030-『黄金の楽園』
かくして、ハルシバル地方は開放された。
俺たちは自治組織である貴族と情報を共有し、外の事を伝えて契約を取り付けた。
側近を地方の外まで案内して現状を見せられたのが大きかったな。
血相を変えて報告してくれたおかげで、危機感を抱いてくれた。
「このパン、美味しいですね」
「ああ」
そして俺たちは、あの村で食ったものとは数段グレードの違う黒パンを食べていた。
日持ちさせる必要もなく、焼きたてでうまい。
同じ店で買った焼肉も厚く、ジューシーで食べ応えが抜群だった。
ただ、まあ。
カネはかかる、相応にな。
「皆、遅いですね」
「今回は色々と無茶をしたからな」
ベストーナに財布を預けてある。
護衛はベナトールだから問題はない。
船を維持するのに使うものを買い揃えている。
マリアベルは多分、働き過ぎで船で寝ているはずだ。
ジルクは留守番だ。
「ゴードンはバイト中だろうしな」
「環さんは働かないんですか?」
「もう散々働いただろ」
金貨10枚くらいのマナポーションが12瓶消えたからな。
まあ....無償の労働だったが、誰かを救えたなら構わないだろう。
「でも、驚きましたね」
「何がだ?」
「みんな、覚えててくれたから.....」
「ああ、それはな」
俺は苦笑する。
街に入った俺たちが最初に見たのは、剣を背に吊った、全くと言っていいほど似ていないエリスの石像だった。
その傍らには、仮面をつけた全身ローブの男の石像があった。
石像に嵌められていたプレートには、『守り神たる剣神と、無名の魔術師に感謝を』と、古い言葉で刻まれていた。
俺は魔術師ではないのだが、星魔術のインパクトが強かったらしい。
「この街が出来る前に居た人たちのおとぎ話がモチーフらしいですよ! これって、私達ですよね!?」
「ほう、そうなのか」
あの暖かい人々の先祖が、ここで生きているのか。
なら――――
「頑張った価値はあったな」
「はい!」
俺の言葉に、嬉しそうにミカが応えた。
俺は空を見上げる。
....いつもより空が青いような気がした。
いつか、どこかで。
女の子が泣いていた。
「おやおや、どうしたの」
「おばあちゃーん....あのね、転んじゃったの。おひざが痛いの」
「あらそう...まずは傷口を洗いましょうね」
「うん...でも、おじちゃんは鳥のフンを塗った方がいいって」
「よしなさい、ばっちいわ」
そこに現れた老婆が、川から汲んできたばかりの水で少女の傷を洗い、薬を塗って葉を巻いた。
少女が、大好きなおばあちゃんへ向けて憧れの目を向ける。
「おばあちゃんは、どうしてそんな事を知ってるの?」
「昔好きだった人がねえ、教えてくれたのよ」
「だあれ?」
「おばあちゃんを助けてくれた人よ」
女の子を安静にさせるべく、老婆は膝枕をさせてやる。
その頭を撫でながら、老婆は言った。
「とても遠い人だったのよ」
「でも、好きだったの?」
「あとで気付いたのよ、おばあちゃんはおバカだったから....」
「もっとお話して、その人の事....!」
話をねだる女の子に、老婆は優しく言った。
「いいわ、あなたが起きたら、いくらでも」
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