003-『死んだ地脈の見る夢』
白い光が消えると、俺たちは喧騒の中へ立っていた。
いきなり現れた二人に気を配る事も無く、人々が街道を行き交っている。
俺はふと真上を見上げ、ドクターアークが浮いているのを確かめた。
「術式開始、成功だ」
「はい!」
俺たちは地脈の「記憶」へと潜り込んだ。
ここで何とかして、地脈を活性化させる必要がある。
そして、その力は俺にある。
〈世界蘇生術式〉とは、そういう術だ。
「ミカ、時計は?」
「もうセットしてます」
ただし、これは開腹手術と変わりない。
地脈は死んでいるが、俺たちがこの中で移ろうたびに、その蘇生確率は0へと落ちていく。
最短でも五時間で、ケリをつけなければならない。
......完全に死んだ地脈は、今までで三つ。
周囲の土地から影響を受ければ蘇生できるかもしれないが、それも失敗を繰り返せば難しくなる。
「悪いな、ここはどこだ?」
「お客さん、旅人だね?」
「ああ、これを貰おう」
「3ギスだよ」
この世界の通貨は、基本的にはほぼ同じだ。
商業の神が広めたという通貨、ギス。
歪んだコインみたいなものを支払い、俺は林檎もどきを買った。
それを、ミカに投げ渡す。
「え、えっ?」
「食って良い」
「はいっ」
「......別に買わなくても教えてやるけどね、ここはペリアス、商業都市さ」
「商業......」
「ここら一帯が、”ガイアーベルト”沿いにあるからな」
ガイアーベルトとは、要するにシルクロードのようなものだ。
農業の豊かな国だというサバス公国と、王国を繋ぐ道。
「ありがとう」
「また来な」
地脈が死ねば、ミカの喰った林檎もどきは”夢幻”となり、俺が支払ったギスは地面に放置されることになるだろう。
当然、二度と訪れる事は出来ない。
早く、この地脈の想念がどこにあるかを見つけなければ。
探す手段は簡単だ、魔力を見る事が出来る片眼鏡がある。
俺はそれを鞄から取り出そうとして、誰かにぶつかられる。
慌てて置き上がると、マナ・モノクルが消えていた。
駆けていく少年らしき人影があった。
「あっ! 泥棒!」
「いい。追跡魔法をかけてある」
俺は別に、回復魔法しか使えないわけではない。
仲間たちは、それをしょっちゅう忘れるようだが。
「艦砲射撃で脅しますか?」
「下手に動かすと、地脈が崩れる、やめておいた方がいい」
この世界は、地脈自体の記憶が見せる夢だ。
強い衝撃を受ければ、すぐに崩壊する。
「魔石の魔力だって無限じゃないんだぞ、滞空だけで無駄にしているのだから、これ以上無駄遣いをさせるな」
「ですけど.....」
俺はここ五年で色々学んだものの、ミカはそうではない。
この間の地脈修復で助けた、勇者軍団の置いてけぼりの一人だからな。
彼女の経験や知識は、五年前の壁に世界が塗りつぶされた時のままだ。
地脈の中に魂が取り込まれたままでは、何一つ新たな経験は出来ない。
「とにかく、追うぞ。....なに、襲われた時は魔法で反撃すればいいだろう」
「そういう考え...よくないと思いますけど....」
「何か言ったか?」
「いいえ...」
魔法使いと分かれば、基本的に喧嘩は売らない方がいい。
だから、示威行為には最適だ。
この世界は安定しているようだし、これくらいの「揺らぎ」なら許容してくれるだろう。
俺はミカと共に、少年の足取りを追った。
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