漆、初花染め
宴会も終わり、いそいそと帰り支度を始めた白雨たちを引き留めたのは、彼女らの兄である夜雨だった。
もう夜も更けて危ないから、と月並みな言葉で妹たちを留めることに成功した彼は、梅に頼んで上等な部屋を彼女らに宛がった。
「兄様ったら、一体どういう風の吹き回しなのかしら?」
「夜桜屋からここが遠いことを知っているからじゃない? それに、私たちはあの見世で働いてはいるけれど、帰る場所は別だし、ね?」
「母上が心配すると思っているのね。まあ、強ち間違ってはいないけれど」
ばふん、と布団の上に背中から飛び込んだ夢雨に白雨は笑みを浮かべた。
兄の中では恐らく、自分たちは子供の姿から成長していないのだろう。
仮にも極道の娘だ。
夜道を歩くことにも、その闇の中を覗くことにも慣れている。
生温い優しさに、少しだけこそばゆい想いを抱きながら、白雨は褥に身体を滑り込ませるのであった。
翌朝。
顔を洗おうと中庭の井戸に向かった白雨は、知っている声が通用口の方から聞こえてくるのに眉根を寄せた。
「おーい。梅ちゃーん! 開けてくれ~! 両手が塞がってんだよぉ!」
呂律の回っていない口で朝っぱらから大声を上げる陰に、白雨は勢い良く戸を開いた。
金糸雀色の髪、少しだけ見上げる位置にある顔。
「……有明様」
白雨の顔を見た有明から酔いの色が消えた。
さあ、と音を立てて青ざめていく彼の表情を真顔で見つめていると、後ろから小走りで駆け寄ってくる誰かの気配に気が付く。
「おはようさん。あれ、今日って配達頼んでたっけ?」
有明の手から山菜がぎっしりと詰まった籠を受け取りながら、柚月が首を傾げる。
「あ、ああ。その、昨日の宴会で、ほら、今日の分を少し使ったって聞いてな……」
「ああ~。そう言えば、そんなこと言ってた気ぃするわ」
「代金は月末に纏めて払ってくれたらいいから」
「ん。いつもおおきに」
おう、とそう言って立ち去ろうとした有明の手を白雨ががっしりと掴んだ。
指先が白く染まるほど強く手を掴まれて、有明はぎくり、と肩を弾ませる。
「お待ちを」
「あ、いや、でも、次の配達がある……」
「朝餉を食べてからでも遅くはないはずです」
「うぐっ……」
彼の足を以てすれば、朝食を食べてからの配達でも十二分に問題はないはずだ。
じろり、と赤い眼に睨まれて、有明は降参だと言わんばかりに両手を上げた。
二人のやり取りを後ろで見ていた柚月はパチパチと忙しなく瞬きをすることしか出来ない。
「柚月さん。申し訳ないのですが、私たちの部屋に膳を三つお願いします」
「あ、はい。分かりました」
「それでは」
有明の袖を引っ張りながら歩き始めた白雨の勇ましい横顔を見送って、柚月は弦吉の元へと山菜を届けるため、足を急がせた。
「お、久しぶりです。お嬢さん方」
しん、と静まり返った白雨と夢雨の部屋に、有明の乾いた笑い声が響く。
「姉様。どうしてこの人がここに居るんです?」
「それは私が聞きたいくらいです」
冷たく放たれた白雨の言葉に夢雨は肩を竦めた。
こうなった姉は厄介だ。
自分の知りたいことを相手が答えるまで絶対に解放しない。
ご愁傷様です、と有明に視線を投げかけると、彼は片手で両目を覆うのであった。
「俺は親父に許可をもらって組を抜けています。そのことはご存じのはずでしょう?」
「ええ、勿論。貴方が辞めることに難色を示した父の寝込みを襲って、一筆書かせた上に血判を押させたのですよね? よぉく知っていますとも」
「それは、」
「父は笑っていましたけれどね。『流石、うちの汚れ役を買っていただけはある』と」
