↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/122

寿綾乃という女 第3部 57

が、


 これは、好都合…


 実に、自分に好都合かも、しれないと、気付いた…


 なにが、好都合かと、言えば、この五井記念病院で、一人でも、多くの、私の味方を作ること…


 それが、できるかも、しれないと、気付いた…


 もちろん、長谷川センセイは、重要…


 重要だ…


 が、


 しかしながら、一人でも、多くの味方というか、協力者が、いた方が、都合が良い…


 なにかと、都合が良いと、気付いた…


 もちろん、研修中の看護師だ…


 こういっては、なんだが、長谷川センセイとは、身分が、違う…


 身分が、違うというのは、もしかしたら、例えば、諏訪野伸明が、いるに違いないVIPの病室に行けるか、否か…


 この五井記念病院の医師で、この病院に勤務していると、言えば、顔パスで、入れるかも、しれないが、研修生では、難しい…


 そういうことだ…


 しかしながら、いないよりマシ…


 失礼ながら、いないよりマシだった…


 一人でも、多く、協力者が、いた方が、いい…


 仮に、長谷川センセイに、聞けないことや、長谷川センセイに断られても、この彼女に頼めば、なんとか、なるかも、しれないことが、もしかしたら、あるかも、しれないからだ…


 もちろん、現実は、そんなふうに、都合が良くいくとは、限らない…


 しかしながら、一人でも多く、協力者がいた方が、都合がいいのは、確かだった…


 だから、眼前の彼女を見て、


 「…アナタ…お名前は?…」


 と、聞いた…


 私が、いきなり、名前を聞いたから、相手は、ビックリしたようだ…


 だから、


 「…いえ、こんなに長くお話をしているのに、名前を知らないのは、なんだか、申し訳なくて…」


 と、付け加えた…


 すると、笑いながら、


 「…長井です…」


 と、答えた…


 それから、


 「…この看護師のユニフォームに名札がありますよ…」


 と、笑った…


 …エッ?…


 内心、焦った…


 言われてみれば、当たり前…


 実に当たり前だった…


 すっかり見るのを忘れていた…


 バカといえば、バカ…


 愚かと言えば、愚か…


 こんな簡単なことに、気付かないなんて…


 が、


 私に言わせれば、理由がある…


 それは、顔…


 この長井という名前の彼女が、顔=ルックスの話ばかりするから、つい、彼女の顔ばかり、見てしまっていた…


 つい、他の場所は、一切見ず、顔ばかり見てしまった…


 なんと愚かな…


 自分で、自分に呆れた…


 心底、呆れた…


 こんな調子では、これから先が、思いやられる…


 自分で、自分の先行きに思いやられる…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 すると、目の前の長井さんが、


 「…でも、これで、安心しました…」


 と、笑った…


 …安心?…


 …なにを、安心したんだろ?…


 意味がわからなかった…


 だから、


 「…安心って?…」


 と、私は、聞いた…


 聞かずには、いられなかった…


 「…男のひとのことですよ…」


 長井さんが、笑った…


 「…男のひと?…」


 「…だって、寿さん…今、おっしゃったでしょ?…」


 「…なにを、私が、言ったの?…」


 「…ルックスは、重要だけれども、入り口に過ぎないって…」


 「…」


 「…大切なのは、性格って…」


 「…」


 「…つまり、それは、私にも、チャンスがあるってことですよね…」


 「…そう…そうね…」


 曖昧に返答した…


 「…っていうか、運よ…」


 「…運…ですか?…」


 「…世の中、なるようにしか、ならない…そういうことよ…」


 私は、投げやりに、言った…


 自分でも、意外だった…


 自分でも、なんで、こんな投げやりに言ったのか?


 わからなかった…


 が、


 彼女は、わかったようだ…


 一瞬にして、真面目な看護師の顔になった…


 そして、すぐに、


 「…すいません…」


 と、私に詫びた…


 「…寿さん、ご病気だったのを、忘れてました…」


 と、付け加えた…


 とっさに、私の体調に思いを寄せたのだろう…


 さすがだった…


 私が、美人うんぬんというより、

 

 「…世の中、なるようにしか、ならない…そういうことよ…」


 と、投げやりに言ったことで、自分の体調に言及したと思ったのだろう…


 いかに、美人に生まれても、この先、余命いくばくもなければ、そんなことは、どうでも、よくなる…


 いかに、平凡に生まれようと、健康でいるのが、一番だからだ…


 そう、私が、言いたいと、思ったのだろう…


 私が、癌にかかっているのを、この娘は、知っている…


 前回、長谷川センセイの検診を受けたとき、いっしょに、いたからだ…


 もう一人の女性と、いたからだ…


 おそらく、彼女もまた、眼前の長井と名乗った娘と同じく研修生なのだろう…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 だから、


 「…そういえば、長井さん…この間、私が、長谷川センセイに、診てもらったときに、長井さんと、いっしょにいた方…彼女も研修生?…」


 と、聞いた…


 話題を変えたかったからだ…


 いつまでも、ルックスうんぬんの話を、されては、困るからだ(苦笑)…


 が、


 突然、


 「…彼女は、もう辞めました…」


 と、言われて、絶句した…


 「…エッ?…」


 と、思わず、絶句した…


 「…ウソ?…」


 「…ホントです…」


 長井さんが、真顔で言う…


 「…この看護師って、仕事…キツイんです…」


 と、ぶっちゃけた…


 「…私は、大学を出て、大学のとき、奨学金をあちこちから、借りていたから、それを、返すために、辞めるわけには、いかないんです…」


 彼女の言葉に、


 「…」


 と、絶句した…


 「…」


 と、言葉もなかった…


 「…ほら、仮に、私が、今、看護師を辞めても、奨学金を返すために、すぐに働かなきゃ、なりません…就職先も、すぐに、見つかるかどうか、わかりませんし、それなら、このまま、看護師を続ければ、看護師の資格も取れるし…」


