった。

「これから…外に出よう」

「親に言うのこえぇな」

 自分達が名前も知らない男性を犠牲にした事で叶えられる願いを捨てて、あの人が何て事の無いように受け入れたように自分とカケルの間柄を恥ずかしい事ではないと思いながら殻を破り外に出る。

「…でも、怖くても言ったところで世界が滅ぶわけでもないんだよな」

「そうだよな…すごい……些細な事かもな」

 名前も知らない男性の存在が消えてしまった。それを覚えている自分達は何も変わらない世界を眺めながら初めて人前で手を握った。


 

 

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