豪快に笑う組長の姿が有明の瞼の裏に浮かぶ。
「……まさかとは思いますが、さっきの娘が組を抜けた理由ですか?」
白雨の目が、スッと細められる。
その顔は夜雨と、彼女らの父親であり有明が生涯で唯一仕えた男――夜一にそっくりであった。
「…………」
「無言は肯定として受け入れます」
夢雨は二人のやり取りに我が耳を疑った。
黒雲組で一、二を争う腕を持っていた有明が、何の変哲もない人間の少女のために組を抜けたと知って、開いた口が塞がらない。
「どうして?」
「今は、まだ言えない」
「有明様」
白雨の声は依然として冷たく固いままだった。
けれど、有明の意思も同じくらいに強固なもので、彼はそれ以上を語ろうとしなかった。
「朝餉お持ちしましたぁ」
そんなときに柚月が膳を運んできたものだから、夢雨は一体どんな顔をして彼女から膳を受け取れば良いのか分からず、引き攣った表情でそれを受け取った。
「ごめんなさい。間ぁ、悪かったみたいですね……」
「ううん! むしろ暗かったから、膳を運んできてもらえて助かったよ~! 良かったら柚月ちゃんもこっちで食べる?」
努めて明るく振舞った夢雨に、柚月は少しだけ口元を綻ばせるとふるふると首を横に振った。
「おおきに。でも、夜雨が部屋で待ってるから」
「え? 兄様と同じ部屋なの?」
「そ、そうやけど――あ! ちゃ、ちゃうよ!? 変な意味やのうて! 部屋が足りへんから、うちの部屋を仕切って使ってるだけで!」
うっすらと頬を赤く染めてそんなことを囀る柚月に、今度は夢雨が口元に笑みを浮かべる番であった。
「ふふっ。兄様が柚月ちゃんに入れ込むの、分かった気がするなぁ」
「へ?」
「ま、面倒くさい兄だけど、仲良くしてあげてね」
夢雨の言葉に、柚月はこれでもか、と眉根を寄せた。何か言おうと唇を開くも、結局は金魚のようにあわあわと無意味に動かしただけで、音を成さなかった。そして、慌てたように踵を返す。
早く部屋に戻らないと件の面倒くさい猫が唸り始めてしまうのだ。
小気味良い音を立てて廊下を駆けていく少女の後姿を見送って、部屋の中に戻ると、以前鋭い睨み合いは継続されていた。
「……二人とも、その辺にしましょうよ。せっかく柚月ちゃんが出来立ての朝餉を持ってきてくれたのに。これじゃあ、味が分からないわ」
「そうね。これ以上、何を言っても答えてくれそうにないし。頂きましょうか」
「はい、姉様の分。こっちは有明さんの、ってどこに行く気?」
「用は済んだだろ。俺は次の配達があるんだ。これで失礼する」
すくり、と立ち上がった有明に、白雨がまたも冷たい視線を向ける。
「朝餉を食べてからでも、遅くはないでしょう? それとも、嫌いな女と一緒では食事も出来ないと?」
「なっ!」
「……夢雨。その人の分はそちらに置いて差し上げなさい」
ぴりぴりとした雰囲気に夢雨は柚月が戻って来てくれないものか、と叶いもしない願いを抱きながら、白雨の言う通りに部屋の隅に有明の膳を置くのであった。
あんなに味のしない飯を食べたのは、初めてだった。
有明はどこか遠い目をしながら、和笑亭の暖簾を潜った。
背後で感じた冷たい空気に、項がぞわりと震える。
昔はあんな子ではなかった。
白雨、と自分が名を呼べば、躑躅の花が咲いたように頬を染めて駆け寄って来たのに。
彼女が有明にあんな態度を取るようになったのは、成人を迎えて少し経った頃だろうか。
丁度、よからぬことを企てようとしていた連中を血祭りにした帰りで、有明は気が立っていた。
そこへ白雨がやって来て告げたのだ。
『貴方が好きです』
