EP.43 旅立ちの季節
二月上旬。
フレイミングパイの五人は、STUDIO T-STEADYを訪れていた。
2ndミニアルバムのミックスダウンとマスタリングが完了したという連絡を受けて、完成した音源を聴くためだ。
「よう来たな。待っとったで」
田中が笑顔で五人を迎えた。
「完成したんですね!」
ポンズが目を輝かせた。
「ああ、一色が頑張ってくれたわ。ええ仕上がりやで」
一色がコントロールルームから顔を出した。
「みなさん、聴いてください。自信作です」
五人はコントロールルームに入り、スピーカーの前に並んだ。
一色が再生ボタンを押す。
最初の曲、「迷子のメロディ」が流れ始めた。
シーの歌声が響く。ポンズのベースが唸る。カグラのギターが空間を彩る。レアのドラムがリズムを刻む。
そして、旭のピアノが全体を包み込む。
「すごい……」
旭が思わず呟いた。
「これが、私たちの音……」
七曲全てを聴き終えた時、五人の目には涙が滲んでいた。
「最高や……」
シーが声を震わせた。
「ミニとは言うても、うちらの2ndアルバム、完成したんやな……」
ポンズが感慨深げに言った。
「旭ちゃんのピアノが入って、音に深みが出たな」
田中が頷いた。
「前作も良かったけど、今回はさらに進化しとる。五人のバンドになっとるわ」
一色が付け加えた。
「実は、僕は最後のより、一つ前のテイクの方が出来がいいと思ってたんよ。あまりにも思いが込められた演奏は不安定になるからね。でもミックスダウンしたら、曲が化けた。社長が昔から教えてくれてることが、またわかった気がした。やっぱり、人間が演奏してるって言うことやね。魂が宿るんよ。この先、セパレート録音でも、君らは大丈夫やと思うよ」
「ありがとうございました!」
五人は深々とお辞儀をした。
「リリースは三月中旬や。それまでに、しっかり宣伝もしてな」
「はい!」
◇
二月中旬。
ROCK STEADYでの平日定期ライブの日がやってきた。
今日は特別な日だ。旭が正式にメンバーとしてステージに立つ、初めてのライブ。
開演前、楽屋で五人は円陣を組んだ。
「さあ、旭ちゃん、初ライブやな」
ポンズが旭の肩を叩いた。
「は、はい……緊張します」
「大丈夫やって。レコーディングできたんやから、ライブもできる」
シーが微笑んだ。
「うん。私たちと一緒に、楽しもう」
カグラが優しく言った。
「旭ちゃん、うちらの音を信じて。絶対大丈夫やけん」
レアが力強く言った。
「……はい!」
旭は頷いた。
「よっしゃ、いくで! フレイミングパイ!」
「おー!」
五人の声が重なった。
◇
ステージに上がると、フロアには常連のファンたちが集まっていた。
いつもより少し多い気がする。新メンバー加入の噂を聞きつけて来た人もいるのかもしれない。
「こんばんは! フレイミングパイです!」
シーがマイクに向かって言った。
歓声が上がる。
「今日は、みなさんに紹介したい人がいます」
シーが旭の方を向いた。
「キーボード、東雲旭!」
旭が一歩前に出て、深々とお辞儀をした。
「は、初めまして! 東雲旭です! よろしくお願いします!」
声が少し上ずっている。
でも、フロアからは温かい拍手が送られた。
「うちらフレイミングパイは、音楽の幅を広げたくって、去年の夏頃からピアノパートが欲しかったんです。そして、今年から正式にメンバーになってくれたんが、この旭ちゃんなんでーす!」
ポンズが説明した。
「旭ちゃんのピアノが加わって、うちらの音がものすご〜〜くパワーアップしとるけん、楽しみにしといてな!」
歓声が大きくなった。
「ほな、いくで! 一曲目、『サンデーサイクリング』!」
レアがカウントを取り、演奏が始まった。
旭のピアノが加わった新しいフレイミングパイのサウンド。
これまでのライブより、明らかに音に厚みがある。ピアノが曲に彩りを加え、バンド全体の表現力が増している。
フロアの反応も上々だった。
「すごい、ピアノ入るとこんなに変わるんや」
