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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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72/122

寿綾乃という女 第3部 72

そして、そんな思いが、私の顔に出たのだろう…


 伸明が、不思議そうに、


 「…寿さん…なにが、おかしいんですか?…」


 と、聞いた…


 当たり前だった…


 別段、今、面白い話など、なにも、していない…


 にもかかわらず、笑っている私が、不思議だったに違いない…


 が、


 伸明のこの質問には、答えなかった…


 いや、


 答えることは、できなかった…


 いかに、伸明とて、五井の人間…


 五井の当主だ…


 だから、その伸明の前で、和子を非難することは、できなかった…


 当たり前だ…


 だから、


 「…いえ…」


 と、曖昧に、言葉を濁した…


 「…伸明さんも、ナオキも大変なときに、自分が、役に立てなくて…」


 と、言った…


 「…役に立てない…どうして、役に立てないんですか?…」


 「…体調です…今も、ご覧のように、体調が悪くて、寝込んでいました…」


 「…」


 「…せめて、もう少し体調が、回復すれば、お二人の役に立てたかも、しれない…そう、思うと、自分の役立たずさが、笑えて…」


 と、言った…


 本音だった…


 が、


 それを、聞いても、伸明は、なにも、言わなかった…


 「…」


 と、黙ったままだった…


 だから、伸明が、一体なにを考えているのか?


 不思議になった…


 誰でも、そうだが、おしゃべりの人間は、いい…


 おしゃべりの人間は、わかりやすい…


 年がら年中、思ったことを、すぐに、口にするからだ…


 だから、どんな人間か、すぐにわかる…


 考えていることを、すぐに、口に出すからだ…


 真逆に、困る人間は、おしゃべりでない人間…


 口数の少ない人間だ…


 あまり、しゃべらないから、なにを、考えているか、わからない…


 だから、そういう人間は、危険…


 扱いに、困る…


 そういうことだ…


 そして、これは、目の前の伸明にも、当てはまる…


 伸明は、五井家の当主の家に生まれた…


 だから、五井家の次期リーダーだ…


 天皇家で、言えば、皇太子…


 次の天皇陛下になる人間だ…


 だから、おいそれと、思ったことを、口にしない…


 次の天皇陛下になる人間が、おしゃべりで、いつも、自分の感情を爆発させては、周囲も扱いに困る…


 天皇陛下は、神輿(みこし)…


 みんなが担ぐ人間だ…


 みんなに担がれる人間が、いつも、自分の希望や愚痴をこぼしていてばかりいては、困る…


 それでは、誰も、担ぐ気が失せる…


 それと、同じだ…


 伸明は、五井の天皇陛下…


 だから、幼少より、自分の感情を抑える術(すべ)を学んだに違いない…


 だから、私といっしょにいても、普通にココミュニケーションは、取れるが、必要以上には、しゃべらない…


 意思表示をしない…


 そういうことだ…


 だから、怖いというか…


 いまいち、伸明という人間が、わからない…


 なにを考えているか、わからない…


 だから、怖い…


 伸明と出会ったのは、半年ちょっと前…


 すでに、一度だけだが、キスをして、男女の関係になりかけたこともある…


 が、


 果たして、男女の関係になったから、どうか?


 男女の関係になったから、伸明のなにが、わかったかと、誰かに問われれば、これも、また返答に困る…


 その人間が、どんな人間か、知るには、ホントは、背後霊ではないが、四六時中、その人間の近くにいることだからだ…


 だから、ホントは、両親も、学校の友人や、会社の同僚も、その人間が、どんな人間か、わからないものだ…


 それは、なぜか?


 それは、相手によったり、あるいは、家庭や、学校では、そのときどきで、見せる顔が違うことが、あるからだ…


 ありがちな例では、家では、内弁慶ではないが、わがまま放題なのが、学校や、会社では、いいひとを、演じている…


 そんな例は、枚挙にいとまがない…


 要するに、気が弱いのだ…


 だから、学校や、会社では、よいひとを、演じる…


 敵を作るのが、怖いからだ…


 が、


 ホントは、我がまま…


 だから、家庭では、わがまま放題になる…


 家庭では、自分の感情を抑えない、素の姿を出せるからだ…


 だから、もしかしたら、伸明も、それと同じかも?


 ふと、気付いた…


 この伸明と結婚したら、それと、同じかも?