今思えば、最低最悪の間だった。
血濡れの状態から疲れていることを察してくれれば良いものを。若い女子にそれは難しかったのか、それとも恋が盲目にさせた所為で有明の肌や着物を汚す血に気が付かなかったのか。
そうして疲れ切った頭と、いきり立った心がそれに対して最悪の答えを導きだしてしまった。
『間の悪い女だな。俺は疲れているんだ。手拭いの一つも寄越せない女は好みじゃない。むしろ嫌いだ』
薄花色の着物へ、手についていた血を擦り付ける。
赤黒く染まった着物と青褪めた白雨の表情が、脳裏に焼き付いて離れない。
「はああ……」
肺の中の空気を全て吐き出す勢いで深い溜め息を零す。
恐らく、初恋であったに違いない。
それを自分は無残にもズタズタに引き裂いて、心に深く刃を突き立ててしまった。
白雨が冷たくなるのも無理はない。
無理はないが、彼女にも非はあるのだ、と有明は何度も自分に言い聞かせると、パンッと自らの頬を叩いた。
朝餉を食べた所為で随分と遅れてしまった。
昼までに配達を頼まれている分を急がねばならない。
和笑亭の脇に止めていた荷押し車を引っ張ると、全速力で駆け出した。
配達が終わり、何となく朝のことが気がかりで和笑亭に顔を出すと、柚月に捕まった。
曰く、柊が体調を崩し、式神の数が足りていないので、手伝ってほしいとのことであった。
異母姉である柊を見舞えば、どうやら生魚に中ったらしい。
青白い顔で「粗相したら殺す」と告げられ、「善処する」と苦笑しながら返す。
夜雨も有明が入ってきたことを匂いで察していたらしいが、膳を運ぶことに夢中で柚月の隣を歩いていても、鋭い視線が向けられるのみで何も言われなかった。
これ幸いと柚月と談笑しながら受付に向かえば、そこに予期せぬ人物が居て「げ」という声が唇から零れる。
「……どうも」
能面のような表情で、白雨が有明に頭を下げた。
「柊姉ちゃんが魚食べたときに近くで居ってくれてな。今日は仕事も入ってないから言うて、宿帳付けて貰ってるんよ。あ、夢雨ちゃんは夜雨と一緒に膳運んでるで!」
「あっそぉ」
「ほんなら、二人ともよろしゅうなぁ」
笑顔で去っていた柚月に「おう」と形ばかりの笑顔を張り付けて彼女を見送る。
じとり、と隣から感じる視線が痛い。
気まずい。
非常に気まずい。
今朝の出来事もそうだが、思い返してしまったあれやそれが良くなかった。
惚れた腫れたどうこう言う前に、自分と白雨とでは立場が違うのだ。
組員と娘――訂正、元組員と娘。
脳内で字面にしてみて、有明は目頭を押さえた。
非常に危ない香りがする。
はあ、と知れず小さな溜め息が口を衝いて出た。
視界の端で白髪が揺れる。
「柚月さんの頼みは断らないんですね」
棘のある言い方に、有明はひくり、と唇を引き攣らせる。
「は?」
「私の頼みは一度も聞いてくれたこと、ないくせに」
白雨の声は、震えていた。
「白雨?」
名前を呼んでそちらを見れば、唇を強く噛み締めた彼女と目が合う。
「気安く呼ばないでください」
赤い眼に、薄い涙の膜が広がっていく。
泣くのか、とそう思って伸ばした手を、華奢な指先に叩き落されてしまった。
「子供扱いしないで!!」
「白雨」
「呼ばないでって言っているでしょう! その気もないくせに!! そんな声で、私の名前を呼ばないで!!」
悲鳴に近い、甲高い声でそう叫ぶと、白雨は有明との間に距離を取った。
狭い受付の中ではそう距離は取れない。
それでも、台の隅で懸命にこちらを威嚇する彼女に、有明はぽりぽりと頬を掻いた。