「新曲もめっちゃええやん」
そんな声が聞こえてくる。
旭は、最初は緊張で指が震えていたが、演奏が進むにつれて、だんだんと笑顔になっていった。
ライブの終盤、シーがマイクを取った。
「今日はもう一つ、お知らせがあります」
フロアが静かになった。
「三月中旬に、うちらの2ndミニアルバムがリリースされます!」
歓声が上がった。
「タイトルは……まだ秘密! でも、七曲入りで、旭ちゃんのピアノもたっぷり入っとるけん、楽しみにしといてな!」
「そして、サヌキロックフェスの出演は、三月二十一日の土曜に決定しました!」
ポンズが続けた。
さらに大きな歓声。
「香川まで来てくれる人、おるかな?」
フロアから「行く!」「絶対行く!」という声が飛んだ。
「ありがとう! ほな、ラスト! 『フレイミングパイ』!」
全員のソロパートがあるライブ定番の代表曲。今回新しく旭のパートも加わった。
五人の演奏が、ROCK STEADYを揺らした。
◇
翌週、フレイミングパイはFMマツヤマ放送局のスタジオにいた。
毎週金曜日のラジオ番組「フレイミングパイのシーポンカグレア」の収録だ。
今日は旭も初出演。
「さあ、今週もやってまいりました、フレイミングパイのシーポンカグレア!」
FMマツヤマ近藤エリカが元気よく言った。
「今日はフレイミングパイ新メンバーが初主演でーす!」
「キーボードの東雲旭です! よろしくお願いします!」
旭がマイクに向かって言った。
「旭ちゃん、ラジオ初出演やけど、どう?」
ポンズが聞いた。
「緊張します……でも、嬉しいです!」
「リスナーのみなさん、兼ねてより欲しかったピアノパート、旭ちゃんをよろしくお願いします」
シーが紹介した。
「さて、今日は大事なお知らせがあります!」
ポンズがテンションを上げた。
「これを機に、番組名を変えなあかんことに気付いたんよ」
「ああ、うちらメンバーの名前が入った番組名やもんね、シーポンカグレアって」
レアが、すかさず反応した。
「そう、旭ちゃんが加入したんやから、やっぱり入れなあかんやろ、と言うことで……」
「え?シーポンカグレアサヒ、ってこと?」
シーが横槍を入れた。
「シー、甘いで、そんな単純な考えじゃダメダメやで」
「え?じゃあ何?」
「では、発表します……このへんSEお願いします……」
「新番組名は、シーポンカグレアSunrise!!」
「……?ああ、あさひを英語にしたのね」
カグラが呟いた。
「そう、うちらフレイミングパイに、旭ちゃんの加入で、まさに陽が昇ったんですよ! これはリーダーの権限で、もうすでに番組側には報告しました!」
「え?ポンズさん、リーダーだったんですか?」
旭が、意外そうな顔で尋ねた。
「シーさんかと思ってました」
一同大爆笑。
「おい、ポンズ2!……」
「はいはい、まだお知らせあるやろ」
シーが次へと促した。
「あ、そうそう三月十五日に、フレイミングパイの2ndミニアルバムがリリースされます!」
「七曲入りで、旭ちゃんのピアノもたっぷり入っています!」
カグラが続けた。
「今日は、その中から一曲、『サンデーサイクリング』をお届けします!」
スタジオに、新曲が流れた。
旭は、自分のピアノがラジオで流れているのを聴いて、不思議な気持ちになった。
私の音が、今、愛媛中に届いている。
胸が熱くなった。
「そして、三月二十一日にはサヌキロックフェスに出演します!」
シーが告知した。
「香川のみなさん、ぜひ来てください!」
「愛媛のみなさんも、香川まで遠征してくれたら嬉しいです!」
ポンズが付け加えた。
番組は、恒例の「教えてポンズ先生」では、昨年末の松山ファイナルの感想お便りを中心に楽しく進行していった。
そして、
「というわけで、今週のフレイミングパイのシーポンカグレアでした! また来週お楽しみに! ほんじゃまたね」
五人の声が重なった。
「See You!」
「来週から、シーポンカグレアSunrise!」
◇
ラジオ収録から戻ると、ROCK STEADYの前に、見慣れた女の子が立っていた。
