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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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63/122

寿綾乃という女 第3部 63

すでに、何度も説明したように、五井家の先代当主、建造は、現当主、伸明と血の繋がりがなかった…


 建造の妻、昭子が、建造と結婚したときに、すでに、伸明を身籠っていたからだ…


 つまり、伸明の父親は、別にいる…


 だから、親子とは、いえ、血の繋がりがなかった…


 にもかかわらず、建造は、自分の実の息子である、次男の秀樹より、伸明を優遇した…


 伸明を可愛がった…

 

 それは、以前、建造が、秀樹に対して、自分の中の嫌なものを、見た気がしたのでは?


 と、思った…


 嫌なものとは、性格や、ルックス…


 秀樹は、背も低く、ルックスも、平凡だった…


 それは、異父兄の伸明とは、似ても似つかぬ外観だった…


 建造もまた、小柄な外観の平凡なルックスの持ち主だった…


 だから、建造と秀樹は、似ている…


 顔立ちこそ、違えども、体形が、似ている…


 そして、秀樹は、見た目は、ひとの良さそうな人物に思えたが、建造は、そうではないと、私とナオキに警告した…


 抜け目なく、上昇志向が、異常に強いと、私とナオキに、告げた…


 私は、当時、それが、本当か否か、わからなかった…


 が、


 伸明に対抗して、五井家の当主にならんとする姿を見て、それが、本当だと、知った…


 こういっては、なんだが、伸明と秀樹では、比較にならない…


 伸明は、長身のイケメン…


 秀樹は、背も低く、ルックスも平凡だからだ…


 だが、建造の言うように、上昇志向が強かったのだろう…


 異父兄の伸明を差し置いて、五井家の当主にならんと、欲した…


 そして、それが、できないと、わかると、自死した…


 きっと、五井家の後継者争いに敗れた後の、自分の処遇が、怖かったのだろう…


 当たり前だが、当主争いに敗れた者が、五井家にいるのは、マズい…


 騒動の火種が、くすぶり続けることになる…


 だから、早々に、排除しなければ、ならない…


 五井家から、追放しなければ、ならない…


 おそらく、本人も、その末路がわかっていたのだろう…


 だから、それに、耐えきれなくなり、自ら、命を絶った…


 そういうことだろう…


 話が、少々、脱線した…


 ここで、言いたかったのは、なぜ、建造が、実の息子の秀樹ではなく、血が繋がっていない、伸明を選んだか?


 だ…


 私は、それは、以前、建造が、秀樹の中に、自分と同じ嫌なものを見たのでは?


 と、思った…


 嫌なものとは、自分の持つ、ずるさとか、上昇志向とか…


 いみじくも、建造が、私やナオキに警告したものだ…


 それを、見て、建造は、秀樹を嫌った…


 自分の後継者にふさわしくないと、思ったと、考えた…


 そして、それは、おそらく建造が、持つ性格…


 私やナオキの前では、決して見せない性格かも、しれなかった…


 建造は、見るからに人当たりがよく、偉ぶらない男だった…


 が、


 今、振り返ってみると、それは、秀樹も同じだった…


 同じように、見えた…


 そして、血の繋がった実の父子だからこそ、秀樹の本性が見えた…


 真逆に言えば、建造もまた同じ…


 秀樹と、同じだったのだろう…


 そして、自分の嫌な部分を必死になって、抑え込んだのだろう…


 あるいは、必死になって、隠したのだろう…


 それが、秀樹には、できなかった…


 だからこそ、自分と血が繋がっているにも、かかわらず、後継者から外した…


 そういうことかも、しれない…


 五井家の当主が、ずる賢く、上昇志向が、強ければ、五井グループが道を誤るかも、しれないからだ…


 それを、恐れたのかも、しれない…


 一方、伸明は、秀樹とは、真逆…


 野心も、なにもない…


 それは、接すれば、わかる…


 だからこそ、五井家の当主にふさわしい…


 建造は、そう思ったのではないか?


 伸明は、五井家の天皇陛下…


 天皇陛下が、性格が悪く、上昇志向が、人並み外れて、激しければ、困る…


 天皇陛下は、なにより、無欲でなければ、ならない…


 欲があっては、ならない…


 なぜなら、自分の欲を優先すれば、天皇陛下も、そんな人間だったの?


 と、周囲に思われてしまいかねないからだ…


 だから、極力、自分の欲望を抑えなければ、ならない…


 そして、それは、伸明も同じ…


 伸明は、五井の天皇陛下からだ…


 だから、欲がない方がいい…


 そして、それを、見抜いたからこそ、建造は、血が繋がっていないにも、かかわらず、伸明を後継者に指名したと、思った…


 が、


 今回、伸明が、自分の当主就任のために、FK興産を買収して、自分の手柄にしたいと、すれば、建造の目に狂いがあったことになる…


 さて、真相は、どうなのか?


 私は、思った…


 私は、考えた…


 果たして、伸明は、FK興産を手に入れて、自分の手柄にしたいと、思ったのか?


 考えた…


 そして、もし、伸明が、自分の当主就任に際して、そんなことを、するなら、建造の目論見が外れたことになる…


 建造は、伸明が、無欲だから、五井家の次期当主に推したと、思った…


 が、


 それが、違った?


 建造の目が狂っていた?


