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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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64/122

寿綾乃という女 第3部 64

私は、長谷川センセイの後について、歩いた…


 長谷川センセイは、緊張していた…


 明らかに、緊張していた…


 それは、長谷川センセイの後について、歩いている私にも、わかった…


 緊張している様子が、手に取るように、わかった…


 私は、なぜ、長谷川センセイが、これほど、緊張しているのか、わからなかった…


 ただ、緊張している様子が、長谷川センセイの背後にいる私からでも、わかった…


 なんとなく、長谷川センセイのカラダが、ぎこちないのだ…


 ロボットでは、ないが、ギクシャクしているのだ…


 いや、


 ロボットとまでは、いわなくても、病人みたいとでも、言えば、いいのか?


 病人といっても、末期でも、なんでもない、回復途上の病人とでも、いうか…


 一見、普通に見えるが、どこか、動きがおかしい…


 ぎこちない…


 そんな感じだった…


 そして、私は、そんなロボットのような、どこか、ギクシャクした長谷川センセイの後について、歩いた…


 五井記念病院内を歩いた…


 歩いて、伸明のいる、VIPの病室を目指した…


 伸明のいる、VIPの病室は、当たり前だが、ホテルのスイートルーム同様の最上階にあった…


 五井記念病院の最上階の最も、眺めの良い部屋だった…


 伸明のいる、部屋の前には、守衛がいた…


 守衛=警備員が立っていた…


 しかも、二人…


 それも、スーパーや、どこかで、見るようなシルバー世代の老人では、ない…


 三十代ぐらいの屈強な男たちだった…


 明らかに、武道の心得があるように、見える…


 だから、警備員というより、ボディーガードのようにも、見えた…


 私の目には、まるで、伸明を護衛するボディーガードのように、思えた…


 そのボディーガードに、


 「…この五井記念病院に勤める長谷川です…ただいま、寿綾乃さんを、連れて来ました…」


 と、長谷川センセイが、丁寧に、挨拶した…


 そして、


 「…事前に、諏訪野伸明氏には、連絡済みです…」


 と、付け加えた…


 …連絡済み?…


 …って、ことは、長谷川センセイは、伸明さんと知り合い?…


 …長谷川センセイは、伸明さんと連絡が取れる仲なの?…


 …そんなに、親しいの?…


 一瞬にして、そんな、さまざまな疑問が、私の脳裏に浮かんだ…


 が、


 長く考えている時間は、なかった…


 守衛二人が、私と長谷川センセイを病室に招き入れたからだ…


 私は、長谷川センセイの後について、病室に入った…


 そこには、伸明がいた…


 夢にまで、見た伸明がいた…


 いや、


 夢にまで見たというのは、言い過ぎ…


 現に夢で、伸明を見たことは、一度もない…


 しかしながら、ずっと、伸明と会いたかったのは、事実…


 紛れもない事実だった…


 その伸明が、今、目の前にいる…


 だから、これは、夢…


 まさに、夢だった…


 「…寿さん…」


 私の顔を見るなり、伸明が、言った…


 「…お久しぶりです…」


 伸明が、言う…


 私は、その姿を見て、驚いた…


 伸明は、病人の恰好をしていなかったからだ…


 まったくの、普段着だった…


 だから、その姿を見て、あらためて、伸明は、仮病というか…


 汚職政治家同様、病気を名目に、この五井記念病院に逃げ込んだと、思った…


 あらためて、確信した…


 そして、私が、そんなことを、思っていると、


 「…長谷川センセイ…ありがとうございます…」


 と、伸明が、長谷川センセイに、声をかけた…


 長谷川センセイは、


 「…いえ、とんでもありません…」


 と、返した…


 私は、とっさに、


 「…お知り合いですか?…」


 と、伸明に聞いた…


 「…寿さんの主治医としてね…」


 と、伸明が、茶目っ気たっぷりに、言った…


 「…私の主治医として…」


 「…そうです…それ以上でも、それ以下でもない…」


 長谷川センセイが、答える…


 「…以前、寿さんが、この五井記念病院に入院しているときに、長谷川センセイとお会いしました…」


 伸明が、言う…


 「…それ以上でも、それ以下でも、ありません…」


 伸明が、たった今、長谷川センセイが言った言葉と同じ言葉を言った…


 と、いうことは、やはり、伸明は、この長谷川センセイが、五井一族だということは、知らない?…


 長谷川センセイが、五井西家の血を引いていることを、知らない?…


 と、思ったが、聞くことは、できなかった…


 なぜって、私は、門外漢とでも、呼ぶべき存在…


 五井の一族でも、なんでもないからだ…


 だから、聞くことは、できなかった…


 が、


 知りたい…


 それは、事実…


 事実だった…


 抑えられない事実だった…


 だから、私は、無言で、二人を見た…


 長谷川センセイと、伸明を、交互に見た…


 すると、二人とも、私の意図に気付いたようだった…


 とりわけ、伸明は、私の意図に、すぐさま、気付いたようだ…


 「…寿さん…そんなに、ジロジロ見ないで、下さい…」


 と、伸明が、抗議する…


 「…そんなに、見ても、なにもありませんよ…」


 私は、それでも、無言で、伸明と、長谷川センセイを見比べた…


 すると、伸明は、


 「…やめて、下さい…」


 と、繰り返した…


 が、


 私は、やめなかった…


 二人というより、そんな発言をした、伸明を、見続けた…


 すると、さすがに、伸明も、なにも、言わなくなった…


 無言で、私を、見つめ返した…


 どうして、そんなに、ボクを見るのか?