ポンズが声を上げた。
「あ、美咲ちゃんや!」
大城美咲。シーの路上ライブ時代からのファンで、高校三年生。
去年の今頃は、マツヤンドリームセッションで一緒に活動し、ツアー中は香川で置き去りになったポンズを家族と車で送ってくれたことがあった。
「あ、ポンズちゃん、久しぶり! こないだ新体制のライブ見たよ」
「ありがとう! どうやった?」
「すごく良かった! ピアノが入って、音がすごく豊かになったね」
「やろ? 旭ちゃん、すごいんよ」
ポンズが旭を紹介した。
「初めまして、東雲旭です」
「初めまして、大城美咲です。シーちゃんの路上時代からのファンなの」
美咲がシーを見て、目を輝かせた。
「シーちゃん、新曲すごく良かった。バンドもどんどん大きくなっていくね」
「あ、ありがとう、美咲ちゃん」
シーが照れくさそうに笑った。
「そういえば美咲ちゃんって、高3やろ?もうすぐ卒業やない?」
ポンズが何気なく聞いた。
「あ、そうそう、それを言いに来たの」
美咲が少し寂しそうな顔をした。
「実は、県外の大学に決まったの……」
「え……県外?」
ポンズの顔から笑顔が消えた。
「うん。東京の大学に合格したの」
「東京……」
「だから、しばらくライブ来れなくなっちゃうかも」
美咲は寂しそうに言ったが、すぐに笑顔を作った。
「でも、ネットで追いかけるから! サヌキロックフェスも、なんとか行けないか調整してみる!」
「美咲ちゃん……」
ポンズは、言葉が出なかった。
美咲はきっと、シーのソロデビューを夢見て応援を続けていただろう。でも、バンド結成後も何度もライブに来てくれて、いつも温かい声援を送ってくれていた。フレイミングパイとイベントを通じて親しくなっても、ファンとしての距離感をわきまえながらも、シーのことを、フレイミングパイのことを、ずっと応援してくれていた。
その美咲が、東京に行ってしまう。
「寂しなるな……毎回美咲ちゃんらの仲間が最前におったのに」
「うん……」
ポンズとシーは、寂しそうな目で美咲を見つめた。
「また会えるよ。フレイミングパイが東京でライブする時、絶対見に行くから」
「……うん」
ポンズとシーは頷いた。
そして、決意した表情で言った。
「美咲ちゃん、卒業する前に、絶対うちらのライブ見てな。特別なやつ、やるけん」
「え?」
「約束や」
ポンズの目には、涙と決意が混じっていた。
◇
翌日、STMの事務所で、メンバーたちが集まっていた。
STMはROCK STEADYの中に事務所を間借りしている。ライブハウスの一角が、フレイミングパイの拠点だ。
ポンズが提案したのは、美咲たちの卒業を祝うシークレットライブ。
「シーの路上時代から応援してくれとった美咲ちゃんや、その友達を招待して、お祝いライブをしたいんよ」
ポンズが熱く語った。
「ええやん。美咲ちゃんには、うちもお世話になっとるし」
シーが頷いた。
「路上で歌っとった頃から、ずっと応援してくれとったもんな」
「私も賛成」
カグラが言った。
「美咲さん、路上ライブの動画を全て譲ってくれたしね」
「うちも賛成! 美咲ちゃん、ええ子やもん」
レアも手を挙げた。
「私は……まだ美咲さんのこと、よく知らないですけど、みなさんの大切な人なら、私も協力したいです」
旭も頷いた。
「よっしゃ、決まりや! 卒業式の後にやろう! 卒業式って三月一日やろ?」
ポンズが拳を握った。
「三月三日はどうかな。卒業式の余韻もあるし」
シーが提案した。
「シーの誕生日やん?」
「ええの、向こうのお祝いなんやから」
「よし! 場所はROCK STEADYでええよな。岩田さんに相談しよう」
そんな話で盛り上がっていると、愛未とヤマケンが事務所に入ってきた。
「みんな、山田くんから話があるの」
愛未は、ヤマケンに話すよう促した。
「はい、大学卒業を控え、就職も決まりましたんで、報告します」
「あ、ここSTMにそのまま就職するんやないん?」
