神様の人事異動【前編】
その日の殆ど見ない朝のニュースの占いでは俺は確かに上位のはずだった。恋人の運勢も見てやろうと確認すると自分よりも上位の運勢だった。
これは何か良いことがあるんじゃないかとそんないつもよりも少し気分の良い変わらない一日の始まりだったはずだ。
空は快晴気分は良かったが大学に行くための満員電車は相変わらず四方八方から人間の乗っていい空間じゃないと何度も思いながらいつもの大学の最寄駅で降りる。
「…おはよ」
「おはよ」
改札を抜けて駅の柱の前にいる、恋人の同じ大学の同じ学部の同じ性別の彼と肩を並べて歩き出す。
「今日暑くなるって」
「そう信じて薄着にしたんだ。そしたら見てくれ鳥肌が…」
「朝晩はまだ寒いんだよ。鞄に上着でも入れたらどうだ?」
「やだよ。荷物増えるの嫌いだし」
軽く喋りながら大学へと向かう。背丈は同じぐらい。黒髪が最近伸びてきて少し鬱陶しい自分がタチのテンマ。
隣を歩く生まれつきだと言う茶髪を今の季節にぴったりに短くしたのがネコのカケル。
酒も煙草も飲める年齢になって出会ってのは同性専用のマッチングアプリで出会った。その頃、肩に付くぐらいの髪の長さが好きだった俺がマッチングアプリのはっきりしない写真を見て好みに掠りマッチングした。会ってみるとまさかの同じ大学でアプリのプロフィールで分かっていたが同い年でまあこれも何かの縁だろうと、特別お互い不満な点も無かったため付き合い始める事になった。
それが三か月前の事。
「テンマ。明日」
「明日?」
「明日で三か月」
「よく日付覚えてるな」
「お前が一か月記念の時にやたらとはしゃいだからだろ。一か月の時はあんなにはしゃいだのに三か月は忘れるのか」
「あん時は…あれか?付き合い立てハイテンション?」
「どんなハイテンションだよ」
強烈に好きになって待望のお付き合いと言う訳ではなかったがお互いを知るとなかなか楽しいものでそのため一か月も彼氏がいたと言う事実に受かれて風船を膨らませてケーキを頼んでそこでカケルが甘いのは食べられないと知った。
それから冷静になり頼れる彼氏になろうとクールに努めたが冷静になり過ぎたのか今度は三か月記念日を忘れかけた。
「何かする?」
「また風船膨らませるのか?」
「あれな…すごい肺活量いるんだよ…」
「…お前もしかして一人で全部?」
「風船ってそう言うもんだろ?」
「普通にちょっといい飯食べるだけでいいよ」
「ロイヤルなホスト?」
「焼肉行きたい」
「ロイヤルなホスト…」
三か月でお互いの事は分かって来た、はずだ。
“テンマは大雑把で涙脆くて情にも弱い”
確かに全米が泣いた系は一つも漏れずに全て泣いた。一生のお願いにも弱い。最近はバイト先でお母さんが入院したから代わってほしいと言われて勿論代わったらそんな同僚は元気に遊んで歩いていた。
“カケルはクールな見た目なのに初”
切れ長な目に表情があまり動かないように見えるため何でも出来そう何でも知ってそうと言われるが今まで誰かと付き合った事が無い。キスをしようとすると強ばり面白い顔になったため吹き出して雰囲気が台無しになったのを覚えている。
お互い無理強いはしない。
不満があるなら声に出す。
一緒にいるのがストレスになったら別れる。
そんな決まりを決めて今のところは上手く出来ていると思う。
「んじゃあ、焼肉?」
「ロイヤルなホストはいいのか?」
「新作のデザート気になるだけだから」
「じゃあ焼肉の後にロイヤルなホストにするか」
「いいのか?」
「食えるだろ?」
「食える」
「やった。カケルちゃん愛してる」
「うざっ」
記念日の予定が決まった。焼肉店を調べて予約をしなければとスマートフォンを取り出す。
お互いの家から中間の駅近にある焼肉店を歩きながら探していると肩にふっと、触れたような感触がした。
