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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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83/122

寿綾乃という女 第3部 83

…まったくバカバカしい…


 実に、バカバカしい…


 どうして、私とナオキが、五井の内紛に巻き込まれなきゃ、ならないのか?


 今さらながら、思った…


 思ったのだ…


 そして、そんなことを、思っていると、今さらながら、このマミさんが、私に警告をしたことを、思い出した…


 …これ以上、五井に関わっては、ダメ…


 …寿さんが、傷つく…


 と、私に警告をしたことを、思い出した…


 つまりは、私とナオキが、傷つくことを、あのとき、マミさんは、知っていたわけだ…


 だから、あのとき、警告した…


 そういうことだ…


 が、


 同時に、おそらく、その警告は、意味がないことを、マミさんは、理解していたに違いない…


 FK興産の株を買収することは、おそらく、決定事項…


 すでに、決まっていたことに、違いないからだ…


 だから、ナオキは、ともかく、私が、傷つくことは、わかっていたはずだ…


 私が落胆することを、わかっていたはずだ…


 そして、そこまで、考えると、今度は、ナオキの目的が、見えてきた…


 なぜ、私をFK興産の非常勤の取締役にしたのか、見えてきた…


 一つには、五井とFK興産を共同経営する前に、私を取締役にしたかった…


 なぜなら、五井に半分、株を握られれば、ナオキは、思うように、人事ができないからだ…


 だから、五井と共同経営する前に、私を、非常勤の取締役にした…


 そして、それ以上の目的は、私にFK興産を、守らせること…


 それに尽きるのではないか?


 そう、気付いた…


 如何に創業社長といえども、五井と共同経営する立場では、ナオキは、今までのように、会社で好き勝手は、できない…


 とりわけ、人事をいじることは、できない…


 だから、五井と共同経営する前に、私を穂常勤の取締役にした…


 あのとき、ナオキは、私を非常勤の取締役にしたのは、私に金をやるためだと、言った…


 無職になった私に金を与えるためだと、言った…


 非常勤の取締役にすれば、給与を与えることが、できるからだ…


 が、


 実は、裏の目的があった…


 そのことに、気付いた…


 気付いたのだ…


 同時に、今さらだが、ナオキが、どこにいるのか?


 気になった…


 そして、ナオキの居場所は、当然、このマミさんは、知っているに違いない…


 だから、それを、マミさんに聞きたくなった…


 当たり前のことだ…


 「…マミさん…」


 「…なに、寿さん…」


 「…マミさんは、当然、ナオキの居場所を知っていますよね…」


 「…藤原さんの居所?…」


 「…そうです…」


 「…知っているわ…」


 「…どこですか?…」


 「…それは…」


 「…それは…」


 「…言えない…ごめんなさい…寿さん…」


 「…どうして、言えないんですか?…」


 「…五井長井家…」


 「…五井長井家が、どうしたんですか?…」


 「…五井長井家が、藤原さんに接触すると、困る…」


 「…五井長井家が接触?…」


 「…今も言ったように、五井長井家もまた、藤原さんに接触して、FK興産の株を買おうとした…だから、それを、知った伸明さんや、和子叔母さまが、先んじて…」


 後は、言わなくても、わかった…


 要するに、五井長井家が、ナオキに接触して、FK興産の株を買収しようとしたから、急いで、伸明も和子も、ナオキに接触して、株を買い取った…


 だから、今、ナオキの居場所がわかれば、五井長井家の人間が、ナオキに接触しかねない…


 それを、伸明も和子も、恐れたに違いなかった…


 なにしろ、ナオキは、まだFK興産の株を半分持っている…


 それを、五井長井家が、買い取るとでも、言い出せば、どうなるか?


 それを恐れたに違いない…


 もちろん、ナオキが、自分の持つ株を、そんなに簡単に売るか、どうかは、わからない…


 ただ、業績が赤字で、株を半分売却するほど、経営が追い詰められた状態だ…


 ナオキが、FK興産の経営に嫌気がさして、自分の保有する株を全部売却しても、おかしくはない…


 が、


 もし、そうなれば、どうなるか?


