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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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寿綾乃という女 第4部 47

結局、あのキャスターの話が、本当になった…


 数日後、藤原ナオキが、突如、釈放されたのだ…


 ナオキは、弁護士が、保釈金と追徴課税を払って、留置所から、出た…


 私は、まさか? と、思った…


 まさか、こんなことが? と、思った…


 思わざるを得なかった…


 数日前までは、考えても、みたことのない展開だった…


 数日前までは、予想もつかない出来事だったからだ…


 と、気付いたのは、数日後…


 数日後=藤原ナオキが、釈放された当日だ…


 さすがに、当日までは、気付かなかった…


 たしかに、あのときは、あのキャスターの言葉を聞いて、


 …たしかに、あり得るかも?…


 と、思った…


 あのキャスターの話は、私が、聞いても、納得できたからだ…


 が、


 それと、現実に、ナオキが、釈放されたのは、わけが違った…


 あのとき、聞いたのは、あくまで、仮定の話だからだ…


 だから、違った…


 当たり前のことだ…


 が、


 これも、当たり前のことかも、しれないが、私は、ナオキの釈放を知ったのは、テレビやネットで、だった…


 だから、これは、一般人と同じ…


 藤原ナオキの釈放を、テレビやネットで、知った一般人と同じだった…


 なぜ、当たり前なのか?


