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妖刀 四重奏(カルテット)  作者: 幻魔 狂死郎
追憶編
66/66

第六十六話 迷いの中で

あの戦いからわずか数日がたった。

一般人も含め、犠牲になった数は四十人以上を超えた。

お花を弔った日のことを今でも時々、思い出す。

最後に小さな手に触れたとき、その手は凍てつくように冷たかった。

その場に狂死郎はもちろんいなかった。

葬儀が終わり、その帰り際に狂死郎の病室を訪ねる。

病室に入り、眠っている狂死郎の隣の椅子に座り一言つぶやいた。

「狂死郎...お前は死ぬなよ!」

それからどれくらいの時間が過ぎたのだろう。

気がつけば暖かな日差し照らしていた。

その日差しは眩しく、少し瞼を開いた。

すると、ぼやけていた視界に人が映り込んだ。

「おはよう!桜華!」

その声がする方を見つめるとそこには狂死郎が体を起こしてこちらを見つめていた。

「お前、体を起こして平気か?」

「何だよ!いきなり、大きな声出して...

大丈夫だよ!少しまだ、あっちこっち痛むけどね!」

「てか、あれから何時間たった?」

しばらくすると廊下の方から声が聞こえた。

病室の入り口には一人の医者が立っていた。

「不死原さんどうですか?具合は?」

「まだ、少し痛みますがなんとか...」

医者は少し不死原の体を診てこう呟いた。

「うむ...特に異常は無さそうですね!しばらく安静にしていれば回復するでしょう。今日、退院で大丈夫そうですね!」

「先生、ありがとうございます。」

医者が去った後、桜華は狂死郎に手を貸し病室を後にした。

外をしばらく歩いていると狂死郎が桜華にこう呟いた。

「少し寄り道してもいいかい?」

慣れない足取りで坂道を歩いていく。

その坂道の上には一本の大きな桜の木が咲いていた。

「あそこに彼女の墓が?」

「あぁ...昔からあそこの桜の木の下でよくこの街の風景を見ていたからな。」

しばらく坂道を上っていき、桜の木の下に簡易的に作られた墓の前にしゃがみ込み手を合わせた。

手を合わせ黙祷していると心地のいい風が頬をかすめる。

目を開け、周りを見渡すと風が吹いていないのが分かった。

「今のは?」

不思議な気分だった。

その風はほんの一瞬、頬をかすめ消えた気がした。

「僕は何日ぐらい眠っていたんだろう?」

「確か、四日ほどだったと思う。日付感覚が合ってればな...」

桜の木の下から見た街の風景は少しどこか懐かしいものを感じられた。

墓参りを終えて、桜華は立ち上がりながらこう呟いた。

「さて、そろそろ帰るか。」

桜華の家の方へ帰っていく途中、橋の手前で狂死郎は急に立ち止まり桜華に向かって呟いた。

「桜華、今日はありがとう。急用を思い出したんだ。また明日!」

狂死郎は微笑みながら手を上げた。

「あぁ、そうか!なら気をつけて帰れよ!またな!」

桜華が立ち去っていく姿を見届けながら、狂死郎は反対方向へと歩いた。

しばらく反対方向を歩き、狭い裏路地へと入っていく途中、向こう側からきた男とすれ違う瞬間に肩がぶつかった。

「イッテェなぁ〜!おい兄ちゃん!肩の骨が折れちまったじゃねぇかよ!?どうしてくれるんだ?あぁ?」

狂死郎は立ち上がり男を蔑んだ目で見つめながらこう呟いた。

「すまなかった。これでいいだろう?」

左手から少しお金が入った腰巾着を取り出し相手へ渡す素振りをしていた。

「わかってるじゃねぇか?」

男がその腰巾着を受け取ろうとした瞬間、手から大量の血が流れていた。

「はっ?」

地面には手首が転がり落ちていた。

狂死郎の方を見るといつの間にか鞘から刀を抜いて男の喉元に突き立てていた。

「残念だったね!お金、手に入らなくて...」

男は後ず去りしながら自身の服をやぶき、手に巻きつけながらこう呟いた。

「ヒィィィ...」

恐れた表情をしながら男はそそくさとその場から逃げ出した。

刀を鞘に納め、その場から立ち去った。

