寿綾乃という女 第3部 52
いずれにしろ、伸明に会わなければ、ならない…
伸明に会って、真相を確かめなければ、ならない…
なにより、伸明に会って、ナオキのことを、聞かなければ、ならない…
これは、私の直観だが、伸明は、間違いなく、ナオキの居場所を知っている…
ナオキは、拘置所を出て、どこかに、雲隠れした…
ナオキが、拘置所を出て、どこかに、雲隠れするには、誰かの助けを借りなければ、ならない…
そして、それは、普通に考えれば、ナオキが、拘置所にいたときに、接見した弁護士を通じて、行ったであろう…
拘置所の中にいる、ナオキでは、なにも、できない…
だから、連絡係ではないが、接見した弁護士を通じて、やりとりをするしかない…
手筈を整えるしか、ないからだ…
そして、そんな手筈を整えるのに、伸明は、もってこい…
なにしろ、五井家当主だ…
人脈など、腐るほど、あるだろう…
だから、知っている人間を通じて、弁護士を派遣して、ナオキを助けた可能性が高い…
その可能性が一番高い…
そういうことだ…
だからこそ、伸明に会わなければ、ならない…
だからこそ、伸明に会って、ナオキのことを、聞かなければ、ならない…
そう、思った…
が、
では、どうするか?
現実的な問題が、残った…
伸明のケータイの電話番号は、知っている…
私のスマホに登録してある…
が、
いきなり、私が、伸明に電話をかけて、会いたいと言っても、会ってくれるか、どうかは、わからない…
むしろ、会ってくれないのではないか?
なぜか、そんな予感がする…
別段、理由はない…
だが、そんな予感がする…
それは、なぜか?
そう、思うのは、なぜか?
それは、伸明が、私とナオキの仲を知っているからだ…
以前、私とナオキが、付き合っていたことを、知っているからだ…
伸明が、ハッキリと、私に、
「…寿さんは、藤原さんと、付き合っていたんですか?…」
と、聞いたことはない…
が、
しかしながら、私とナオキのやりとりを見れば、わかる…
なんとなく、わかるというものだ(笑)…
仲がいいと、いうのは、はた目から、見ても、わかるものだ…
そして、どう、仲がいいのか?
それが、問題だ…
単なる友人同士なのか?
恋人同士なのか?
あるいは、兄弟姉妹なのか?
それが、問題だ…
が、
これも、ジッと観察していれば、大抵わかる…
とりわけ、どんなに仲が良くても、兄弟姉妹で、仲が良いのと、夫婦や恋人同士で、仲が良いのは、全然、違う…
ジッと、間近で、観察していれば、わかるものだ…
そして、問題は、私とナオキのように、かつて、恋人同士だった場合…
あるいは、かつて、夫婦だった場合だ…
この場合は、微妙…
距離感が、微妙だ(苦笑)…
以前、男女の関係にあったから、距離が近いのは、わかるが、それでも、今現在、すでに別れていれば、どこか、よそよそしいと、いうか…
どこか、距離を置いている…
が、
周囲から見れば、親しい間柄であることは、一目瞭然…
要するに、以前は、恋人同士あるいは、夫婦だったのが、今は、他人…
だから、少しばかり、距離を置いている…
そういうことだ…
そして、それが、私とナオキの関係…
以前は、事実上の夫婦だったが、今は、違う…
が、
それを、説明しても、伸明が、信じるか否か?
あるいは、理解できるか、否か?
