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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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53/122

寿綾乃という女 第3部 53

やはり、長谷川センセイしか、いない…


 伸明に会うために、手配してもらうのは、長谷川センセイしか、いない…


 あらためて、そう、考えた…


 が、


 そう、考えて、気付いた…


 あの長谷川センセイ…


 長谷川センセイが、語るには、自分は、たしかに、五井西家出身だが、血が薄いと、言っていた…


 だから、厳密には、ただ先祖が、五井西家出身と、言っているだけ…


 自分自身は、私が、五井記念病院に入院して、伸明が、私を見舞いに来てくれるまで、伸明と面識がないと、言っていた…


 つまりは、それほど、関係が、希薄ということ…


 血が薄いと言っていた…


 それは、例えれば、皇室を思い浮かべればいい…


 旧皇族…


 第二次世界大戦前まで、皇族だったひとたちが、一堂に集まる会が、あると、聞いたことがある…


 つまりは、先祖が、皇族だった者たちが、一堂に集まる会だ…


 しかしながら、日本が戦争に負けて、当時、皇族だった方たちが、皇族でなくなったのは、80年も昔…


 その方たちの子孫が、全員、旧皇族が集まる会に出席できるはずもない…


 出席できるのは、限られたひとたちだけ…


 ハッキリ言えば、その当時、皇族だった方たちの直系の子孫たちだけだろう…


 傍流のひとたちは、出席できないだろう…


 傍流というのは、当時、皇族だった方たちの次男、三男や、次女、三女たちの子孫たち…


 もっと、具体的に言えば、例えば、当時、皇族だった方たちの次男や次女に生まれて、その方たちが、子供を作り、その方たちの息子や娘たちの次男や次女の子孫たち…


 つまりは、当時の皇族だった方たちの当主から、見て、子孫が増えていき、直系から、離れてゆく…


 例えば、三女の娘で、その三女だったり、さらには、その三女の産んだ次男だったり…


 そんな具合だ…


 だから、今現在、旧皇室の当主から、見れば、見たことも、聞いたこともない、一族の人間も、それなりにいるだろう…


 あの長谷川センセイは、自分は、そういう存在だと、言っていた…


 だから、今の五井西家の当主も、自分のことは、知らないだろうとも、言っていた…


 つまりは、それほど、血が薄い存在だと、言っていた…


 五井西家から、遠い存在だと、言っていた…


 だから、ハッキリ言えば、五井の一族といえども、長谷川センセイは、傍流の傍流…


 そんな長谷川センセイが、伸明と面識があるはずが、なかった…


 だから、私が、入院して、伸明が、見舞いにやって来たから、初めて、伸明に会った…


 五井家の若き当主に会った…


 その言葉は、ウソでは、ないだろう…


 私は、考えた…


 が、


 それでも、やはり、頼るべきは、長谷川センセイしか、いなかった…


 諏訪野マミに頼れない以上、長谷川センセイしかいなかった…


 あのマミさんは、なぜか、


 「…これ以上、五井に関わっては、ダメ…」


 と、私に釘を刺した…


 「…これ以上、寿さんが、五井に関われば、寿さんが、不幸になる…」


 と、警告した…


 が、


 なぜ、マミさんが、そんなことを、言ったのか?