 わけが、わからないと、言った様子だった…


 が、


 そんな伸明に、長谷川センセイが、助け舟を出した…


 「…きっと、寿さんは、藤原さんのことを、怒っているんだと、思います…」


 長谷川センセイが、伸明に告げる…


 「…藤原さん? …藤原ナオキさん?…」


 「…そうです…」


 長谷川センセイが、言う…


 「…藤原さんの会社を、五井が、乗っ取ろうとしている…それで、寿さんは、諏訪野さんを、怒っているんだと、思います…」


 長谷川センセイが、私の心境を推し測って、告げる…


 が、


 実は、私は、そんなことは、考えてなかった…


 これっぽっちも、考えてなかった(苦笑)…


 私が、今、考えていたのは、二人の関係…


 あくまで、伸明と長谷川センセイの関係だ…


 長谷川センセイは、五井一族…


 血が薄いとは、いえ、五井西家の血を引いている…


 それを、伸明が、知っているか、否か?


 さらには、それを、知っているからこそ、長谷川センセイと伸明は、特別に親しい関係なのか、否か?


 要するに、二人の距離感を知りたかった…


 この二人が、どれだけ、親しいのか?


 知りたかった…


 なにしろ、今、この五井記念病院のVIPの病室に、簡単に入れたのだ…


 入口に屈強なボディーガードがいる病室に、簡単に入れたのだ…


 当然、伸明の許可がいる…


 当たり前だが、事前に長谷川センセイが、伸明に、私を連れて来ることを、伝え、入室する許可を、伸明から、得た…


 だから、簡単に入れた…


 許可を得なければ、あの屈強な守衛に、拒否されただろう…


 決して、この病室に入れてくれなかっただろう…


 さっきの会話からも、それが、わかる…


 つまりは、普通に考えれば、それほど、親しい関係に見える…


 だから、二人の距離感が、気になった…


 気になったのだ…


 ナオキよりも、気になった…


 いや、


 当然、ナオキのことは、気になる…


 この伸明が、ホントに、ナオキから、FK興産を取り上げようとしているのか?


 気になる…


 が、


 今は、それよりも、眼前の二人の関係の方が、気になった…


 そういうことだ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…藤原さんの会社、FK興産の買収は、ボクの意思じゃない…」


 と、突然、伸明が、言った…


 「…ウソ!…」


 思わず、叫んだ…


 反射的に、叫んだ…


 例えば、誰かから、右の頬を殴られたら、考えることなく、反射的に、相手の頬を殴り返す…


 それと、同じだ…


 「…ウソじゃない!…」


 と、これも、伸明が、すぐに返した…


 私が、反射的に返したのと、同じ…


 同じように、すぐに、返した…


 「…でも、寿さんが、そう、思うのは、わかる…」


 「…わかる?…」


 「…ですが、誤解です…」


 「…誤解?…」


 「…そう…誤解です…ボクは、藤原さんの会社を乗っ取ろうと、したことは、ありません…」


 伸明が、気色ばんで、言う…


 私は、


 …それって、本当?…


 と、思った…


 が、


 しかし、それを、口にすることは、できなかった…


 それは、伸明の表情が、必死だったから…


 必死になって、否定したからだ…


 だから、できなかった…


 伸明の言葉が、ホントか、どうかは、わからない…


 しかしながら、一方が、


 「…ウソ!…」


 と、言い、もう一方が、


 「…ウソじゃない!…」


 と、否定する…


 これでは、らちが明かない…


 「…ウソ!…」


 「…ウソじゃない!…」


 と、いつまで、経っても、言葉の応酬を繰り返すだけだ…


 だから、私は、なにも、言わなかった…


 押し黙った…


 するとだ…


 伸明が、


 「…寿さんの気持ちはわかります…」


 と、勢い込んで、言った…


 「…わかる? …私の気持ちが? …どうして、わかるんですか?…」


 私は、伸明に食ってかかった…


 「…寿さんは、藤原さんの秘書だった…社長秘書だった…それに、事実上、寿さんは、藤原さんの公私共にパートナーだったんでしょ?…」


 伸明が、言う…


 私は、なんと、答えて、いいか、わからなかった…


 たしかに、その通りなのだが、それを、面と向かって、伸明に言われたことは、なかった…


 だから、驚いたと、同時に、返答に困った…


 どう答えて、いいのか、困った…


 これから、もしかしたら、伸明と結婚するかも、しれない…


 もしかしたら、結婚できるかも、しれない、伸明の前で、過去の男のことを、アレコレ言われるのは、困る…


 実に、困った事態だった(苦笑)…


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