 それは、私が、ナオキの妻でも、恋人でもなんでもないからだ…


 私が、ナオキの妻ならば、真っ先に、ナオキが、釈放される連絡が、事前に、警察から、やって来ただろう…


 あるいは、私が、誰もが知る、ナオキの恋人や愛人でも、同じ…


 同じだ…


 FK興産で、私が、ナオキと、いわゆる、男女の深い関係にあったことを、明白に知っているのは、古参の社員だけ…


 しかも、口の堅い古参の社員だけだった…


 私とナオキの関係を安易に、社内で、口にする社員は、ずっと前に、ナオキが、解雇していたからだ…


 だから、FK興産の社内で、私とナオキが、深い関係だったと知る、社員は、今では、数えるほど…


 両手の指の数にも、満たない数の人間だろう…


 いわゆる、口の軽い人間ほど、厄介なものは、いない…


 なんでも、見たこと、聞いたこと、すべてを、誰彼なく、しゃべってしまう…


 社内、社外問わず、しゃべってしまう…


 それでは、社内の機密事項など、大切な情報に触れさすことは、できない…


 だから、ナオキは、会社が、大きくなるにつれ、口の軽い社員を切って来た…


 当たり前のことだ…


 また、これは、ベンチャー企業にありがちなことだが、創業当時の社員より、会社が、大きくなるにつれ、社員の質が、向上したことも、大きい…


 最初は、いわゆる、野の者とも山の者とも、わからない、ちっぽけな会社だった…


 だから、どうしても、そこにいる、社員の質は、低い…


 しかし、会社が、大きくなるにつれ、社員の質が、大きく向上した…


 例えば、高卒でも採用したのが、大卒以上でないと、採用しないと、なったり…


 会社が、ちっぽけだったときは、募集をかけても、決して、集まらなかった優秀な人材が、集まり出した…


 つまりは、社員の質が、飛躍的に向上したのだ…


 これは、ちっぽけな会社が、大きくなるにつれ、よくあること…


 ありがちなことだ…


 だから、幸か不幸か、自然と社員も、新陳代謝が、起きる…


 新陳代謝=つまり、社員が、大幅に入れ替わる…


 創業当時の数年に集まった社員は、いつのまにか、ごく少数になった…


 はっきり言えば、会社に居づらくなったのだ…


 どんなバカな人間でも、少し、歳を取れば、自分と他人の差がわかってくる…


 例えば、高卒の偏差値50にも、満たない人間たちが、会社の主流のときは、いいが、そのうち、会社が、大きくなるにつれ、偏差値65とか、70の人間たちが、主流になる…


 そうすれば、誰でも、自分たちとの違いが、わかってくる…


 そして、人事部から、退職の勧奨ではないが、人事異動などで、本人に、不本意な職場に移動されたりして、なんとなく、居づらくなってくる…


 それゆえ、自発的に自分から、辞めざるを得なくなる…


 結果的に、社員が、入れ替わる…


 そういうことだ…


 これは、ソフトバンクや、楽天も同じ…


 いや、


 この二つの企業に限らず、ユニクロやニトリにしても、同じ…


 同じだ…


 小さな会社が、大きくなるにつれ、会社の知名度が上がり、その結果、社員の募集をかければ、それまで採用していた人間よりも、はるかに、優秀な人間が、やって来る…


 その結果、社員の質が上がり、古参の社員たちは、社内に、自分たちの身に置きどころがなくなってくる…


 そういうことだ…


 FK興産にしても、それは、同じ…


 例外ではなかった…


 これは、景気の良いときと、悪いときに入った社員もまた、同じ…


 景気が良い時に入った社員の質は、どうしても低い…


 景気がいいから、採用のハードルが下がるからだ…


 だから、本来、採用しないレベルの人間でも、採用する…


 これまで、大卒以上でなければ、採用しない会社が、高卒でも、OK、採用するというケースなど、その最たる例だろう…


 が、


 景気が悪くなれば、景気が良い時に、入った社員の多くが、首を切られる…


 景気が良かったときに、入社した社員のレベルが、低いからだ…


 景気がいいときは、それでも、採用したが、景気が、悪くなければ、必要ないと、考える…


 なにより、景気が悪くなれば、仕事が減って来る…


 仕事が、減れば、当たり前だが、社員が余る…


 社員の数ほど、仕事が、ない…


 結果的に、必要がない社員が、大量に発生し、解雇せざるを得なくなるということだ…


 そして、その必要がない社員というのが、景気がいいときに、入社した社員…


 バブル期に会社に入社した社員など、その典型だろう…


 また経営者としての藤原ナオキは、ボンクラでは、なかった…


 だから、能力のない人間は、容赦なく、切り捨てた…


 ナオキは、私に対しては、非情ではなかったが、ビジネスに関しては、非情だった…


 社員の首を切るのに、躊躇わなかった…


 だから、結果的に、私とナオキが、男女の関係だったと、FK興産内で、知る社員は、少ない…


 が、


 おそらく、噂では、知っている者も、多かったに違いない…


 が、


 証拠がない(笑)…


 聞いては、いるが、単なる噂レベル…


 そういうことかも、しれない…


 長々、私とナオキの社内での関係について、語ったが、要するに、私が、言いたいのは、だから、私に、ナオキが、釈放されても、なんの連絡も、来なかったと、言いたかった…


 仮に、私とナオキが、そんなに親しい関係だと知っていれば、ナオキの釈放を事前に会社内で、知れば、私に連絡が、来たに違いないからだ…


 だから、連絡が来なかった…


 そうとも、言える…


 なにより、私は、すでに、FK興産を退職した身…


 連絡が来るはずが、なかった…


 ナオキが、言うには、非常勤の取締役に、私を抜擢したというが、それは、あくまで、書類上…


 実際に、社内で、私が、非常勤の取締役になったのを、知っている者は、ごく少数の人間…


 口が堅い、取締役等のお偉いさんだけだ…

 