「あ、すいません」
歩きスマホでぶつかってしまったと顔を上げて謝るとぶつかった人らしき影は無かった。
さっさと通り過ぎて行ってしまったのかと申し訳ない気持ちになるとカケルが怪訝な表情でこちらを見ていた。
「どうした?」
「今、誰に謝った?」
「誰って…ぶつかったかもしれないんだ人と」
「誰もいなかったぞ?」
「え?」
「気のせいだろ?でも歩きスマホ危ないから止めとけ」
「あ、あぁ…」
気のせいにしては誰かと触れた。それだけがはっきりと残っていた。
大学に着くと先に来ていた他の友達とも合流して二人きりではなくなった。賑やかになり彼等は最近のバイトの話や講義の話。一人は彼女が出来たと浮かれて話していた。
お前達も早く彼女を作るがいい。
そう言って俺は先に進むと笑いながら歩く友達をうるせぇとからかいながら今日もいつもと何も変わらない日常が始まった。
今の生活は好きだ。
大学生と言う比較的自由な身で親元離れて一人暮らしをしている。バイトをして遊ぶためのお金や生活にかかるお金を確保して講義を受けてゆっくり人生の選択をする。
カケルも同じでお互い似ている。地方から進学して同じ様に一人暮らしを始めて生活のためにバイトをして将来のために講義を受ける。
あまり親に負担をかけたくないと言って自分よりもバイトの時間が多い。立派だと思う。
そんな生活がまだあと二年は続いていく。
順調に進めばこのまま大人の仲間入りを果たして社会のために働くようになる。
その時の事はまだ考えていない。今は学生の身で自由に出来るからカケルとの関係を保てているが将来の話をまだ出来ていない。付き合ってまだ三か月でそんな話をするのはまだ早いとは思うがお互いに何となくではあるが避けている。
社会に出た時に今と変わらずにこの気持ちを持ち続ける事が出来るだろうか。
持ち続けても家族や友人から自分達は周りと同じ異性を愛する人だと思われている。そうするといつか「好い人(女)はいないの?」と聞かれるだろう。
その時の返事の仕方をまだわからないでいる。
「…あ!すみませ…」
「カケル?」
「え?あれ?」
ほんの少し前を歩いていたカケルが慌てた声で謝った。誰かとぶつかったのかと思い声をかけるが当の本人は首を傾げていた。
「どうした?」
「いや…誰かとぶつかった?」
「疑問系?」
「ぶつかったはずなんだよ。感触があったのに…誰もいなくて…」
「幽霊じゃね?」
「止めろよ…」
朝から気味悪いとカケルが表情を曇らせる。
いつもと同じ日常のはずだ。
ほんの少し気味が悪い感覚を残しただけで。
ぶつかった人がいるであろう方向を向くとそこには誰もいないはずなのに何故か俺達に向けて誰かが笑いかけたような気がした。
「食べ放題コース?」
「コスパがいいのはそっちだな」
「確かに…」
「それじゃ食べ放題コースだな」
「カルビ、ハラミ」
「米食いたい」
「まずは肉!」
三か月記念日の外食は都内に何店か店を構えている大学生に優しい値段の焼肉店だ。食べ放題を選んでまずは好きに注文してテーブルに皿が置かれていく。
赤い肉を編みに乗せて焼いていくと腹を空かせていたかいがありどんどんお互い口へと運んでいく。
「あ、テンマ」
「何?」
「まだちょっと赤かったぞ」
「平気だって」
「腹壊すぞ」
「鶏肉以外なら平気だろ?何だっけ?セパタクロー?」
「カンピロバクターだよ。全然違う」
少し赤身が残っているぐらいなら平気だと思い気にせず食べる。カケルはきっちりたした。と言うよりは細かい性格をしており小さな事も気付き口を出す。
「ほら。焼けたぞ」
「赤いの残ってんじゃん。やだよ」
「細かいなー。別にいいだろ?」
「テンマは大雑把なんだよ」
「カケルが細かいんだよ」