それが、わからない…
ぶっちゃけ、ウソをついていると、思われても、仕方がないからだ…
だから、伸明が、私とナオキの関係をどう受けとっているかは、わからない…
本当のところは、わからない…
ただ、私から見ても、ナオキと伸明は、ウマが合った…
二人とも、長身のイケメンだが、どこか、陰があるというか…
要するに、陰キャラ…
オタクなのだ(笑)…
ナオキは、コンピュータおたく…
だから、IT企業を創業した…
そして、それは、伸明も同じ…
伸明の趣味は、聞いたことがないが、やはり、オタクに違いない…
だから、コンピュータおたくのナオキとウマが合うのだ…
そして、だからこそ、伸明は、私に対して、
「…寿さんは、藤原さんと、付き合っていたんですか?…」
と、直球で、聞いたことが、ないのかもしれない…
仲がいい、ナオキに遠慮したのかも、しれない…
また、伸明の性格…
生粋のお坊ちゃまだからだろう…
決して、自分から、前に出るタイプではない…
「…オレが…オレが…」
と、前にしゃしゃり出るタイプではない…
だからだろう…
思っていても、口に出さない…
態度にも、出さない…
要するに、生まれがいいからだろう…
他人を押しのけて、前に出ることが、できない…
ハッキリ言えば、昔で言えば、お殿様というか…
あくまで、自分は、誰かに紹介される立場の人間だからだ…
だから、奥手…
自分から、前に出ることができない…
これは、誰にでも、わかりやすい例えで言えば、天皇陛下を思い浮かべれば、いい…
天皇陛下が、誰かを押しのけて、前に出ることは、ありえない…
あくまで、誰かに紹介される立場…
伸明もそれと、同じ…
伸明は、五井の天皇陛下だからだ…
だから、前に出ることができない…
そして、おそらく、そんな環境で、育ったせいだろう…
それが、伸明が、前に出ることができない性格を作ったのだろう…
そして、もう一つは、生まれながらの気質…
おそらく、性格が、奥手なのかも、しれない…
だから、私と付き合っても、せいぜいキス止まり…
それ以上のことは、しない…
あるいは、できない…
なぜなら、相手が、嫌がるかも、しれないからだ…
その嫌がるかもしれない行為を相手にすることができない…
そして、それは、生まれながらの性格の良さにも、繋がる…
要するに、相手が、嫌がることが、できないのだ…
そういう性格で生まれ、そういう環境で、育ったのだろう…
今さらながら、伸明のことを、考えた…
そして、そう考えると、今さらながら、伸明のことが、心配になった…
誰かに、騙されているのでは?
と、心配になった…
何度もいうように、五井家の当主が、五井記念病院に身を隠すのは、あまりにも、安易だからだ…
そんなわかりやすい場所に隠れているのは、どう考えても、おかしい…
いや、
おかし過ぎる…
だから、誰かに騙さていないのか、心配になる…
「…五井記念病院に身を隠せ…」
と、誰かに言われて、身を隠したのならば、その誰かが、なにか、目的があるのかと、邪推したくなる…
そういうことだった…
ならば、どうするか?
考えた…
五井記念病院には、簡単に行ける…
が、
伸明のいる病室に辿りつくことは、できないだろう…
おそらく、伸明は、五井記念病院のVIPの病室にいるだろう…
いわゆるVIP席…
特別な病室に籠っているだろう…
だから、私が、五井記念病院に出向いても、そんな大層な病室に近寄ることは、できない…
だとしたら、どうする?
考えた…
すると、閃いた…
誰かの紹介だ…
誰かに紹介して、もらえれば、伸明に会える…
問題は、その誰かだ…
真っ先に、名前が浮かんだのは、諏訪野マミ…
伸明の妹だ…
が、
マミさんは、この前、
「…これ以上、五井に関わっては、危険…」
と、私に警告した…
だから、できない…
マミさんを頼ることは、できない…
なら、どうする?
どうすれば、いい?
誰を頼れば、いい?
考えた…
すると、あっけなく、一人の人物の名前が脳裏に浮かんだ…
長谷川センセイだ…
五井記念病院の私の担当医だ…
長谷川センセイならば、伸明のいる病室を知っているに違いない…
なにより、長谷川センセイは、五井記念病院に勤めている…
五井記念病院の勤務医だ…
だから、病院内部に詳しい…
そして、もう一つ…
長谷川センセイは、五井一族…
五井西家の出身だと、言っていた…
だから、適任…
私が、五井記念病院に行って、伸明に会うのに、案内してもらう人物として、適任…
これ以上ないほど、適任…
まさに、うってつけの人物だった…




