第二話ーー曇りのち晴れーー20
新年明けましておめでとうございます。今年もお付き合いよろしくお願いします。
「さて、そろそろ行こうか?」
康二は、希の横顔に見惚れていた事を悟られない様に、努めて、冷静を装って言った。
「はい……」
希は名残惜しそうに言った。
「身近な所でも、こんなに素敵な景色が見れるんですね」
「そうだね。また季節によっても変わるよ。桜の季節には、桜並木が綺麗だし、冬の空気が澄んでいる時は、富士山が見える事もあるよ」
希は、残念そうに言った。
「なんで、今まで気が付かなかったんだろう」
康二は、残念がる希のリアクションが面白くて、笑いながら答えた。
「まだ、若いんだし、これから、いろんな物を沢山見る事ができるよ」
「ですよね。これからも色々教えて下さいね」
希は、屈託なく笑って言った。
「う、うん……僕で良ければ……」
康二は、戸惑って答えた。女性の免疫が無い康二は、若さゆえの希の屈託の無さに戸惑うばかりだった。
若い子は、みんなこうなのかな……灯ちゃんも、距離感、以上に近いもんな……
二人は、バイクを駐車している場所に着くと、康二が希に聞いた。
「さて、今日はどうする?このまま送っても良いけど?」
「いえ、お店の方にお願いします。皆さんにご挨拶もしたいですし」
希は笑顔で答えた。
「そっか……じゃぁ、裕介さんを怒ってやんないとだね。僕ら騙されたし」
「私は楽しかったですけど?てるぼうとも会えたし」
希はそう言うと、康二に聞いた。
「康二さんは、楽しくなかったですか?」
「えっ?いや……僕も楽しかったけど……」
「なら、良いじゃ無いですか。逆に裕介さんにお礼を言わなきゃですよ」
「そうかな?」
「そうですよ」
そう言うと、希はまた笑った。
きっと、深い意味なんか無いよな……
康二はそう思った。しかし、希は心から楽しかったと思えたのだ。何もかもが新鮮で、ほんの短い時間ではあったが、何か、自分なりのバイクとの付き合い方が見えた気がしたのだ。そして……康二の優しさに気付く事が出来た……何よりもそれが嬉しかったのかもしれない。
康二は、バイクに跨り、エンジンをかけた。
希は、タンデムシートに座り、康二の腰に手を回した。
なんか、意識しちゃうな……
康二は、そう思いながら、バイクをスタートさせた。
「ただいま〜」
康二と希は、後藤モータースに帰ってきた。
「おかえり〜」
裕介は、そう言うと、二人の事なぞお構い無しに、一台のバイクを眺めていた。その輪の中には、やぶもいた。
康二は、裕介が見ていたバイクに気が付き、
「なにこれ?SDRじゃん!!」
と言いながら、希を置いて、バイクを眺める輪に入って行った。
「どうしたのコレ?程度も良さそうだし、買ったの?」
康二は、興味津々に裕介に聞いた。
「誰が、買うかよ。たまたま、オークションで見つけてな。それが今日届いたんだよ。店で売ろうと持ってさ」
裕介が得意げに言った。
「そんな事言ってなかったじゃん」
康二は、不満げに言った。康二にとって、このYAMAHA SDRは一度は乗ってみたかったバイクだった。
「そうだっけ?」
裕介はとぼけた。
YAMAHA SDR200
1987年発売、195cc2スト単気筒の、当時レーサーレプリカ全盛の中、カウルレスの異質なバイクである。とにかく、車体が小さく、薄い。またフレームの形状も独特な物で、見た目からして軽く、車体の軽さと、2ストロークエンジンの特性から、ひらひらとコーナーを攻められそうという印象だ。ただ、車体が小さい為に、ファーストバイクとしては、躊躇してしまう。お金に余裕があれば、セカンドバイクとして欲しいというライダーは数多く居ただろう(筆者もその一人です)
「おかえり、裕介のせいで無駄足使わせてごめんね」
遥子が希に声をかけた。
「いえいえ、そんな事無いですよ。楽しかったですよ」
希は、笑顔で答えた。
「ほら、楽しかったって言ってるじゃん」
裕介が言い訳のように言った。
「調子に乗るんじゃ無いよ。全く、どうしようもない奴らだから、ごめんね……」
遥子は、希に頭を下げた。
「奴らって?あっ!?」
希は、やぶを見つけて、声を上げた。やぶは、小さく手を挙げた。
「バイク用品屋さんにいた、康二さんの知り合いの人!」
「やぶったらさ、康二を見かけて、すぐにLINE送ってきてね。裕介が偵察頼んでたみたいなんだよね」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、遥子ちゃん。面白そうだから、裕介さんに報告しなきゃって思ってさ」
やぶは、悪びれずに言った。
「そう言う所だぞぉ、ヤブ!」
後ろから、女の子の声がした。遥子の店のアルバイト、灯だ。
「あれ?灯ちゃんもいたんだ?」
康二は、今更のように言った。と言うより、本当にSDRしか目に入っていなかったのだ。
「康二さん、年頃の女の子にそれは無いわ〜傷ついちゃうじゃん」
「康二は、そう言う奴だよ」
やぶは自分の事を棚に上げて言った。
「だから、そう言うとこだってばぁ!」
灯は、やぶに文句を言った。大きい体のやぶは小さくなっていた。
次回の更新は5日となります。