 そうも、思った…


 思ったのだ…



 長谷川センセイから、連絡があったのは、それから、まもなくだった…


 自宅にいる、私のスマホに連絡があった…


 「…寿さんですか?…」


 「…ハイ、そうですが…」


 と、答えながらも、すでに、電話の相手が、長谷川センセイであることが、わかった…


 声で、わかった…


 「…長谷川です…五井記念病院の…」


 「…ハイ…声で、わかりました…」


 「…なら、話が早い…」


 「…」


 「…明日、五井記念病院にやって来て下さい…」


 「…明日ですか?…」


 「…そうです…」


 「…随分、急ですね…」


 「…そうですが…寿さん、なにか、用事はありますか?…」


 「…いえ、別に…」


 言いながら、なにか、変だ?


 と、思った…


 勘が働いたとでも、言うべきか?


 が、


 まさか、そんなことは、口に出せない…


 まさか、そんなことを、言えば、私の虫の居所が悪かったとでも、相手は、思うだろう…


 別段、理由がなく、相手の誘いを断るわけには、いかないからだ…


 だから、


 「…ハイ…承知しました…」


 と、答えた…


 「…そうですか…安心しました…」


 長谷川センセイが、言う…


 …安心?…


 長谷川センセイの言葉が、引っかかった…


 …一体、なにを、安心するんだろ?…


 考えた…


 考えながら、私は、翌日、五井記念病院に向かった…


 そして、ロビーで、長谷川センセイと待ち合わせた…


 「…寿さん…お待ち申し上げていました…」


 長谷川センセイが、嫌に丁寧に、私に接した…


 私は、嫌な気持ちだったが、まさか、それを口にするわけには、いかない…


 「…長谷川センセイ…そんな丁寧な言い方…まるで、私に変な下心があるみたいですよ…」


 と、笑って言った…


 「…下心ですか? …それは、寿さんのような美人なら、男なら、誰でも、持ちます…」


 「…ウソですね…」


 「…どうして、ウソなんですか?…」


 「…長谷川センセイは、すでに、何度も、私のカラダを見ています…裸の私を見ています…いまさら…」


 「…いまさら…ですか?…」


 「…そうです…」


 笑って、言った…


 また、そうでも、しないと、深刻な話になりかねない…


 それが、嫌だった…


 嫌だったのだ…


 そして、これは、知恵…


 私、寿綾乃が、身に着けた知恵だった…


 男の誘いをうまく断る知恵だった…


 はばかりながら、この寿綾乃も、男に言い寄られたのは、一度や二度ではない…


数え切れないほど、ある(爆笑)…


 それでも、最初のうちは、どうすれば、よいか?


 迷った…


 考えた…


 若いうちは、


 「…ごめんなさい…」


 とか、


 「…今、お付き合いしているひとが、いるので…」


 とか、


 「…まだ、男のひとと付き合う気持ちはありません…」


 とか、言って、断ることが、多かった…


 が、


 歳を重ねるごとに、柔軟性が増したというべきか?


 笑いに変えるのが、一番だと、気付いた(苦笑)…


 相手が、ホテルに誘っても、


 「…冗談が、お上手ですね…」


 と、でも、言えば、相手も傷付かない…


 相手も、まともな大人の男なら、


 「…そう…冗談です…」


 と、でも、返せば、いい…


 それなら、相手のプライドも、保たれる…


 相手のプライドを傷つけなくて、すむ…


 それが、わかってきた…


 ボクシングではないが、正面切って、相手が殴りかかってきたら、自分も避けることなく、正面から、相手に殴りかかる…


 これは、観客からすれば、見ていて、面白いが、やっている人間は、たまったものではない…


 普通は、避けるものだ…


 相手のパンチを避けるものだ…


 相手のパンチを避けて、自分のパンチを当てる…


 これが、正しい…


 が、


 これが、男女の間では、難しい…


 相手が、誘いというパンチを繰り出したときに、自分は、どう対応するか?


 ハッキリと、


 「…お断りします…」


 と、言えば、あっさりとして、気持ちがいいが、相手の感情を逆撫ですることにも、なりかねない…


 それ以降、自分に対して、逆恨みして、


 「…あの女は、ヤリ〇ンだ…誰とでも、寝る女だ…」


 などと、根も葉もない噂を立てられでも、したら、たまったものではない…


 下手をすれば、会社にいられなくなる…


 だから、冗談にする…


 そうすれば、相手が、傷つかなくて、済むからだ…


 「私が、ご冗談ですよね…」


 と、言って、相手も、


 「…冗談です…」


 と、でも、言えば、場が収まるというか…


 ことが荒立たなくて済む…


 そういうことだ…


 要するに、


 「…嫌だ…」


 「…そんな気はない…」


 と、いうのを、言葉を変えただけ…


 ただ、それだけのことなのだが、ハッキリと、


 「…お断りします…」


 と、言われるより、マシ…


 言葉にされるより、マシだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 事実、長谷川センセイは、なにも、言わなかった…


 もう、なにも、言わなかった…


 私を誘うことは、なかった…


 後になってみれば、このとき、どうして、長谷川センセイが、そんなことを、口にしたのか?

 

 わからなかった…


 もしかしたら、寿命…


 私が、この後、長くないと、思ったのかも、しれない…


 だから、今のうちに、私と寝なければ、もう後はない…


 そう、思ったのかも、しれない…


 が、


 本当のところは、わからない…


 長谷川センセイが、なにを、考えていたのか、わからない…


 これは、永遠の謎だった…


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