帰り道の途中に偶然、団子屋を見かけちょうど少し小腹が空いたのもあり立ち寄った。

団子屋に入ろうとしたとき、何やら笠を被った男が呑気に団子を食べながらお茶を啜っていた。

その男が座っているところに行き、狂死郎はこう呟いた。

「相席いいですか?」

男は顔を上げ、狂死郎をみた途端お茶を吹き出した。

「なんで?お前がここにいる?」

「たまにはご一緒してもいいですよね?」

「質問を質問で返すな!まぁいいがな!」

他愛のない会話をしながら団子を頬張っていると男はこう呟いた。

「で?しょうもない話をするために俺に絡んできた訳じゃないだろう?」

「実は、あなたが以前言っていたことを思い出してしまって...」

「妖魔が生まれる原因は人間だって話か?」

「はい。このまま妖魔を倒していても減りはしない。そして、何より人を守る意味を感じられなくなったかもしれません。」

男はフッと笑いながら答えた。

「なら、人を守るって考えを捨てろ。人間の十人、二十人仮に守ったところで妖魔は人が存在する限り増え続ける。言い方を変えれば、俺たちは負の感情をなくせない限り永遠に負の循環に陥っている。例えば、一人から生まれた妖魔を殺したとしてまた次が生まれその数が徐々に増えていく。それを考えれば、人間なんて減らした方が妖魔の数は減ると思わねぇか?」

その問いに対して答えられないでいた。

いや、自分が信じていたものがあの日を境に崩れていった音がした。

きっと、それが心というものだと初めて気づいた。

団子屋を後にし、あてもなく彷徨った。

赤葉が言っていたことは確かにそうかもしれない。

人が消えれば妖魔は生まれないーーー

今まで目の前で幾人も無残にも殺される姿を見てきたつもりだ。

なのに...なぜ?こんなにも心が締め付けられるぐらい苦しい...

心の真ん中に穴が空いたような感覚ーーー

頼る相手なんていないのかもしれない。

彼女を失った時のあの感覚に似ている。

夕闇が照らす中、たった一人橋の上に立ち崩れ落ちた。

これが...絶望って感覚なのか?

空は澄み渡るほど星が見えている中、一人這いつくばるように泣き崩れていた。

もう、二度と彼女のあの優しい笑顔は見れない。

そう考えるだけで涙が枯れるくらい溢れた。

あれから何時間経っていたのだろう。

気づけば大勢の人に囲まれていた。

日差しが隠れて見えない。

しばらくして一人の警察官が近づいてきた。

「大丈夫ですか?」

愛想笑いを浮かべながら答えた。

「すみません。大丈夫です!」

「最近、やたらと物騒なので気をつけてくださいね!」

警察官から特に聞かれることもなく無事にその場から立ち去ることができた。

そのままの足取りで桜華の家へと向かった。

ーーー桜華の家ーーー

家の前に着き、しばらくチラチラと様子を伺っていると突然後ろから声が聞こえた。

「何してるんだ?お前!」

「わっ!ビックリさせないでくれよ!桜華!!」

「いや、何人の家の前で不審者のような行動起こしてるんだよ?」

「失礼だな!心配してただけだよ!」

桜華は家の扉を開けてこう呟いた。

「入れよ!玄関前だといろいろと聞かれるのも面倒だからよ!」

家に入ると前に比べて綺麗になっていた。

「前に比べて綺麗になったね!」

「あぁ、たまには掃除もしないとな!それに汚いままだとなんかな...」

部屋の奥には木の机の上に花が飾ってあった。

「これは?」

「あぁ、お花(あいつ)の仏壇代わりに飾っておいてやろうって思ってたんだ。」

桜華と少し話をしているとどこからか焦げ臭い匂いがしてきた。

外へ出るとすぐ近くの家から煙が上がっていた。

二人はそれをみるなり、急いで消防へ走り出した。

数時間後、なんとか大災害にならずに済んだ。

原因は自宅で火を使っている間に別のことをやっていて火を消し忘れたことだった。

周りから感謝の声が聞こえる中、狂死郎はどこか悲しそうな目をしていた。








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