002-『異世界転移』
七年前。
俺が覚えているこの世界での最初の記憶は、困惑するクラスメイトと、荘厳な遺跡のような周囲。
そして、不気味なほどに青い空に浮かぶ、二つの月。
「おお......」
「本当に成功したぞ!」
周囲の反応を、よく覚えている。
老人数人と、法衣を着た男が数十人規模で跪いていた。
俺たちは、異世界に転移したのだとすぐに分かった。
もちろん、即理解した訳ではない。
「我々は、勇者を探すために複数の同時召喚を行ったのです」
「それで巻き込まれたの!? ふざけないで!」
「分かっております。しかし、勇者様が、異世界の勇者様がいなければ、我々は魔王に勝てないのです.....」
魔王。
世界樹の幹を掌握したそいつは、五百年続いた戦乱を終わらせようとしていたらしい。
魔力というエネルギーの掌握によって、人類は支配されてしまうと。
それを防ぐために、老人たちは異世界から力を持つ勇者と、その取り巻きを召喚したらしい。
鑑定石というものを使い、俺たちの持つ職業はすぐに分かった。
天月結城というクラスの人気者が勇者で、慈雨塚葉菜というカーストの頂点についていた女が聖女だった。
俺?
俺は〈回復術師〉。
傷を癒せる能力だったが、役に立ったのは最初だけだった。
いくら戦闘に参加して、剣を振るったりして見ても、俺はレベルが上がらなかった。
職業のレベルが上がる事によって、使える能力も増えたり、職業自体が進化したりするそうだが、俺はそれがなかった。
擦り傷を数分かけて治せる程度の能力を、魔王軍と激しい戦いを繰り広げるクラスメイト達が必要とするだろうか?
「え......俺を前線から外す? どうして!」
「悪いんだが、君は弱すぎるし、この先足手まといにしかならない。その気持ちは尊重したいが、諦めてくれ」
天月結城によって、俺は直接前線組から外された。
戦士たちによって形成された新しいカーストで、俺は最下位になった。
「あいつ、前線から外されたらしいぜ」
「弱いもんな、そもそも地球でも存在知らなかったし」
「育たないヒーラーなんてダッセェ」
それでも、俺を召喚した王国は俺に価値を見出してくれていた。
切っ掛けは、王都の病院で下働きをしていた時。
人体のどこに回復魔法をかければ、効率的に回復できるかを学んだ時。
定期チェックで、レベルが上昇していることを知った。
この世界の経験値とは、本当に「経験」「値」だった。
戦闘に参加した所で、回復魔法をただ掛けたところで、経験になるだろうか。
否。
それを知った俺は、貪るように医術について学び始めた。
まだ動物のものしかなかったが、解剖学を学び、前世の知識と結び付けた。
そして、ある日。
「〈蘇生術師〉......?」
俺の職業が増えていた。
その頃には、クラスメイト達は魔王討伐に出立していた。
俺は王都の病院でトップの医者に登り詰めた。
色々と条件があるものの、死人を蘇生する力は崇められた。
俺はいい気になっていた。
......ある意味、天罰だったのかもしれないな。
「お、おい! 何だあれ!」
「世界の....終わりなのか?」
それから二年後。
―――唐突に、世界は終わった。
魔王城の方角から爆発が起き、王都の空から雲が吹き飛んだ。
そして、赤い壁が.....山脈のように、あるいは線グラフの様に、その頂点をうごめかせる赤い壁が、魔王城の方角から迫ってきた。
俺に出来る事は何もなかった。
ただ、未完成の魔導飛行船とやらを、仲間たちと数人で協力して飛ばし、赤い壁より上へ逃げて助かっただけだ。
世界は、赤い壁に塗りつぶされた後には、何も残らなかった。
山も、城も、建物も、川も、海さえも。
全て、灰色のむき出しの地面へと変わった。
そして。
「ベリンさん、大丈夫ですか! ベリンさん!」
「ダメです、この人たち....どうやっても動かせないです!」
異様な光景が、あった。
建物が消えても、椅子が消えても。
眠っている人、座っている人、立っている人、歩いている人、川で泳ぐ人。
全員がそのままの姿勢で完全に硬直していた。
回復魔法も、蘇生術も、何の意味も無かった。
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