第三話ーー晴れーー16
「で、なんで希ちゃんいるの?」
裕介が聞いた。
「別に良いじゃん。いちいちうるさいな」
遥子はまだ機嫌が悪い。表の札を直して来た灯が言った。
「そうそう、楽しく女の子の話をしてるんだもんねぇ。オジさんには関係ないもんね〜」
「なんだか、当たりが強いなぁ。おじさんいじけちゃうよ」
裕介がそう言うと、希が申し訳なさそうに言った。
「いや、あの、ちょっと相談に乗ってもらったというか……」
すると、遥子が希の話を遮った。
「希ちゃん!」
「えっ?えっ?」
訳がわからず戸惑っている希に遥子は、口に指を当てて見せた。
「女の話に口を挟むんじゃないよ」
遥子は、裕介にそう言うと、同調するように灯りも言った。
「ナイショだもんね〜」
裕介は残念そうに言った。
「おじさんとしては気になるけど、怖いから聞かないよ〜だ」
どうせ、来週の康二とのツーリングの事だろうけどな……
裕介はそう思った。
「そうそう、余計な詮索をする男はモテないよぉ」
灯がそう言うと、裕介は笑いながら言った。
「それは困るなぁ」
「良い歳したおっさんが何言ってんだかな。ほら出来たよ」
遥子はそう言うと、大盛りナポリタンとアイスコーヒーを裕介の前に置いた。
「ナポリタンですか?」
と希が聞くと、裕介はナポリタンをがっつきながら答えた。
「うん、これ、おばちゃんの味がして好きなんだ」
「おばちゃん?」
と希が聞くと、遥子が笑いながら答えた。
「うちのお母さんの事。このナポリタンは、私のお母さんがここで喫茶店をやってた時に出してた物なの。裕介は、子供の頃からこれを食べてたからね。お店に出してない裏メニューなんだ。そうだ!希ちゃんも食べる?もうお昼だし、お腹空いたでしょ?」
「良いんですか?」
希は嬉しそうに言った。
「もちろん!灯ちゃんもナポリタンで良い?一緒に食べちゃお」
「はぁい。ありがとぉございますぅ」
遥子は、準備を始めた。
こうやって、受け継いで行くのってなんか良いな……
希は遥子を見ながら思った。
裕介は一気に食べ終え、アイスコーヒーを飲んで一息付くと、遥子を見ていた希に気が付いて言った。
「なんか、良いでしょ?こう言うのってさ。もうおばちゃんは亡くなっちゃったけど、このナポリタンの中にいるんだよね。ちゃんと遥子が受け継いでいるんだ」
「はい」
希は頷いた。
「実際、遥子は大変だったと思うよ。おばちゃんが病気で倒れてから、お店一人で切り盛りして、いっぱい、いろんな事勉強して、店を改装して開いて流行らせてるんだもん。実際、おばちゃんの頃とは店の雰囲気も何もかも違うけどさ。これ食べると、あの頃を思い出すんだ……」
裕介は少し寂しそうに言った。
「何、余計な事を話してんのよ」
遥子は、そう言うと希の前にナポリタンを置いた。
「さ、食べよ。灯ちゃんも食べよ」
「はぁい」
希は、ナポリタンを一口食べると、思わず声が出た。
「美味しい」
「だろ?」
裕介がドヤ顔で言うと、遥子がすかさずツッコミを入れた。
「なんで、お前が言うんだよ。けど、希ちゃんが美味しいって言ってくれて嬉しいな。お母さんも喜んでるよ」
「これ、裏メニューなんですよね?お店に出したら、人気出そうなのに」
希は残念そうに言った。
「このお店は私の勝負だからね、お母さんの手を借りないで頑張るって決めたんだ。だからお母さんの味のナポリタンは今は出さないの。もし、私がお母さんと同じようになれたって思えたら出すかもしれないかな。けど、まだまだだね」
遥子が力強い目をして言うと、裕介が希に言った。
「かっこいいでしょ?遥子って」
「はい!」
希は、ますます遥子への憧れが強くなった。
「褒めてもツケは無くならないからな。てか、オマエ良いのかよ。こんなにサボって。また、おじさんに怒鳴られんぞ」
と、遥子は照れ隠しのように言った。
「おっと、ヤバいヤバい。希ちゃん、あとでうちにも顔出してよ。オヤジが喜ぶからさ」
裕介は席を立ちながら言った。
「えっ?」
希は驚くと裕介は笑いながら言った。
「オヤジ、結構、希ちゃんの事気に入ってるんだよ?またね」
そう言うと、急いで店を出て行った。
「あのおじさんがねぇ。良かったね、希ちゃん」
遥子は笑顔で言った。
「私、何もしてないのに……それなのに気に入ってくれてるなんて……」
希は困惑しながら言った。
「良いじゃん。それだけ、希ちゃんに魅力があるって事。素直に受け取っておきなよ」
「はい!」
どちらかと言うと、自己肯定感が少ない希なのだが、オヤジさんに気に入られてると言うのは素直に嬉しかった。それも、初対面が初対面なだけに尚更だった。
ここのメンバーは、皆、自分と言う物を持っている。人を敬い、人の意思を尊重する。ちゃんと、希を希として見てくれている。出会って、まだ日が浅いが、誰よりも希を理解してくれようとしてるここのメンバーと話すのが、希は楽しかった。そして、何より、初日に怒鳴られたオヤジさんに認めて貰えたのが嬉しかったのだ。
希は、このメンバーと出会えた事で、本人は気がついていないが、少しづつ、ほんの少しづつではあるが変わって来ていた。
以前の希だったら、嫌な事があったら、逃げていただろう。自分から関わろうとはしなかっただろう。だが、今は……決して逃げる事はない。困難から目を背ける事はない。それは、信頼出来る仲間が出来たから……希もこのメンバーを信頼しているのだ。
「さてと」
食べ終わった遥子が言った。
「これからどうする?ペンキ屋が来るまで、まだ時間あるけど、もちろんここで待ってても居ても良いけど」
希は少し考えて言った。
「そうですね。おじさんの所に顔を出して来ます。だけど、その前に……」
「その前に何?」
遥子が不思議そうに聞いた。すると、希はニコリと笑って言った。
「洗い物だけでもさせて下さい。今日はいっぱい相談に乗ってもらったし、せめてものお礼です」
「そんな、お礼だなんて良いよ」
遥子は笑いながら言った。しかし希ははっきりと言った。
「私、いつまでもお客さんは嫌なんです!」
こりゃ、おじさんも気にいるわけだわ……
そう思った遥子は、笑顔で言った。
「じゃあ、お願いしようかな。裏にエプロンあるから」
「はい!」
希は元気良く返事をすると、食べ終わった食器を片付け始めた。遥子はその姿を笑顔で見守っていた。
次回の更新は9日となります。