「慎重なんだよ。俺の慎重さをお前に分けれたらな…」
「俺の気にしない部分をお前に分けれたらな…」
「……それはちょっと」
「俺もやだよ」
何だよ。お互い譲らないじゃん。
そう言って笑い合う。
腹を空かせて来たからどんどん進み美味しそうだと思って注文しようとした物が食べ放題コースでは無理だと分かり悔しかったので法的にも飲めるようになったアルコールを体に入れる。
カケルも同じ様にアルコールを頼んで気分が良くなっていた。
そろそろ食べ放題の時間も終わりだと店員に告げられて帰る支度をしようと立ち上がると自然に店内を見てしまう。
「…ん?」
「何?」
「いや…店の人達が?」
「人達が?」
「…何か減ってるような?」
「そりゃ俺達が食ってる間に帰った人もいるだろうよ?」
「そう…だけど?」
カケルにそう言われるのは最もだ。
ただ何と言うか言葉に出来ない違和感を感じた。それを訳も分からないままに説明しようとしたためカケルの表情はますます怪訝になる。
「早く行くぞ」
「そんな酔ってないんだよな…?」
「酔ってない奴は大体そう言うんだよ」
「え~?」
気持ち悪い感覚に包まれながらきっちり割り勘をして外に出ると昼間は温かいが夜になると寒さが体を包み込む。
「カケルちゃん~」
「やめろ」
カケルに抱きつこうとするて冷たくあしらわれる。
「何だよ~酔っぱらいのお戯れにしか見えないって」
「それでも」
「けちんぼ」
「何とでも言え」
堂々と恋人のお戯れが出来ないのは寂しい事だ。
「それじゃデザート行こうぜ?ロイヤルなホスト!」
「…俺飲み物だけでいい」
「え?新作デザート一緒に食べようって」
「…食い過ぎた…入らねぇ…」
「え~…じゃあ止めるか」
「お前は食べろよ。俺は飲み物飲んでるから」
「やだよ。一緒に食いたいんだよ」
「面倒だな…」
「共有したいんだよ…」
大体この後行くの分かってんなら考えて食えよ。
「…分かったよ」
「…食いたくないならここで解散でもいいし」
「そこまでは言ってないだろ」
本当に面倒くさいな。
お前のリクエスト優先したんだぞ?
大体俺がもういいって言ったのに皿にばかすか乗せるから。
だって焦げるじゃん?
自分の箸で取ったら自分で食えよ!
俺の箸汚くねえよ!
そうは言ってねえだろ!
「……アホらしい…」
「…本当だよ」
酔いもあってか下らない言い争いをしてしまった。周りの視線に気付いてお互い俯くと不完全燃焼のままとりあえず当初の予定通りに目的の店へと入った。
気まずいままに目的のメニューを注文すると俺は言っていた通りに食べたかった新作のデザートを注文して、カケルはそれを注文せずに飲み物だけ頼んでいた。甘党で俺には飲めないブラックコーヒーを眠れなくなるのを承知で飲んでいた。
こちらは目の前に届いた旬のフルーツを使った生クリームの暴力を無心で食べていた。
「……美味いのか?」
「…甘い」
「…そりゃそうだろうよ」
「……」
本当はほんの少しでも先の話をする予定だった。付き合いが今だけだけかもしれないから先の事は考えないように楽観的に過ごそうとしていたが、目の前に段々と自分達が大人の仲間入りを近付くに連れて真剣に考えなければいけないのではと頭の中ではあった。
それを打ち消して今はまだいい。
今は考える必要が無いと思いながらも、今日ほんの小さな事で言い争ってしまい有耶無耶になってしまった。
糖分で答えの出ない問題を流してしまい、カケルのブラックコーヒーが空になってからしばらくしてこちらの器も空になり、席を立つ。
無言で歩いてこのまま解散かと思い時間の確認をする。まだ終電までは何本かある。話し合う時間はあるかもしれない。
何て切り出そう。
ばかすか肉を乗せてごめん?
同じデザート食べたいって女々しい事を言ってごめん?