 それは、謎…


 わからない…


 が、


 あのマミさんが、ウソを言うはずがない…


 私は、マミさんが、好き…


 だから、マミさんも、私が好き…


 これは、決して、私の思い違いではないと、思う…


 だから、きっと、マミさんが、言ったのは、心から、そう思っているから…


 心の底から、そう思っているからこそ、私に警告したのだと、思う…


 そもそも、同性同士、あるいは、異性同士でも、一方が、もう一方を、一方的に好きというのは、ありえない…


 異性同士ならば、最初はありえる…


 とりわけ、男でも、女でも、ルックスが良ければ、異性にモテるから、一方的に、相手に好かれることは、ありえる…


 しかしながら、それは、最初だけ…


 普通は、長続きしない…


 自分が、いくら好きでも、相手が、振り向かなければ、大抵は、諦めるからだ…


 だから、片思いは、長く続かない…


 そして、同性の場合…


 これは、もっと、わかりやすい…


 単純に、自分が、相手を嫌いな場合は、相手も、自分を嫌い…


 真逆に、自分が、相手を好きな場合が、相手も、自分が好き…


 そういうことだ…


 これは、実に、シンプル…


 シンプルだ…


 そして、それが、私とマミさんの関係だった…


 だから、私を心配してくれる、マミさんには、悪いが、伸明と会わずには、いられなかった…


 伸明と会って、ナオキと連絡が、取りたかった…


 正直、伸明に会うのが、目的ではない…


 伸明に会って、ナオキと連絡を取るのが、目的だ…


 とにかくナオキと連絡を取るには、伸明に会うしかない…


 そう、思ったからだ…


 しかしながら、それは、マミさんの警告を無視することになる…


 マミさんが、どういう真意で、私に、


 「…これ以上、五井に関わってはダメ!…」


 と、警告したのかは、わからないが、マミさんの警告を無視するのは、やはり、心が引ける…


 マミさんの警告は、私のことを、思って言ってくれたに違いないからだ…


 だから、それを、思えば、心苦しかった…


 伸明に是か非でも、会おうとする自分の行動が、心苦しかった…


 が、


 しかし、伸明に会うことを、止めることは、できなかった…


 そして、伸明に聞きたいこともあった…


 FK興産のことだ…


 あのユリコは、伸明が、この件で、FK興産を買収して、五井グループに組み込もうとしている、と、私に言った…


 五井家の当主に就任するに際し、伸明が、なんらかの実績が欲しいからだ…


 なんらかの手柄が、欲しいからだ…


 FK興産を買収して、五井グループの傘下に組み込んで、


 「…さすがは、五井家の当主…」


 と、周囲に見せたいからだ…


 ユリコは、伸明の目的をそう、告げた…


 そして、それが、本当か否か、ナオキに聞きたい…


 あるいは、伸明に聞きたい…


 いや、


 伸明に聞いても、本当のことを、言うか、どうかは、わからない…


 伸明に限らず、誰でも、自分に都合が悪いことや、自分に後ろめたいことが、あれば、本当のことは、言わないものだからだ…


 だから、むしろ、ナオキに聞きたい…


 どういう経緯で、伸明から、融資を受けたのか、知りたい…


 いや、


 それは、聞いても、仕方がないことかも、しれない…


 単純に考えれば、お金が必要だから、伸明に借りたのだろう…


 だから、問題は、伸明だ…


 伸明が、どういう気持ちで、ナオキに融資したか、だ…


 ナオキに頼まれたから、融資をした…


 それは、わかる…


 それは、理解できる…


 問題は、そのときに、下心があったか、どうか? だ…


 下心とは、ずばり、FK興産を乗っ取る意思があったか、否か?


 ナオキに頼まれたから、融資したのは、事実だとしても、そのときに、将来的にFK興産を乗っ取ろうと思ったのか、否か?


 FK興産を乗っ取って、自分の当主就任の実績にしたいと、思ったのか、否か?


 これが、問題だ…


 これが、知りたい…


 是が非でも、知りたい…


 あるいは、最初は、そんな気がまったく、なかったが、途中で気が変わった…


 途中から、FK興産を乗っ取ろうと思った…


 その可能性もある…


 その可能性も、捨てきれない…


 これは、思うに、男女間でも、同じ…


 同じだ…


 例えば、男が、女に、金を無心され、少額でも、お金を貸す…


 そして、そのときは、下心がまるでなかったが、途中で気が変わったというのは、誰でも、ありえる話…


 とりわけ、相手も女が、美人だったり、自分より、はるかに、若かったりすれば、お金を貸した当時は、なかった下心が、出来ても不思議ではない(笑)…


 伸明も、それと、同じかも、しれない…


 好意的に見れば、伸明も、それと、同じかも、しれない…


 最初は、ナオキに頼まれ、金を融資した…


 そのときは、そんな気はなかったが、途中で、FK興産を五井グループの傘下に収めようとした…


 そう、気が変わっても、おかしくはない…


 そういうことだ…


 が、


 ここまで、考えて、ハタと気付いた…


 まだ、伸明は、FK興産を買収すると、明言していないことに、気付いた…


 FK興産を買収すると、言ったのは、ユリコ…


 あのユリコだ…


 だから、ブラフ…


 ブラフ=ハッタリの可能性もある…


 あのユリコの言うことだ…


 どうにも、信用できない…


 心の底から、信用できない…


 が、


 全くのウソとも、断言できない…


 ユリコは、息子のジュン君が、私をクルマで、ひき殺そうとして、逮捕され、裁判にかけられた…


 その際に、私が、法廷に、出廷して、ジュン君を擁護した…


 ジュン君の運転するクルマに轢かれたにも、かかわらず、ジュン君を擁護した…


 そのおかげで、ジュン君の刑は、軽くなった…


 ジュン君の母親である、ユリコは、その件で、私に感謝した…


 心の底から、感謝した…


 これは、私も、信じられる…


 ユリコが、ジュン君を溺愛しているのは、まぎれもない事実だからだ…


 私が、ジュン君を擁護したことで、裁判官の心証が、良くなり、ジュン君の刑が、軽くなったのは、事実…


 誰の目にも、明らかな事実だからだ…


 ユリコは、それで、私に感謝して、そのお礼に、伸明の目的を私に教えた…


 だから、普通なら、ユリコの言うことは、信じないが、ジュン君が、関わったから、信じたというのが、正しい…


 ユリコは、ジュン君を溺愛している…


 そんなジュン君に関わることで、さすがのユリコもウソを言うはずが、ないと、思うからだ…


 だから、どうしても、ユリコの言葉を信じたくなる…


 なにより、ユリコの言葉が、真っ赤なウソだとも、思えない…


 荒唐無稽な話だとは、思えないからだ…


 だから、ユリコを信じる…


 いや、


 信じたくなるのだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


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