第二話ーー曇りのち晴れーー21
「灯ちゃんもバイクに乗ってるんですか?」
希は遥子に聞いた。
「うん、それも、女子高生レーサー!灯ちゃんのお父さんが、おじさんと知り合いでね。その縁でうちでバイトしてるの」
「レーサー!!」
希は驚いて言った。
「レーサーって言っても、まだまだプロにもなってねぇけどな」
オヤジさんが言った。
「だから、頑張ってんじゃん!学校行きながらだから大変なんだよぉ」
灯はオヤジさんに悪態をついた。
「どこまで行けるか、わかんねぇけどな」
オヤジさんは、灯の悪態を聞き流して言った。
「ムカつくぅ!」
「灯ちゃんはね、普段は、バリバリのレーサーレプリカ、NSR250なんて言うじゃじゃ馬バイクに乗ってるんだよ」
康二が言った。
HONDA NSR250R
言わずと知れた、レーサーレプリカの最高峰。WGP2年連続チャンピオンマシンの正統レプリカモデルで1986年初代発売。その後、4回のモデルチェンジを含めて、10年間発売された。水冷2ストローク250cc。灯はその中でもスピードリミッター無しの最後のモデル、1988年型MC18に乗っている。WGP2年連続チャンピオンマシンの正統レプリカモデル。
康二が灯のバイクの説明をしても、希は、あまりピンときていない様子だった。
「古いバイクだし、マニアじゃなきゃわかんないよ。あとで、ゆっくり康二に教えてもらいな」
裕介は、また含みのある言い方をして、ニヤリと笑った。
「はい!」
希は、裕介の含みのある言い方なぞ気にせずに、元気良く答えた。
「おお!素直だね」
逆に、希の素直さに驚いた裕介だった。
「って、なんで俺?」
康二は裕介に聞いた。
「なんでって、この中じゃ、お前が一番適任だろ?何?嫌なの?」
裕介は、揶揄うように言った。
「い、いや、そんな……全然嫌じゃ無いけどさ……」
「じゃぁ良いじゃん。そもそも、ここに連れて来たのはお前だし」
「え〜、康二さん、私には、何も教えてくれないのに〜」
灯が羨ましそうに言った。
「灯ちゃんは、教えなくても大丈夫じゃん」
裕介は笑いながら言った。
「そうなんだけどさぁ……」
何となく納得がいかない灯だった。
「なんか、康二がモテてるような気がするんだけど……」
やぶが呟いた。
「ああ、俺も、今日の作戦やったの、ちょっと後悔してる……」
裕介は、少し落ち込んでいた。
「バカな奴ら……」
遥子は、二人を見て呆れたように呟いた。
希は、楽しそうに話しているみんなを見て思った。
なんか、本当にここにいると楽しい……みんながみんなの事を大好きだって言うのが、本当によく分かる。私もこの中に入れるかな……
「あの……裕介さん」
希は、裕介に話しかけた。
「うん?どした?」
希は真剣な表情で、裕介に向かい合い言った。
「昨日のお話なんですけど……」
裕介は、希の真剣な表情から、さっきまでの悪ふざけモードから、真面目な表情になり、希の話を真剣に受け止める準備をした。それは、裕介なりの礼儀だった。
周りにいた者たちも、裕介と同じように、真剣に希の話を聞こうとした。どんな結果であれ、希はもう仲間だと誰もが思っていたのだ。ただ、事情を知らないやぶだけは、急に張り詰めた雰囲気に戸惑っていた。
「うん、心は決まったのかな?」
裕介は優しく希に語りかけた。
「はい」
希は、静かに頷いて答えた。遥子も康二も、それに二人に釣られて、灯も固唾を飲んで二人を見ている。オヤジさんと言えば、事情がわからないやぶと呑気に缶コーヒーを飲んでいた。
「私……これからもバイクに乗りたいです!」
希は、しっかりとした表情で裕介に伝えた。
「うん、ちゃんと考えて、自分で出した答えだよね?」
「はい!」
「なら、俺が言う事は何も無いよ。これからもよろしくね」
裕介は、そう言うと希に笑った。希の顔もどこか晴れやかな笑顔だった。
「良かったね、康二クン」
遥子は康二に含みのある笑顔で言った。
「いや……何で?」
康二は何の事かわからなかった。希がバイクに乗り続ける事を選んだ事が嬉しかったのは、確かなのだが……
とりあえず、それ以上の感情は無いはずだった……
遥子さん、何を勘違いしてるんだろう?
康二はそう思って、戸惑っていると、
「わかってるって」
そう言いながら、遥子は、康二の肩をポンと叩いた。
「それで、私、何にもバイクの事がわからないんで、皆さんに教えてもらいたいんです。仲間に入れてもらいたいんです」
そう希は言うと、ペコんと頭を下げた。
「仲間も何も……もう仲間だと思ってたけど?缶コーヒー差し入れして貰ったし」
と、裕介が言うと、
「うん、そうだよね?」
と遥子が裕介に同調して、
「うん、うん」
と康二が頷いた。この3人のやり取りを見ていたやぶが言った。
「コイツら、こう言うところも、息が合ってて変に仲良いんだよな……てか、缶コーヒーの差し入れだけで?」
「うん」
「それ大事だよね」
「うん、うちに持ち込みは困るけどな」
3人は、また変な所で意見が一致した。やぶは、呆れた。
「俺なんて、何回来てもオヤジさんに追い出されたんだよ?それが缶コーヒーの差し入れだけ?」
「オマエみたいな、むさ苦しいのは、いらねぇんだよ。それに比べて女の子がいると、明るくなるじゃねぇか」
オヤジさんはニヤリと笑って言った。
「なんか、悔しいなぁ。今度女装してきてやろうかな」
ヤブが、訳のわからない事を言っている。ヤブもオヤジさんのポリシー、性格をよく知っているからこそ、希がオヤジさんに認められたのだと言う事をよくわかっていた。だからこそのこういう冗談だった。
「ふざけんな!お前が女装で来たら出禁だからな!!」
オヤジさんも笑って答えた。
「なんか、めっちゃ嬉しい。歳が近い女の子のバイク仲間が出来たぁ!ここオヤジばっかだし」
灯は、はしゃいでいた。
「色々教えてね!」
希は笑顔で灯に言った。
「灯に教えて貰ったら、かっ飛びお姉ちゃんが増えちまう」
やぶが呟いた。
「そう言う所だぞぉ!」
灯はやぶに文句を言った。やぶと灯はどうやら天敵らしい。
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