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赫き空の下で終焉の詩を ─記憶なき道化と運命に縛られし少女の円環録─  作者: 馳せ参ず
第二章「赫き夜」

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第7話「報告」

 暗い夜を照らす白き月が、星々の中心で一際大きく光っていた。


 森を抜けたローレとネルは現在、ネルの住む街にある冒険者ギルドへと向かって、荒々しく舗装された草原の道で歩みを進めていた。ネルの頭の上にパタパタと収まっためーちゃんがあくびを漏らしながら口を開く。


「ところで、ここは何処か教えてくれないめ? ……すっごい長い時間が経ってるから、もう覚えてないめ」


 めーちゃんの言葉にネルが疑問符を浮かべた。


「すっごい長い時間って、どういう事なんですか?」

「ん〜〜〜〜」


 めーちゃんが唸る。

 それにローレがパチンッと指を鳴らして付け加えた。


「四十層でめーちゃん自身が『長い間独りぼっちだった』と言っていましたねぇ。私もそれには、気になっていました」


 これはローレ達とめーちゃんが初めて出会った時にめーちゃん自身が零した言葉。

 

 (気になるところというか……この自称ハピネスバット自体が不思議の塊のようなモノですがねぇ。そもそも喋る(ガーディアン)がダンジョンから平気な顔して出ている事自体おかしいのですが)


 指摘し始めたらキリがないので、ローレは思考を切り替えた。その時、ローレの細剣を収めた鞘がチカリと点滅した。

 それは暗闇に慣れた目を焼くほど強く、ネルとめーちゃんがわたわたと目を塞ぎ、情けない声を漏らす。


「ふぇぇ!? 何ですか何ですか!?」

「目が、目がーーッなのめ!?」


 その光る鞘を持つ当人だが、額からダラダラと汗を垂らし、緊張で固まっていた。ネルとめーちゃんの視線に気づいたローレは作り笑顔でこう言った。


「……依頼主からの連絡です、ねぇ」


 ローレは細剣を鞘から抜いて己の右側の地面に置き、鞘を地に立てて膝をついた。その様子を見ていたネルがローレに聞く。


「依頼主? 今更ですけど、ろ、ローレさんって何者何ですか?」

「──ふむ、そういえば言っていませんでしたね」


 儀式のような何かを中断し、鞘を地面に寝かせてローレは続ける。

 

「私の名はローレ=アンブークル──」


 モノクルから垂れる翠玉の宝石が月光に揺れ、煌めく。ローレが両手を芝居がかった動きで広げ、こう言った。


迷宮総括機構ダンジョンそうかつきこうに配属されし、世のダンジョンを沈静化する命を受けた冒険者──人呼んで辺境潰しフロンティアブレイカーです!」


「お、お〜〜……?」


 ネルがとりあえず拍手しているのを見てローレは額に手を当てた。

 辺境潰しフロンティアブレイカーとは冒険者ならば誰もが知る肩書きであり、冒険者である兄を持つネルならば知っているのだと、ローレは思い込んでいたのだ。


「ふむ……その顔は、知らないのですね?」

「はい……お、教えてくれるとありがたいです!」

「ヌシも知りたいめ」

「説明ですが……少々伝えるのが難しい──いや、直接話した方が早いですね。私には報告の義務があるのですし」

「どういう事ですか?」

「今お見せしましょう。少し離れてくれますか?」


 ローレの声にめーちゃんを乗せたネルが数歩下がった。すると、ローレが再びチカチカと明滅する鞘を手に取り、片膝をついて地面に鞘を突き立てる。

 そして、呟いた。

 

「ローレ=アンブークル」

「……生体認証、完全一致。ローレ=アンブークル様、お疲れ様です。担当者と魔導通信が繋がるまで少々お待ち下さい」

「了解しました」


 無機質な声が鞘から響き、明滅が収まる。

 その光景にネルとめーちゃんは目をパチパチと開いては閉じ、唖然としていた。


「鞘が……」

「喋っため!?」


 二人の反応を見て、ローレは面白そうに微笑んだ。

 

「正確には『鞘』ではなく、鞘に埋め込まれた『魔核』が正しいですね。あ、魔核とは(ガーディアン)が落とす、高濃度の魔力が籠もった純粋魔石の事を指します」

「ヌシがお前らに還元するために使ったやつめ」

「結果的にどうにかなったとはいえ……四次元収納(ボックス)で後に回収予定でしたのに……」


 改めてにはなるが、主の間(ガーディアンフロア)は三日経たねばリセットされない。

 そのため、ローレは遺品で埋まった四次元収納(ボックス)を見て、魔核の回収を後に回していたのだ。


 それがこんな形でなくなるとは微塵も想像しておらず。結果的にローレとネルに還元される形でゲファールリッヒの魔核は消失してしまった。

 それで困るのが──


辺境潰しフロンティアブレイカーの私なんですよねぇ……」

「お待たせ致しました。ローレ=アンブークル様、担当者の準備ができましたので……m……ローレ=アンブークル! 何があったか全て報告なさい。今すぐ、よ!」


 無機質な声を遮るように息を切らした女性の声が鞘から聞こえてきた。ローレはその声に目を細め、めーちゃん意外の全てを簡潔にまとめて報告した。魔核については、戦闘後に残った(ガーディアン)の残骸に溶かされたと嘘をついて。