 一般の社員は、誰一人、知らないだろう…


 しかし、そんなことは、どうでもいい(笑)…


 私が、関心があったのは、誰が、ナオキの釈放の手続きをしたか、だ…


 私は、なにも、しなかった…


 いや、


 できなかったというのが、正しい…


 弁護士を手配して、留置所にいるナオキと、面会させて、今後の方針を決める…


 それは、癌持ちの私のカラダでは、無理…


 なにより、人脈がない…


 ネットを見れば、弁護士にアクセスは、誰でも、できるが、誰が、優秀な弁護士かは、わからない…


 だから、無理…


 できない…


 しかしながら、テレビのキャスターを務めた有名人の藤原ナオキは、拘置所から、釈放されて、


 「…今回は、ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした…」


 と、深々と、ナオキの釈放を報道する人間たちの前で、頭を下げた…


 藤原ナオキの釈放を報じるために、集まった大勢のマスコミの前で、頭を下げた…


 それから、ナオキは、用意したクルマで、どこかに、消えた…


 私は、その一部始終をテレビで、見た…


 ネットでも、見た…


 何度も何度も、繰り返し、見た…


 それゆえ、一つの謎が浮かんだ…


 一体、誰が、ナオキのために、弁護士を用意したか?


 一体、誰が、ナオキのために、釈放されたナオキを送る車を用意したか?


 その謎だ…


 私が、元気ならば、なんとか、ツテを探して、弁護士や、クルマを手配したかも、しれない…


 が、


 今の私の身では、無理…


 できない…


 なにより、私は、基本、家から、一歩も出ない生活だ…


 カラダの具合が、悪いからだ…


 だから、できない…


 しかしながら、今、ナオキは、拘置所から、釈放され、集まったマスコミの前で、頭を下げ、用意したクルマに乗って、マスコミの前から、走り去った…


 一体、誰が、それらをお膳立てした?


 それが、疑問だった…


 大きな、疑問だった…


 私が、秘書として、ナオキの身近にいれば、おそらく、それらは、私が手配した…


 私、寿綾乃が手配した…


 が、


 今は、誰が、手配したのか?


 まさか、ユリコ?


 とっさに、ユリコの名前が、脳裏に浮かんだ…


 ユリコならば、そんなことは、朝飯前だろう…


 簡単にできる…


 いや、


 ここで、ユリコの名前を出すのは、おかしい…


 なぜって、ユリコは、社外の人間…


 FK興産の人間ではないからだ…


 だから、最初に考えるのは、やはり、社内の人間…


 FK興産の人間だ…


 が、


 仮に社内の人間ならば、誰が、そんな手配をしたのか?


 そんなことのできる人物の名前が、まったく思い浮かばない…


 なぜなら、そんなことは、これまでは、すべて、社長秘書である、この私が、していたからだ…


 この私、寿綾乃がしていたからだ…


 だから、私に代わって、社内で、そんな手配をする人物が、誰か、思い浮かばない…


 それとも、社外の人間?


 そうとも、考えられる…


 そして、もし、そうならば、考えられるのは、五井?


 五井=諏訪野伸明?


 そんなはずはないと、思いつつも、伸明以外、思い浮かばなかった…


 そして、なにより、伸明ならば、弁護士も簡単に手配できるだろう…


 五井の力で、簡単に手配できるだろう…


 諏訪野伸明は、五井家当主…


 私やナオキでは、到底知りえない人脈を持っていることは、容易に想像できる…


 拘置所にいる、ナオキに弁護士を派遣して、ナオキの相談相手になり、今後のことを、相談させる…


 そんなことは、朝飯前に違いない…


 だとすれば、やはり、伸明…


 諏訪野伸明が、手配したのだろうか?


 弁護士もクルマも、その他諸々の手配をしたのだろうか?


 私は、考えた…


 それとも、罪滅ぼし?


 金を貸した一方は、追徴課税で、終わり、金を借りた方は、脱税で、逮捕された…


 その罪滅ぼし?


 そうとも、言える…


 そうとも、考えられる…


 が、


 その証拠はない…


 確たる証拠は、ない…


 なにより、情報が、ない…


 情報が、まるで、ない…


 だから、これは、妄想…


 単なる私の妄想に過ぎない…


 私、寿綾乃の妄想に過ぎない…


 が、


 その妄想を止めることが、できない…


 誰が、ナオキの弁護士その他諸々のことを、手配したのか?


 それを、考えるのを、止めることは、できない…


 私の頭の中は、さながら、メリーゴーランド…


 グルグルと、回り続けた…


 答えの出ないことを、考え続けた…


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