 と、気付いた…


 なにしろ、五井家当主だ…


 家も、名門中の名門…


 当然、プライドも、高い…


 おまけに、ルックスも、悪くない…


 長身のイケメン…


 だから、この伸明のホントの姿は、我がまま放題の人間だと、しても、驚かない…


 さもありなんと、納得するだけだ(笑)…


 そして、そんなことを、考えると、ナオキのことを、考えざるを得なかった…


 私の事実上のパートナー、藤原ナオキのことを、考えざるを得なかった…


 なぜなら、私は、ナオキを知っているからだ…


 どんな人間か、知っているからだ…


 ナオキとは、もう出会って、十五年は、経つ…


 私が、上京して、女子高生のときに、知人の紹介で、ナオキの会社にアルバイトで、行ったのが、出会うきっかけだった…


 だから、ナオキのことは、よく知っている…


 会社での姿も、家での姿も、知っている…


 だから、安心できる…


 安心して、ナオキといることが、できる…


 そういうことだ…


 極端な話、藤原ナオキという男の裏も表も知っている…


 それが、ナオキと、伸明の違い…


 大きな違いだ…


 だから、私は、ナオキに騙されることは、ないと、信じている…


 が、


 正直、この伸明のことは、わからない…


 私は、まだ、この諏訪野伸明という男を、よくは、知らないからだ…


 あるいは、寝てみれば?


 とか、いう意見はあるかも、しれない…


 しかしながら、何十回、あるいは、何百回、カラダを重ねたところで、その人間が、どんな人間か、わかるものか!


 私は、言いたい…


 せいぜい、わかるのは、カラダの相性ぐらいのものだ(爆笑)…


 他には、なにもわからない…


 いや、


 わかるはずもない…


 なにしろ、したのは、カラダを重ねることだけだからだ(笑)…


 そんなことで、男も女も相手のすべてが、わかるわけは、決してない…


 が、


 しかしながら、そんなことを、考えていては、いつまで経っても、結婚は、できない…


 どこまで、相手のことが、わかれば、結婚するのか?


 以前、そんな質問をネットか、雑誌で、見たことがある…


 が、


 答えは、ないだろう…


 結婚して、わかる…


 いっしょに暮して、初めてわかることは、たくさんあるからだ…


 だから、それに、躊躇していては、結婚は、できない…


 かつて、タレントの優香が、


 「…結婚は勢い…」


 と、語ったが、それは、わかる…


 うじうじ考えていても、答えは出ないからだ…


 だから、勢い…


 思い立ったら、勢いで、結婚する…


 そういうことだからだ(笑)…


 だから、それを、思えば、私は、優香さんとは、真逆に、ナオキと結婚した方が、いいかもしれない…


 ふと、気付いた…


 この眼前の伸明と違い、私は、ナオキを知っている…


 会社での顔も、家庭での顔も、知っている…


 だから、安心できる…


 そういうことだ…


 それが、伸明とナオキの違い…


 仮に、伸明と結婚すれば、この後、予想もつかなかった伸明の別の顔を見ることになるかもしれない…


 そんな予感もする…


 が、


 そこまで、考えて気付いた…


 この私が、伸明と結婚できるわけがないことに、気付いた…


 なにしろ、この伸明は、五井家当主…


 日本、いや海外でも、知られた、名家の当主…


 片や、私は、どこの馬の骨とも、わからない女…


 そんな女と、五井家の当主とも、いう男が、結婚なんて、するはずがない…


 あらためて、自分の愚かさに気付いた…


 自分自身の愚かさに、気付いた…


 と、同時に、今さらながら、気付いたことがある…


 あの和子が、私に優しかった理由だ…


 おそらく和子は、ナオキの会社、FK興産の買収をだいぶ前から、考えていたのではないか?


 ふと、気付いた…


 なぜなら、ナオキは、私に頭が上がらない…


 それを、見て、私をうまく取り込み、FK興産の買収の際に、私にうまく、ナオキを説得させようと、思っていたのでは、ないか?


 そんな和子の目論見に今さらながら、気付いた…


 気付いたのだ…


 そして、そう考えれば、和子が、なぜ、私をこの伸明のお嫁さん候補のように、扱っているのかも、よくわかる…


 私を伸明のお嫁さん候補のように、扱って、私を信用させ、FK興産の買収の買収に際して、藤原ナオキを、説得させる…


 おそらく、それが、目的…


 五井の女帝、諏訪野和子の目的だ…


 私は、今さらながら、そんなことに、気付いた…


 寿綾乃、32歳…


 自分では、それなりに、これまで、修羅場をくぐって来たつもりだった…


 が、


 きっと、和子から、見れば、赤子…


 私は、赤子同然だったに違いない…


 実に、操りやすい人間だったに違いない…


 そんなことに、今さらながら、気付いた…


 自分の愚かさに、気付いた…


 これは、ちょっと、ショック…


 ショックだった…


 が、


 一寸の虫にも五分の魂という言葉がある…


 和子の思い通りになってたまるか!


 という、気持ちが、沸いてきた…


 寿綾乃、


 いや、


 矢代綾子とて、意地がある…


 たとえ、相手が、五井の女帝だとしても、そうやすやすと、相手の思い通りになってたまるか!


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


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