 話を終えると、魔核の向こう側にいる女性の荒ぶった声が聞こえる。

 

「それ総括機構の推定難度を二つも越してるじゃない!? しかも再活性化に、転移魔法陣の誤動作──挙げ句の果てに二体目の(ガーディアン)ですって……? にわかに信じられる話ではないわ。でも、貴方が報告で偽りを話す人だとは思えない……うん、恐らく本当なのでしょう」


 (一部は偽っていますね……少し心苦しいですが、まだめーちゃんの事を明かすわけにはいきません。最悪総括機構への受け渡しにまで発展します。そうなれば、めーちゃんに懐かれているネルも──)


 責任は私が負う──


 そう唇だけ動かし、ローレは魔導通信の女性に言葉を返した。


「魔核の喪失については、痛恨の極みですねぇ。ペナルティや減俸処分等は甘んじて受け入れましょう」


 通常、辺境潰しフロンティアブレイカーが仕事を終えた時、沈静化した事を証明するために魔核を提示しなければならない。だが、イレギュラーが重なったゲファールリッヒ沈静化では魔核を回収する事ができなかった故、どのような処分になるのかはローレ自身も分かっていなかった。


 ローレの言葉にハァ……と女性がため息を吐いた。


「減俸で済めば御の字よ。証拠となる魔核がない以上、上を納得させるための報告書作りで私の胃に穴が空くことは確定したわ。……本当に、無茶苦茶なんだから」


 深い、深いため息交じりの愚痴が通信越しに響く。


「──でも、生きて帰還した事実は評価する。……それで? 怪我の具合はどうなの? 四日後には予定通り、王級(グラン)ダンジョン『暴食の顎(グラトレトマ)』の沈静化任務が控えているけれど。王級(グラン)の活性化は周辺街が傾く非常事態よ。もし貴方が動けないなら、《《彼女》》に頼ることになるわ」

「それは勘弁ですねぇ。はい……問題ありませんよ」


 ローレは即答した。そして、チラリと背後で固唾を飲んで見守るネルを一瞥する。


「肉体的な疲労や負傷は、最高級ポーションによってほぼ回復しております。予定通り『暴食の顎(グラトレトマ)』へ向かいましょう。……ただ一つ、事後報告になるのですが」

「何? これ以上私の胃を痛めつけないで頂戴」

「今回の遠征から、同行者を一名追加します。荷物持ち兼、ゆくゆくは後衛の支援要員として」

「……は?」


 鞘の向こう側で、女性担当者が素っ頓狂な声を上げた。無理もない。これまでローレ=アンブークルという男は、いかなる過酷な任務であろうと頑なに単独行動を貫いてきたのだから。


「貴方が、人と組む? しかも冒険者登録すらしていないド級の素人を? 本気で言っているの、ローレ?」

「ええ、大真面目ですよ。この世界におけるダイヤモンドの原石を見つけましてね。私が直々に磨き上げようかと。身元保証人は私自身とし、ギルドへの臨時登録はこれより向かう街で済ませます。各種手続きの根回しをお願いできますか」

「……」


 重い沈黙が降りた。担当者はローレの真意を測りかねているようだったが、やがて諦めたような息遣いが聞こえてきた。


「……分かったわ。貴方がそこまで言うなら、何か考えがあるのでしょう。ただし、王級(グラン)ダンジョンは今回のゲファールリッヒ程ではないけれど、危険なのには変わりないわ。素人を連れて行くなら、貴方自身の生存率も劇的に下がるわよ。……絶対に、死なないでよね」

「私を誰だとお思いで?」


 ローレが道化の笑みを深めると、相手は「はいはい、序列二位様」と呆れたように返し、無機質な電子音と共に魔導通信が切断された。

 明滅を終えた鞘を拾い上げ、ローレは優雅な手つきで細剣を納める。


「さて、お待たせしました」


 ローレが振り返ると、緊張で固まるネルと宙に浮かぶめーちゃんが見えた。


「それでは四日後のお仕事に向けて、我々も気張って行きましょう!」

「はいめ!」

「……はいっ!」


 各々が前を向いて歩き出す。

 ──初任務の日は近い。

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