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東城大学附属萩原高等学校図書委員会中央係  作者: 澪標零
受験と失恋、時々純愛
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28話 捲土重来

 二本木がびしょ濡れで図書室の前に立っていた。一月二十三日、火曜日のことだった。

 大雪が降った後で、グラウンドにはまだ、融け切っていない雪が残っている。この寒い中二本木に何があったというのか。

 二本木はぐしゃぐしゃのまま図書室に入ってきて、ストーブの前にうずくまって、動かなくなった。タオルを出してやると、二本木は礼も言わず、自分の頭を雑に拭って、また動かなくなった。

「橙馬ッ」

ぴしゃりと音を立てて開いたドアの先には、泥だらけの制服を着た一年生が立っていた。黒髪ショートボブの女の子。どこかで見たような顔だったが、ぱっと誰かは思い出せなかった。

「…………来んなよ」

冷たい二本木の言葉に、女の子は聞く耳を持たず、静かに扉を閉めて、二本木の背後まで歩を進め、止まった。女の子は静かに息を吸って吐いた後、

「あの先輩の代わりでも良いの。……私、橙馬の隣に居たい」

どこかの小説で読んだような、寒い愛の告白を叫んだ。そして俺は、今彼女と二本木が、どういう状況にあるのかまで理解してしまった。これは一度した告白の続きだ。阻まれた告白の続き。

「お前のそういうの、大ッッ嫌いなんだよ!」

響く二本木の声、一瞬止まる時、立ちすくむ女の子。

「先輩の代わりなんか居るわけないだろ。……お前自分のこと何だと思ってんの?神かなんか?」

女の子は涙を流して、踵を返していった。二本木は安堵したように息を吐き、今日初めて、俺の顔を見た。そして二本木は、今日あったことを全て、話してくれた。

 放課後の体育倉庫裏に呼び出された二本木は、さっきの女の子、金城秋穂(かねしろあきほ)に告白されたらしい。生徒会会計に立候補して、当選した子。通りで見たことがあるはずだった。その金城さんと二本木は幼馴染同士で、今日の告白までは良好な仲だったらしいのだ。しかし金城さんの告白を、二本木は心無い言葉で退けた。それを隠れて聞いていた金城さんの友達が、二本木にどういうつもりか、と掴み掛り。それを止めに入った金城さんも泥だらけ。二本木も掴み掛ったその友達も、今日の日差しでは融け切らなかった雪に塗れてぐしゃぐしゃ、挙句二本木の方は最後に薄く氷の張った飼育池に落とされたと言うのだ。二本木はそのまま図書委員の業務をしに、ここまでやって来たものの、金城さんが追ってきてしまった、という訳。何と言ったらいいか、二本木には辛い一日だったと思う。

「……嬉しくないんじゃ、ないんだよ。…………でも今の俺は……ッ俺は……秋穂を傷つけるだけだ」

二本木は泣いていた。本当は、そういう奴だ。二本木は、無気力な様で、本当は情に厚くて、優しくて繊細な、不器用な男。

「二本木の気持ちは、どうやったら折り合いがつきそう?」

二本木は俺の言葉にしばらく黙り込んで、じっと静かに、自分に自分の気持ちを問うていた。その姿は、帯と付き合っていた時の俺の様で、白川先輩に発破をかけた日の様だった。

「先輩に、ちゃんとフッてもらう。それで秋穂に謝る。……緑音さん、先輩、どこにいると思う?」

二本木の目はちゃんと前を向いていて、白川先輩が、本田先輩と付き合う前の、どこかやる気のない、でも覇気のある、格好いい二本木だった。

「一号館だろうな」

二本木を見送って、俺は蔵書の点検に戻った。きっとこれから先の二本木は大丈夫。そんな気がした。

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