 FK興産の株を五井本家と、五井長井家が、半分ずつ所有することになる…


 当然、そんな事態は、本家は免れたいに違いない…


 本家=伸明と和子は、避けたいに違いない…


 そして、もし、そんなことになれば、五井長井家が、力をつける…


 その結果、五井の順列が、崩れる…


 そして、そうなれば、さっき、マミさんが、言ったように、


 「…最悪、五井が崩壊する…」


 そういうことだろう…


 ヤクザでも、国家でも、これは、同じ…


 昔の日本の戦国時代でいえば、下剋上…


 つまり、身分の低い者が、身分の高い者より、力をつける…


 その結果、パワーバランスが、崩れて、それまで、身分の低かった者が、身分の高かった者に代わって、その地位に就く…


 そういうことだ…


 そして、五井に限って言えば、それほどでもないが、それでも、五井の中にあって、本家と東西南北の4家は、別格…


 五井十三家の中にあって、別格だ…


 だから、それ以外の格下の8家が、本家や東西南北の4家と肩を並べるようなことになれば、一大事…


 まさに、一大事だ…


 五井の序列が、崩れかねないからだ…


 身分の下の者が、身分の上の者と、同等になりかねないからだ…


 そうすれば、秩序が、乱れる…


 五井家内のパワーバランスが、崩れたことにより、五井家が崩壊する可能性がある…


 だから、それを、伸明も和子も恐れたに違いなかった…


 私は、マミさんの電話で、ようやく、事態が、飲み込めた…


 だから、ホッとした…


 胸のつかえが、取れたようで、ホッとした…


 もちろん、マミさんの言うことを、全面的に信じたわけでは、決してない…


 が、


 今、マミさんの言ったことは、納得できる…


 納得できるからだ…


 どんな話も、納得できない話に同意は、できない…


 当たり前の話だ…


 しかしながら、ユリコの説明とは、違う…


 今、マミさんが言ったこととは、全然、違う…


 が、


 どちらも、納得できる…


 わけのわからない話ではない…


 だから、どちらが、正しいか?


 あるいは、


 どちらが、ウソを言っているか、わからないが、それでも、どちらも、納得できる話だ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 が、


 だからこそ、困る…


 どちらが、ウソを言っているか、わからないから、困る…


 マミさんとは、気も合うし、信用できる…


 真逆に、ユリコとは、気も合わないし、信用もできない…


 が、


 それと、これとは、別…


 私にとって、別だった…


 気が合って、信用できるからと、いって、いつも、信用しているわけではない…


 真逆に、気も合わないし、信用できない相手でも、ホントのことを、言っている可能性はあるからだ…


 だから、悩む…


 どっちが、ホントだか、悩む…


 そういうことだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんなことを、考えていると、


 「…ごめんなさい…寿さん…」


 と、マミさんが、電話の向こう側から、私に詫びた…


 「…ホントに、ごめんなさい…」


 と、続けた…


 が、


 いつまでも、マミさんに謝らせるわけには、いかない…


 だから、


 「…マミさんに、謝ってもらうものじゃ、ないですよ…」


 と、言った…


 「…マミさんが、FK興産の株を、買収したわけじゃないし、それに、FK興産の業績が、悪いのも、ホントだろうし…」


 私は、続けた…


 が、


 それにも、かかわらず、


 「…ホントにごめんなさい…」


 と、マミさんが、続けた…


 もはや、私は、どう言って、いいか、わからなかった…


 マミさんは、なにを言っても、謝り続ける…


 これは、困った…


 実に、困った…


 と、


 そのときだった…


 ふと、閃いた…


 「…マミさん…誰か、来たみたいですから…これで…」


 と、慌てて、言った…


 もちろん、ウソだ…


 誰も、来ていない…


 インターフォンのブザーも鳴っていない…


 が、


 姿が、見えないのが、いい…


 実に、いい…


 ウソがつけるからだ…


 だから、実に、いい…


 電話だから、いい…


 もしかしたら、マミさんも、私が、ウソをついていることに、気付いたかも、しれない…


 マミさんが、慌てた様子で、


 「…じゃ、これで…」


 「…ハイ…すいません…」


 と、言って、慌てて、私は、電話を切った…


 正直、ホッとした…


 マミさんには、すまないが、ホッとした…


 いつまでも、マミさんに、謝られても、困る…


 だから、ホッとした…


 同時に、このマミさんの電話で、騒動の遠因が、見えてきた気がした…


 もちろん、マミさんの言うことを、全面的に、信じているわけでは、決してない…


 が、


 まったくのウソを言うとは、思えない…


 が、


 しかしながら、マミさんは、五井家の人間…


 いかに、私と仲が良くても、私と五井家のどちらの側に着くかと、問われれば、間違いなく、五井の側に着くに、決まっている…


 当たり前のことだ…


 だから、五井にとって、不利なことは、私に伝えるはずがない…


 いかに、仲が良くても、私に伝えるはずが、ない…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 が、


 だからと言って、マミさんを嫌いなわけでも、なんでもない…


 それは、それ…


 これは、これ…


 仕方がないことだからだ…


 いかに、仲が良くても、できないことは、できない…


 超えては、ならない一線…


 あるいは、


 超えられない一線があるからだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


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