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東城大学附属萩原高等学校図書委員会中央係  作者: 澪標零
受験と失恋、時々純愛
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27話 内憂外患

 この学校の誰もが、栞の虜であって、俺はあくまでもその虜全員への挑戦者の気持ちでいた。少なくとも栞の口から、“好きだ”と言われるまでは、俺は栞のすぐ近くにいることを理由に、栞を取られることはない、栞は必ず俺に振り向いてくれる、などという慢心は、重箱の隅をつついたとて、出てこなかった。

 橙馬は分かりやすい程、栞に惚れ込んでいた。橙馬の気持ちが栞に伝わらなかった、というのも厄介だった。橙馬は自分で自覚していないようだが、兎に角感情の起伏が激しい。各委員会で三年が抜けた十一月頃から、その傾向はもっと顕著になったと、センター試験の日、緑音から連絡があった。百聞は一見に如かず、と昨日図書館を訪れてみたものの、俺と栞は見事に橙馬を煽ってしまった、という訳だ。

 「そんなの、二本木橙馬がじれったいことしているのがいけないんですよ。栞先輩は悪くありません」

と、我が級友、本条黄色と交際二ヶ月目を迎えた白泉覆が口を開いた。今となってはこの光景を東城萩原の風物詩と称する生徒が出てくるほど、俺と黄色、栞と白泉が一緒に居るのは日常と化していた。そしてこの場で、橙馬の話をするのも。

「じれったいって、覆がいうことじゃないけどね」

「わ、私は告白する気でいたのに、黄色さんが……」

黄色と白泉は、典型的なカップルという雰囲気がある。これまでの黄色の恋愛遍歴にはなかった緊張感が、白泉との間には確実に存在しているのだ。対する俺たちは、何も変わらない。俺も栞も、互いに互いのことが大好きで仕方が無くて、そのことを知っているからこそ、必要以上に踏み込まない。そういう意味では、ずっと振り向いてほしくて、いろんな手を尽くした橙馬は、俺のことが気に入らないだろうし、俺たちの綱渡りの様な関係性も、癇に障るだろう。

「……もしかして、私が二本木の告白に気づかなかったのか?」

「栞ならあり得るな」

そして鈍感な栞のことも、一時は嫌いになったのではないだろうか。いつも自分のことだけで精一杯になってしまう、俺たちのことを橙馬は、どう思っていた、どう思っているのか。

「………………帯ちゃんと揉めてた時のアレはもしや」

栞の顔が青ざめていく。別に誰が悪いのでもない。皆悪いし、皆悪くないのだ。栞は優しいから、いつでも他人の嫌なところを請け負おうとする。そういう所が、橙馬の思う栞の魅力であり、最も嫌な部分なのだろう。想像がつく。栞がそういう人間だと知っていることで、自分の挙動が栞を苦しめてしまったと知る瞬間程、嫌な時間はない。

「何、白川ちゃん橙馬に何か言われたの?」

「……“泣き顔見られたいのか”って抱きしめられたし、“好きだから裏切らない”とも言われた」

黄色の盛大な溜息は、その場の総意と言って良いだろう。栞は本当に、敏感な様で鈍感なのだ。自分に向けられた矢印には何も気づかないのに、他人が誰かに向けている矢印には目ざとい。橙馬も、そして栞も、どうやって折り合いをつけるのか。自分の受験なんかよりもずっと、俺は橙馬と栞のことが心配でならなかった。

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