そして、彼女の言葉に倣って名前も呼ばず、手負いの獣の如く低い唸り声を上げる白雨と同じように反対側の隅に立ち位置を落ち着かせた。
困ったのは客の方である。
和笑亭の受付は特殊で、左側(有明が立っている方)で帳面に名前を書くと、右側(白雨が立っている方)で銭を払い、鍵を受け取らねばならない。
常であれば、台の中心に柊の式神たちは立つ。
帳面を書き終えたらすぐに料金を払って、部屋に落ち着きたい客のことを分かっているからだ。
けれど、彼らは違う。
今日、たまたま手伝いに来ただけの助っ人だ。
困惑する客たちの中に野太い笑い声が響いた。
「何だ。珍しく繁盛していると思ったら、狐が受付をしているのか。いつもの姉さん方はどうした?」
「……こりゃ、驚いた。燕の親分じゃないですか。こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「俺ぁ、ここの常連だからな。今日の宴会に夜桜屋が来るって聞いて会合もほどほどに急いできたんだよ。な、白雨?」
ぴりぴりとした雰囲気の中、漸く帳面を書き終えた客に鍵を渡した白雨がぺこりと燕に頭を下げた。
「にしても、お前さんら愛想がないねぇ。しかもそんな端と端に立たれたんじゃあ、やりにくいったらねえよ」
「?」
「黒雲組の若頭ともあろう男が、客のもてなしも出来ねえとは……。夜一が見たら大笑いするな」
「俺はとっくに辞めた身ですよ。……ああ、なるほど。台の中央に立った方が早いのか。こりゃ、失礼しました」
ふむ、と顎に手を添えた有明に燕が「おうよ」と笑って答える。
「俺ぁ、そこで座って待ってるからよ。先に皆さんの受付を済ませてやんな。お前さんには聞きたいこともあるしな」
感謝の意を込めて頭を下げた有明に、宴は手を上げると受付近くに設置されている洋風の腰掛にどかり、と腰を下ろした。
その姿を尻目に、有明がそっと白雨の方に距離を詰める。
人一人分の距離を空けて己の隣に立った有明を、白雨は咎めなかった。
狭い受付の中だ。
先程の有明と燕の会話を聞いていたのだろう。
少しばかり嫌そうに眉根を寄せただけで、黙々と勘定を受け取り、鍵を渡す作業を繰り返している。
そうして、全ての客を裁き終わる頃には、窓の外に見える景色が黄昏色を孕んでいた。
「お待たせしました。すっかり遅くなっちまって」
「んあ、何だ。思ったより早かったな」
「それで? 話って言うのは」
受付の中から出て、燕の真向かいに腰を落ち着かせた有明に、彼はちら、と未だ受付の中から出てこようとはしない白雨のことを窺った。
「実は、白雨のことでな。うちの倅がどうしても嫁に貰いたいと言い始めた」
「は?」
「何でも、前に気まぐれでここに連れてきてやったときに一目惚れしちまったらしい。俺としては夜一の娘だ。嫁にするのも悪くはない。夜一に相談したら、うちの娘で良ければって二つ返事だった」
「……なら、何の問題もないじゃないですか」
「それが、そうもいかねえんだよ」
燕は苦い顔をして首を横に振った。
黒雲組と燕が頭を務める天狗の飛影組は昔から仲が良いことで有名だった。
勿論、当代の親分同士の仲も良好と言っていい。
その長い歴史の中では時に争い、時に助け合って、切磋琢磨してきた。
数代前、双方の組長が義兄弟の契りを交わしてからは、互いの娘を嫁に出し、その結束をより強固なものとしていた。
燕の奥方は子供が出来にくい質で、彼の息子が生まれたのはまだ最近のことだ。
対して、夜一には三人の子が居る。
口では認めていないが、夜雨は立派な青年に成長したし、二人の娘も彼の妻である氷雨に似て強く美しい女性になった。
