第三話ーー晴れーー66
康二は責任と言われて、少し焦っていた。
「そうですよ。責任とって下さいね」
「ちょ、ちょっと待って。責任ってどうすれば……」
康二が焦って言うと、希がイタズラっぽく笑って言った。
「簡単ですよ。私と一緒に楽しんで下さい。私にも康二さんがしたい事、行きたい所、何でも言って下さい。一緒に話して決めましょうよ。次はどこ行こうか?とか楽しいじゃないですか。私は康二さんとそうなりたいです」
「ほんとに、僕で良いの?希ちゃんには同年代の友達もいるでしょ?こんなおじさんと一緒で面白いの?」
康二が言った。正直、一回り近く年下の女の子に、こんなに慕われるとは思いもよらなかったのだ。
すると希は、半分呆れたように言った。
「まだ、そんな事言ってるんですか?私は康二さんが良いんです!!康二さんにいろいろ教わりたいし、一緒に同じ景色を見たいんです。今日も、康二さんと一緒じゃなきゃこんなに楽しくないですよ」
これではまるで告白である。
しかし、これは希の康二に対する真っ直ぐな気持ちの表れであった。
多少、相手に誤解を与えかねない言い方のところが天然なのだが……
康二は少し戸惑いつつも、答えた。
「うん、わかった。ありがとう。希ちゃんにそう言って貰えて凄く嬉しいよ。希ちゃんのバイクの師匠として、教えられる事は何でも教えるし、いろんな所行こう」
康二は、少し引いた言い方をした。
我ながらズルい言い回しだな……
これは、お互いが傷付かない為の予防線でもあったのだ。
希は、そんな康二の言い方に不満気ではあったが……
「師匠ですか……ま、良いです。じゃあ、師匠と弟子の初ツーリングの記念写真撮りましょう!」
希はそう言うと、スマホを構えた。
「ほら!康二さん、早く早く!」
康二は希に促されると、希の隣に並んだ。
「もっと近寄って下さい。それじゃ入んないですよ」
「う、うん」
康二は照れながら手が振れるくらい希に近づいた。
なんか、今日の希ちゃん、積極的だな……
康二がそう思うのも無理は無い。
実際、希自身、ツーリングのおかげで、かなりテンションが上がっている。
しかし、ここまで積極的になっているのはそれだけが原因では無い。
それに希が気が付いているのかはわからないが……
「うーん、上手く海が入らないなぁ。自撮り棒持ってくれば良かった……」
希が苦心していると、康二が言った。
「僕の方が腕が長いから、少しはマシかな。スマホ貸してみて」
康二が腕を伸ばしてスマホを構えると、多少海が入った。
「海が入りました!やった!」
希が嬉しそうに言うと、
「じゃ撮るよ。はいチーズ!」
康二がシャッターを切った。
「どうかな?」
康二はスマホを希に渡すと恐る恐る聞いた。
希は、康二が撮った写真を見ながら、嬉しそうに言った。
「最高です!二人の初めての写真です!すぐに送りますね!」
希はスマホを操作してすぐに写真を康二に送ると、また、写真を嬉しそうに見返していた。
康二も送られて来た写真を見ると、そこには弾けれるほど眩しい笑顔の希と、緊張の為か、顔が少しこわばっている康二が写っている。
だが、たとえそうだとしても、康二もどこか嬉しそうな顔をしていた。
希は写真を見ながら楽しそうに康二をイジるように言った。
「なんか、康二さん緊張してます?」
「うん、恥ずかしながら……女の子とこんな風に写真なんて撮った事なんて、無かったからさ」
康二は照れながら答えた。すると希は嬉しそうに言った。
「なんか、そういう康二さんってかわいいですよね」
康二はかわいいと言われて、顔が赤くなるのを感じていた。
ヤバい……こんな歳下の女の子にかわいいって言われて、何照れてんだ、俺……
そんな康二の思いなぞつゆ知らず、希は呟いた。
「こんな、表情した康二さんを見れて嬉しい……」
康二は、希の呟きを聞くと、ますます顔が赤くなった。それを誤魔化すように、楽しそうに写真を見ている希に言った。
「お腹減ったでしょ?そろそろ、ご飯食べに行かない?」
すると、希は元気よく答えた。
「はい!お腹減りました」
「だよね、プリンしか食べてないもんね」
二人は、堤防の階段を降りながら、康二が希に聞いた。
「一応、聞くけど、希ちゃん、何か食べたいものある?」
「一応って何ですかぁ?」
希が笑って言うと、康二が照れながら言った。
「いや、前に来た時に食べて美味しいお店があってさ、そこにしようかなって思って。でも希ちゃんが食べたいものあるんなら、そっちにしてもいいかなって」
「康二さんがそこが良いのなら、私もそこが良いです」
希が笑顔で言った。
「ほんとに?良いの?」
「さっきも言ったでしょ?二人で楽しみたいって。康二さんが前に食べて美味しくて、また来たいと思ったんなら、そうしましょうよ。私も康二さんが美味しいと思った物、一緒に食べたいです」
「うん、わかった。ありがとう」
康二がそう言うと、希が笑った。
「なんか、ありがとうって違う気がする〜」
「そう?」
「そうですよ。こんなの当たり前の事です。これからも、こうやって話しながら、決めましょうよ、ね!」
「う、うん」
康二は戸惑いながら答えた。
正直、こういう事に対して、あまり慣れていない康二は、相手に対して、どうやって自分を出したら良いのかわからない。
今も、まず希に何を食べたいか聞いてから、お店を探すつもりだった。
一応、下見の段階で、当たりは付けていたのだが……
結果は同じになるかもしれないが、今回は自分が食べたいと先に言ってみたのだ。自分がこうしたいと、はじめて希に意思表示をしたとも言えた。
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