女々しいって何だよ。
昨今こんな事を言ったら色々と。
「おい」
「え?」
「あれ」
「…え?」
お互い帰るために地下鉄の階段を降りた時だった。カケルに声をかけられて顔を上げるとそこには頭から血を流して座っている…ホームレスらしき男性がいた。
らしきと言うかホームレスだ。たまに遅くまでここで遊んだ帰りに何人かのホームレスがこの地下鉄で眠っていて横目で見ていたため間違いない。
「血…怪我してるな…」
「やば…え?どうする?」
「俺ティッシュならあるけど…」
「何で?」
「花粉症になったかもしれなくて…」
「あらまあ…」
普段なら通り過ぎる。しかし怪我をしている人間をそのまま普段のように通り過ぎるのは少し気分が悪い。もし、手助けがいらないのならばそのままさっさと行けばいい。
カケルと目を合わせて頷いてホームレスに近付く。
「…あの、大丈夫ですか?」
目線を合わせて声をかける。
「あ、あ、あぁ…」
長く伸びた髭の隙間から見えた口は歯が欠けており途切れ途切れに話してくれた。
「ころ、ころんだ」
「転んだ?」
カケルが首を傾げて尋ねる。どこで転んだのかと尋ねると俺達が来た反対側の階段から降りる途中に転んだらしい。
「頭切れてません?平気っすか?」
「だい、だいじょぶ、だいじょうぶ」
「せめて止血しましょうよ。これ使って押さえて」
頭を振るホームレスにカケルがティッシュを差し出したが受け取ってくれない。大丈夫大丈夫と頭を振るばかりでこちらもどうしたらいいのか分からない。
「……でも、」
「だいじょうぶです。ありがとうございます」
「…テンマ」
カケルに腕を引かれて立ち上がる。その場から少しずつ離れるとホームレスはこちらに向かってずっと頭を下げていた。
「いいのか?」
「だって受け取らないだろ?」
「だからって…」
「だから」
何だかそれはと何度もホームレスを振り返ったがここでカケルが改札を通らずに反対側の階段を上がりコンビニに真っ直ぐ向かっている事に気付く。
「カケル?」
コンビニに置いてあるお高めの絆創膏に消毒液。更におにぎりやお茶を手に取るカケルはこちらを水に早口に言う。
「受け取らないなら押し付ける。さっきデザート食べなかったから俺少し金あるんだよ」
「カケルちゃん…!」
「やめろそれ」
やっぱり俺が選んだ恋人は間違いなかった。
「俺も出すよ」
「いいよ」
「出させてくれよ。俺も何かしてやりたい」
「…勝手にどうぞ」
恐らく照れてる。
素直に良いことをするのがなかなか出来ないから慣れない行動、素直な感心に照れているカケルと共にあのホームレスの元へと戻る。
血は止まっているらしいが相変わらず痛そうでそれを忘れるように踞っていた。
「…すいません。すいません」
「え、あ、さっきの」
「これ使ってください」
有料レジ袋に入った絆創膏や食べ物を見て驚いていた。まあそうだろうと思ったがやはり受け取れない申し訳ないと首を振る。
一向に受け取らないホームレスにカケルが声をかける。
「…おじさん。平気っても傷が化膿するかもしれないぞ?そこから体がどんどん悪くなるかもしれない」
「へいき、です」
「それでもだよ。階段で転んだっても食ってないからふらついたとかじゃないか?お節介かもしれないけど受け取りなよ」
「でも、でもおにいさんのお金で買ったのなんて、もうしわけない」
「そうだよ俺達の金で買ったんだよ。それをどうか使おうと俺達の自由なんだよ。だからこれをおじさんに押し付けるのも俺達の自由なんだよ」
「なあおじさん。おじさんが俺達が勝手に買ったもんをおじさんの都合で無駄にしないでくれよ」
そう言いくるめるとようやくホームレス、おじさんは受け取った。頭の傷は浅いがやっぱり切れている。病院に行くかと聞いたが平気だと首を振る。手が震えているためこりゃ絆創膏は貼れないなと思いカケルと一緒に消毒して絆創膏をべたべた貼ってやるとようやくおじさんは安堵した。
「ありがとう、ありがとう」
「いいよ。それじゃあ」
「気分が悪くなったら病院に行って下さいね」
「ありがとう、やさしいおにいさん」
ようやくこちらも安堵しておじさんと離れる。終電一本前の電車に乗れる時間でお互い乗る電車は反対であるため改札に入ったら別れる事になる。
「…それじゃ」
「…ん」
「……」
「…今日」
「……」
「下らない事で苛ついた。ごめん」
「俺も、ちゃんと言えば良かった」
きちんと仲直りが出来た。
お互い本当に些細な事で言い争ってしまったと仲直りに抱き締めようとするとカケルはさっさと自分の乗る電車が来るホームへと行ってしまった。
「…帰るか」
電車に乗ったら連絡しよう。そう思い何だかんだで良い記念日だと思いホームで電車を待っていると終電間際だからかホームにはやけに人が少ない。
少ないと言うか自分しかいない。
確かに終電が近いがそれでも夜は明るい町だ。現に改札の中に入る時、何人もいたはずだ。だからカケルに抱き締めるのを拒まれていたのに。
電車も来ていない空っぽのホームから反対側のホームのカケルも見える。向こうも誰もいない事に疑問を思っているのか首を傾げている。
手を挙げてみるとカケルが気付きスマホに連絡が来る。
“人がいないな”
“こんな時間でも何人かいるはずなのに”
“改札に入ったら何人もいたと思ったけど?”