しかも誰もが魅了される稀代の芸妓ときた。
燕の息子が言い出さなくても、いずれ組の中から「彼の女房に」と声が上がったに違いない。
それほどまでに、白雨の美しさは異質な存在感があった。
「試しに顔を合わせてみようと席を設けたんだが、『好いた人が居るので、夫婦にはなれません』ってぴしゃりと跳ね返されちまった。その日から倅は寝込んで部屋から出てこようともしねえ。まったく我が息子ながら情けねえ話だ」
「どうして、その話を俺にするんです?」
有明はここにきて漸くその質問を燕の親分にすることが出来た。
本当は話が始まったときに、すぐにでも問い質したかったのだが、彼の目がそれを許してはくれなかった。
人の上に立つ者は特有の眼を持っている。
燕もまたその一人であった。
静かに揺れる紫紺の炎に中てられて、言葉を削がれてしまったのだ。
「……ここまで聞いておいて、そいつは笑えねえな。自分でも分かってんだろ? あの嬢ちゃんが誰に惚れてるのか」
「……」
「なあ、有明よ。倅の為だ。悪いとは思うが、お前さんがきちんと白雨の嬢ちゃんを振ってやってくれ。そうすりゃ、あの子も極道の家に生まれた者だ。きちんと割り切ってうちの暖簾を潜ってくれる」
きっと、この会話の内容は白雨の耳に筒抜けだ。
だから、燕はわざとここで有明に話した。
猫又の耳は些細な物音でも拾う。
かたり、と小さな音と共に立ち上がった有明に、白雨は緩慢な動作で彼を見遣った。
その赤い眼は濡れていた。
柘榴の実を連想させる色に、有明は思わず見惚れる。
白雨は、勢い良く受付の中から飛び出した。
着物の袷を持ち上げて、全力疾走で駆けた彼女に目を剥いたのは有明だけではない。
たまたま、通りかかった夜雨が腕の中に飛び込んできた妹の姿を見て、これでもかと顔を顰めた。
「おい、どうした。何をそんなに慌てて……」
そして、彼女が走ってきた方向を認めて、これまた苦々しい表情を浮かべる。
「妹に何をした」
兄妹喧嘩をしても滅多に泣かなかった妹が泣いている。
彼女が涙を見せるとき、そこにはいつも決まって有明が居た。
「いや、俺は」
「……有明様は何もしていません。私が勝手に期待して、勝手に失望しただけです」
すみません、と言いながら夜雨から身体を話そうとした白雨を、夜雨は良しとはしなかった。
強い力を以てして腰を擁されたかと思うと、くるりと方向を転換し、速足で歩き始める。
「だから、言っただろう。女泣かせの狐は止めておけと」
「兄様がそれを言う?」
ふふ、と笑った白雨の横顔を見て、夜雨はぐっと唸った。
「俺だって好きで泣かせているのではない。あいつが勝手に……」
「冗談よ。でも好きだからってあまり、虐めるのも良くないわ。たまには素直に柚月さんに甘えてみたら?」
「あま!? ちょっと待て、誰が誰を好きだと?」
すっかり、いつもの調子を取り戻して、くふくふと笑う白雨に夜雨もそっと微笑む。
取り残された有明と燕は二人が去っていった方をただじっと見つめることしか出来なかった。
(あんな風に笑うところを見たのは、いつ振りだろう)
ふわり、と笑った白雨の横顔に、有明は胸の辺りがざわざわと忙しなく蠢くのに知らぬふりをした。
あれは自分が手折ってはいい花ではない。
かつて、同じことを思った相手が居た。彼女は結局自分の隣を歩くことはなかったけれど、代わりに良き友となってくれた。
『あんさんは、もうちょっと自分に正直になった方がええねぇ』
いつかの友の言葉が蘇る。
未だ呆けている燕を置いて、有明は走り出した。
今度こそ、間違えないために。