レアが期待を込めて尋ねると、ヤマケンが少し言いにくそうに口を開いた。
「いや、STMではなくて……」
場の空気が少し変わった。
「実は、うちのSTMはまだ、社員を増やせる余裕はまだなくて……ね」
愛未が申し訳なさそうに言った。
「ええ、そう言うわけで……」
「……っ」
レアが立ち上がった。
顔色が変わっている。明かに挙動がおかしい。
「あ、う、うち用事思い出した……」
「レアちゃん?」
ヤマケンが声をかける前に、レアは事務所を飛び出していた。
ポンズとシーは顔を見合わせた。二人は瞬時にレアの気持ちがわかったが、ヤマケンはきょとんとしている。
「え?、俺まだ何も……」
ヤマケンが困惑した顔をした。
「ヤマケンさん!追いかけて!」
ポンズとシーが同時に叫んだ。
「え?」
「「はよ行けえ!」」
二人に背中を押されて、ヤマケンは慌てて事務所を出てレアを追いかけた。
◇
事務所の外に出ると、レアが少し離れたところに立っていた。
背中を向けて、肩を震わせている。
「レアちゃん!」
ヤマケンが声をかけた。
「あ……健ちゃん、何?」
レアが振り返った。目が赤いが、無理に笑顔を作っている
「もう、STMから巣立っていくんやな……?」
レアの声が震えていた。
「残念やわあ、いいマネージャーさんやったのに……」
「いや、あの、違うって、最後まで聞いてや」
ヤマケンが近づいた。
「確かに、愛未さんのSTMには就職できんかった。でも——」
「でも?」
「ROCK STEADYに就職できることになったんや。岩田さんが雇ってくれて」
「え……」
レアの目が見開かれた。
「ROCK STEADY……?」
「うん。だから、ライブハウスにおる。これからも、そばにおる」
「……ほんま?」
「ほんま」
ヤマケンが笑った。
「早とちりしすぎやろ」
「な……なんや、うち、はずかしいわ、ほんまに……」
レアの目から、涙がこぼれた。
「よかった……健ちゃんが、おってくれて……」
レアは、こらえきれずに泣き出した。
ヤマケンは、そんなレアを見て、少し迷ってから、口を開いた。
「レアちゃん」
「……なに?」
「俺、ずっと言いたかったことがあるんや」
「……え?」
レアが涙を拭いて、ヤマケンを見た。
「東京のオアシスのライブから、ずっと……いや、もっと前からかもしれん」
ヤマケンが真っ直ぐにレアを見つめた。
「レアちゃんのこと、好きなんや」
レアの心臓が、大きく跳ねた。
「健ちゃん……」
「松山に残れることになって、やっと言えると思った。ROCK STEADYにおれるなら、レアちゃんの近くにおれるから」
「……うち、も」
レアの声が震えた。
「うちも、健ちゃんのこと……ずっと……」
言葉が続かなかった。
代わりに、レアはヤマケンに向かって駆け出した。
ヤマケンがレアを受け止め、強く抱きしめた。
「これからも、よろしくな。レアちゃん」
「……うん」
レアは、ヤマケンの胸に顔を埋めて、頷いた。
涙が止まらなかった。
でも、それは悲しい涙じゃない。
嬉しくて、幸せで、安心して。
全部が混じった涙だった。
◇
三月三日の夕方。
ROCK STEADYで、シークレットライブが開催された。
招待されたのは、美咲とその友人たち。シーの路上ライブ時代から応援してくれていたファンたちだ。
いつのも会場に、二十人ほどが集まった。ステージ下で同じ目線で、アンプもマイクも何も使わず、全て生の音だ。
「今日は来てくれてありがとう」
シーがマイクを握った。
「今日は、卒業するみんなのために、特別なライブをします」
美咲たちが歓声を上げた。
「シーちゃーん!」
「待ってたよー!」
シーが照れくさそうに笑った。
「今日は、昔の曲もやります。路上で歌っとった頃の曲」
「やったー!」
美咲たちの目が輝いた。
「ほな、いくで」
フレイミングパイの演奏が始まった。
最初は、路上時代にシーが一人で歌っていた曲。
この日、五人はアコースティック楽器だけの編成で演奏した。でも、あの頃のシーの想いは、ちゃんと曲の中に生きている。