 と、続けた…


 私は、それを、聞いて、つくづく、大変だなと、思った…


 そして、ハッキリ言えば、同情した…


 この若さで、奨学金の返済に苦労するとは…


 私は、大学も出ていないし、奨学金の返済が、毎月、どれぐらいか、わからない…


 そんなことは、考えたこともないからだ…


 ジュン君は大学生だったが、親が、金持ちだった…


 父親が、ナオキだったから、お金があった…


 なんといっても、藤原ナオキは、従業員千人の会社のオーナー社長…


 おまけに、株式を公開したから、金は、何百億円とある…


 もっとも、その大半が、ナオキが、オーナー社長として、持っている、FK興産の株の価値に過ぎないが(苦笑)…


 いずれにしろ、金持ちに変わりはない…


 だから、この長井さんのようなケースは、考えたことが、なかった…


 なぜなら、私の身近に、これまで、そんな体験をした人間が、いなかったからだ…


 いや、


 あるいは、いたのかも、しれない…


 FK興産でも、大卒の社員は、多い…


 っていうか、今は、それが、主流だ…


 しかしながら、そんな話は、今まで、聞いたことが、なかった…


 きっと、それは、ただ、私が、聞いたことがないだけ…


 きっと、今の彼女のように、奨学金の返済に、四苦八苦している人間は、いたに違いない…


 男女を問わず、いたに、違いない…


 そして、それを、思えば、私は、幸運…


 実に、幸運だった…


 実に、恵まれていた…


 高校時代に、ナオキと会い、ジュン君と三人で、暮らした…


 何度もいうように、ユリコが、失踪したからだ…


 ナオキの妻であり、ジュン君の母親である、ユリコが、突然、失踪したからだ…


 だから、私は、急遽、ユリコの代わりに、ナオキとジュン君の家庭に入った…


 幼いジュン君の面倒を見るためだ…


 たしかに、苦労は、したが、そこに金銭的な苦労は、なかった…


 生活の苦労は、なかった…


 決して、お金に恵まれているわけでは、なかったが、日々の生活に困ることは、なかった…


 だから、恵まれていると、思った…


 眼前の彼女に比べて、恵まれていると、思った…


 そんなことを、考えると、つい、


 「…大変ね…」


 と、言った…


 言わずには、いられなかった…


 社交辞令では、なく、心の底から、気の毒と思った…


 が、


 眼前の彼女は、違った…


 全然、へこたれた様子はなかった…


 「…それは、大変と、言えば、大変ですけど、私より、ずっと多くの諸学金を毎月、返さなきゃ、いけない友達も、いっぱい知ってますよ…」


 と、あっけらかんと、言った…


 「…だから、そのひとたちに、比べれば、私は、マシな方です…」


 と、力を、込める…


 「…それに…」


 と、言って、言葉を止めた…


 「…それに、なに?…」


 「…ほら、私、今、ずっと、ここで、寿さんと、話しているでしょ?…」


 「…ええ…」


 「…それは、彼女のおかげなんです…」


 「…どういう意味?…」


 「…彼女が、すぐに辞めちゃったから、この病院も、気を使ってくれて、休み時間をいっぱいくれたんです…だから、ここで、寿さんと、話していられる…」


 彼女が、苦笑した…


 「…もっとも、研修期間が終われば、こんなふうには、いかないと、思いますが…」


 と、笑った…


 私は、それで、どうして、彼女が、こんな長時間、私と長話をしていられるのか?


 合点がいった…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…でも…」


 と、ちょっと、言いづらそうに、言った…


 が、


 それ以上は、口にしない…


 私は、だから、つい、


 「…なに?…」


 と、聞いた…


 聞かずには、いられなかった…


 「…ほら、ここに勤務していると、若くても、病気になられた方が、たくさんいらっしゃいます…それに比べれば、健康な私は、恵まれているって…」


 実に、言いづらそうに、言う…


 途端に、私のことだと、気付いた…


 私、寿綾乃のことだと、気付いた…


 …たしかに、その通り…


 …その通りかも、しれない…


 健康に代わる、ものは、なにもない…


 健康が、一番…


 生きてゆく上で、一番大事…


 健康に勝るものは、なにひとつない…


 これは、私が、病気持ちだから、わかる…


 癌という病気持ちだから、心の底から、実感する…


 そして、それを、思えば、人生は、公平…


 公平だ…


 私は、田舎で、母と二人暮らしだったときは、お世辞にも、裕福とは、いえない暮らしだったが、従妹の寿綾乃になりすまして、上京してからは、金銭的な苦労は、最初だけ…


 ナオキと出会ったからだ…


 だから、最初を除けば、お金に苦労したことはない…


 現に今、億ションで一人暮らしだ…


 が、


 その反動というか、寿綾乃になりすました報いというか…


 今、癌に苦しんでいる…


 だから、辻褄が合うというか…


 人生は、公平なのかも、しれないと、思った…


 どんな美人やイケメンに生まれても、恵まれた人生を、送れる人間は、一握り…


 いくら頭が良く生まれても、その頭の良さを生かして、人生で成功する人間は、ごく一握りに過ぎない…


 誰もが、大半は、平々凡々な人生を歩んでゆく…


 そして、私は、これまで、少しばかり、人様より、恵まれた人生を過ごしたのかも、しれないが、今は、癌になり、癌に苦しめられている…


 だから、それを、思えば、公平…


 誰もが、大抵が、恵まれた人生は、送れない…


 この私も、そう…


 そうだ…


 だから、そういう意味では、人間は、公平かも、しれない…


 今さらながら、そう、気付いた…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。