“だよなあ。これ何?異世界?”
“流行りものの主人公になった覚えは無いが”
スマホは普通に使えるし、人がいない事以外はおかしな点は無い。
「…あ」
そこでようやく気配を感じた。
“良かった。いたわちゃんと”
“俺もいた。ちゃんと現実世界だ”
横目で見ると確かにそこには人がいた。安心して電車を待っているとその人は自分と同じ様に遊んできた帰りかそれとも仕事帰りかと気になり顔を向ける。
「…っ」
恐ろしくはない。
ただはっきりと認識出来ない存在が自分と同じホームに立ち何故か笑っているように見えた。
そしてゆっくりとこちらを向いてやはり認識出来ないままに手を振られた。
「…!?」
意識が浮上する。
水中から地上へ出たような感覚に驚きながら顔を上げると踏切と音とホームに電車が参りますとアナウンスが流れて周りを見るとたくさんの人がずっとそこにいたように疲れた顔で酔った顔で笑った顔で立っていた。
「…?」
説明出来ない感覚のままにホームに停まった電車に乗り込み走り出した。
「あ」
カケルから連絡が届く。
“何か人いたわ”
いつもの日常ならば何を言ってるんだと返すがカケルも同じ感覚を味わっていた。
“俺もそうだ”
自分とカケルの世界だけが何故か歪んでいるように感じた。そんな不安をほんの少し、ほんの少しだけ覚えながらお互い家に帰りその不安と奇妙な感覚を忘れるようにして眠った。
翌日もしかしたら俺達近々異世界にでも行くかもな。そんなふざけた事を話しながら歩く。
昨日の記念日からまたいつもの日常に戻る。
「何言ってんの?」
「何か変だったんだよ」
「変って?」
大学の友達と歩きながら喋る。カケルもその中に“友達”としていながら昨日お互いが味わった妙な感覚を説明するが分かってはもらえない。
それはそうか、自分達でも説明がつかないのだから。
「駅で奇妙なって…あれか?」
「きさらぎ駅?」
「あれはホラーじゃん?帰ってこれないやつ」
「俺結末知らないんだよ。それハッピーエンド?」
話が段々と逸れていきこれはもう元に戻らないなと感じながらカケルと目を合わせる。
大学の帰り道、早く終わってまだ日が高い。
今日は晴天、何も異常はない。
カケルと目を合わせて一緒に歩く友達は三人。よく遊んでいる気が合う仲間。秘密は友達同士だと言っている俺とカケルが恋人同士であること。
それ以外、何もない。
何もないはずなのに、段々と意識が遠退く。立ち止まりあまり動かない体を動かして周囲を見るといつもの町がやけに白い。
霧がかかっているような白ではなく、あちらこちらにある色が綺麗に失われて何故か町が真っ白に見えている。うるさいはずの町の音も何も聞こえない。車の走る音も電車が線路を走る音も人が歩く足音も町が生み出す音が何も聞こえない。
おかしいはずなのにこれがまるで自然な事のように感じる。
真っ白になった町の道路に家のような屋根の付いた車が音もなく走って来るとその扉が開かれる。
その扉に吸い込まれるように一人、二人と乗り込んでいく。
それが何だ。何もおかしい事じゃない。
そう思いながらも見つめていると自分の横をカケルが通り過ぎていく。
ああカケルも行くのか。そりゃそうか。
何ら不自然ではない、当たり前の事だとカケルが車に向かって歩くのを見つめていると当たり前の事なのに首を傾げる。
あれ?おかしくないか?
動かない体に動けと命令する。車に乗り込みどこかに行くのは不自然ではないはなのに油の差していない機械のように無理矢理動かした体でカケルに手を伸ばす。
服の裾を掴んで引っ張ると二人揃って尻餅をついた。
「…何してんの?」
「……え?」
「…あれ?」
その瞬間、町に色が戻り音が戻り道端で尻餅をついた自分とカケルを三人の友人が心底不思議そうな顔で見つめていた。
「え?いや…?何だろ」
「邪魔になるから早く立ちな」
「おう…?」
カケルと何が起きたのか分からないままに立ち上がり未だに頭の整理がつかない自分とカケルは友達の後ろを歩くがそこで気付く。
いつも遊んでいるのは目の前を歩く三人。顔も名前も知ってるはずなのに何故か知らない人間が入り交じっているような気がした。