美咲たちは、目に涙を浮かべながら聴いていた。
「シーちゃん、大きくなったね……」
美咲が呟いた。
「あの頃、小さな体でたった一人で歌ってた。今は、こんなに素敵な仲間がいて……」
ライブは、新曲も交えて進んでいった。
2ndミニアルバムの曲、旭のピアノが加わった新しいフレイミングパイの音。
美咲たちは、その進化に驚きながらも、心から楽しんでいた。
ラストは、「See You」。
出会いと別れの歌。今日のために、ぴったりの曲だ。今日はポンズのかわりにシーがメインボーカルをとった。
演奏が終わると、美咲たちは涙を流しながら拍手を送った。
「ありがとう、シーちゃん。ありがとう、フレイミングパイ」
美咲がステージに向かって言った。
「私たち、愛媛から離れても、ずっと応援してる。絶対、武道館に立ってね」
「……うん。約束する」
シーが頷いた。
「次は、もっと大きな舞台で会おう」
◇
ライブが終わり、みんなで記念撮影をしていると、美咲たちがシーに近づいてきた。
「シーちゃん、これ」
美咲が小さな箱を差し出した。
「え?」
「今日、三月三日でしょ? シーちゃんの誕生日」
シーの目が見開かれた。
「知ってたん……」
「当たり前じゃん。路上で歌ってた頃から、ずっと応援してたんだよ? 誕生日くらい知ってるよ」
美咲の友人たちも、口々に言った。
「シーちゃん、誕生日おめでとう!」
「十七歳だね!」
「これからも応援してるよ!」
シーは、箱を受け取った。
中を開けると、シルバーのブレスレットが入っていた。
「みんなで選んだの。シーちゃんに似合うと思って」
「美咲ちゃん……みんな……」
シーの目から、涙がこぼれた。
「ありがとう……ほんまに、ありがとう……」
ポンズがシーの肩を抱いた。
「シー、良かったな」
「うん……」
シーは、ブレスレットを握りしめた。
路上で一人で歌っていた頃から、ずっと見守ってくれていた人たち。
その人たちが、今日、卒業していく。
でも、音楽でつながっている。離れても、ずっと。
「美咲ちゃん、東京に行っても、元気でね」
シーが涙を拭いて言った。
「うちらも頑張るけん。絶対、東京でライブするけん。その時は、見に来てな」
「うん、絶対行く。約束だよ、シーちゃん」
二人は、強く手を握り合った。
◇
三月十五日。
2ndミニアルバム「Crossroad」がリリースされた。
「交叉路」という意味を持つタイトルは、シーの「雨と交叉路」から取られた。
人と人が出会い、別れ、また出会う。そんな交差点のようなアルバム。
旭が加わり、五人になったフレイミングパイの、新しい一歩。
三月に入ってから、五人は練習スタジオに入り浸っていた。
三月二十一日に出演するサヌキロックフェスに向けて、気持ち新たに練習に明け暮れる日々。
「サヌキロックフェス、いよいよやな」
ポンズが言った。
「うち、フェスって実は行ったことないんよ。どんな感じなんやろ」
「あそこは独特なんよ、野外のフェスやなくって、商店街のいくつかのライブハウスを回るんよ」
レアが答えた。
「一昨年、見に行った時は、無料会場の地下広場のステージは、客席の距離が近くて、すごい一体感やった」
「緊張するけど、楽しみ」
カグラが微笑んだ。
「うちらにとっても、大きな挑戦やな」
シーが気を引き締めた。
「旭ちゃんにとっては、なんでも初めてやな」
ポンズが旭を見た。
「はい……定期ライブもラジオも、全部初めてでしたけど、フェスも初めてです」
旭が少し緊張した面持ちで答えた。
「でも、みなさんと一緒なら、大丈夫です」
「そうや、旭ちゃんも一緒に楽しもうな」
シーが優しく言った。
「よっしゃ、いくで! サヌキロックフェス、絶対成功させような!」
ポンズが拳を突き上げた。
「おー!」
五人の声が重なった。
卒業していく人がいる。
新しく加わる人がいる。
出会いと別れを繰り返しながら、フレイミングパイは前に進む。
春の足音が、すぐそこまで聞こえていた。




